見出し画像

2022年J2第20節横浜FC-東京ヴェルディ「さぁ前を向こうか」

涙をこぼしながらゴール裏に駆け付けた杉本の姿を見て驚いた。舞台の上では役者であり続けるそんなイメージを持っていた。私は彼が試合終了後にフィールドに出てきて挨拶をしないとすら考えていた。
試合では東京ヴェルディの選手であり、あの激しいプレーも眉をひそめたくなるがそれは横浜が古巣の選手で人一倍違う思いがあるのはなんとなく理解はしていた。
その位熱い男なのである。味方になれば熱く、敵になればまた熱く。不器用かもしれないけど、私は嫌いじゃない。だからその役者っぷりから、敢えてヒールを貫くと考えていた。
泣いている。その涙の理由は本人にしかわからないけど、一昨年から昨年のふがいないプレーを気にしてサポーターに顔向けできないと考えていたなら大したものだが、そうであればそろそろ前を向こうと言いたい。降格したのは彼だけの責任ではないのだ。むしろ東京Vの選手である以上、未だ感傷に浸るのは良くないだろう。それでも笛が鳴った後にだけ見せた鬼の目にも涙だったのかもしれない。そうしておこう。

由縁

その杉本に小池、横浜は和田に山下。それぞれ対戦相手に所属経験のある所謂古巣との対戦となった。東京ヴェルディとの由縁は1999年JFLに参戦した時から。宇宙開発の増田功作がいて、重田征紀がいた。大石は正ゴールキーパーだったし、薮田もセカンドトップとして抜群の動きを見せた。小野信義は前所属こそガンバ大阪だったが元東京ヴェルディだった。高木成太も朴訥したキャラクターながら中盤の展開力は非凡だった。当時のチームの主力は東京ヴェルディ出身が多く、そのメンバーの多くが指導者となり横浜を支えてる。増田は20年までトップチームのコーチで、小野や重田、薮田は育成組織にいる。青い血の中にはわずかに緑の血も含まれているのが横浜である。
逆に、遠藤や水原らは活躍が認められて東京ヴェルディに移籍。その後も高木のレンタル移籍や岩倉、吉田と移籍が続き人材交流は非常に活発。2018年プレーオフで敗れた直後には、そのプレーオフに出場していた永田も東京ヴェルディに移籍している。

右コーナーキックの呪縛

そう、そのプレーオフから続いてるのが右コーナーキックのトラウマ。2018年のJ1昇格プレーオフの後半アディショナルタイム。東京ヴェルディの右コーナーキックをGK上福元(現京都)に触られ、ドゥグラス・ヴィエイラに押し込まれ失点。守り切れば横浜が先に進めたはずの最後のプレーで失点し、2018年J1昇格の夢が潰えたあの試合。

この日もあの日に続き右コーナーキックから東京ヴェルディ・平にヘディングを許して後半9分に失点。4年前を思い出すには十分なゴールだった。東京V戦の三ッ沢アウェイ側右コーナーには何が降臨しているのだろうか。

そう思った矢先、直後のキックオフのボールをガブリエウがロングフィード。サウロ・ミネイロが競ってこぼれたボールを拾ったイサカ・ゼインが放ったミドルシュートは東京ヴェルディゴールに突き刺さる。右コーナーキックからの失点で終わりではなく、それを取り返す姿勢。この日のメンバーで4年前のあのゲームのフィールドに立っていた者はいない。過去を知らないから執着することもない。勝ちたいからゴールを奪う。それだけだった。

4-4-2

後半横浜はシステムを指示して変えたのか、自然と対応する中でそうなったのか4-4-2に近い形で守備に入ることでバランスが良くなった。サウロ・ミネイロと小川の2トップ、長谷川を左MFに回すことで前線からプレスがかかるようになる。東京Vの3バックの右側に追い出したところに長谷川が詰め、そこをハイネルが回収。亀川は外に張り出す小池と対面させて彼の持ち味の鋭い突破を消す。効率的なボール奪取からショートカウンターに近い形で相手ゴールに迫る。
ゼインはゴールした後何度もゴールに迫った。サウロ・ミネイロに決定的なクロスをいれたと思えば、もう一度抑えの効いたミドルシュートを放ってゴールを脅かす。

山下が交代で準備。チームとしては彼と山下の交代がシナリオ通りなのだろうが、この日のゼインは段々と動きが良くなっていたので、残す選択肢もあったはずだが、当初の想定通りゼインが退いた。

東京ヴェルディも3バック気味のビルドアップが狙われていることを察して、システムを変更して4バックにしながら前線をフレッシュな選手に入れ替えた。横浜は、前線のサウロ・ミネイロを下げて渡邊、長谷川を下げて松浦を入れたが機能せず。4-4-2で渡邊と小川ではプレーの選択や方向性が近く、スピード感に欠けてしまう。守備固めならまだ理解できる部分もあるが、1-1の展開ではやや重くなってしまった。松浦をサイドに置いたが、長谷川の様にサイドにボールが入った時に積極的に捕まえに行く訳ではなく、中央のスペースを使われ始めてしまう。ボールを握りたかったにしては、サイドでは距離感が悪く松浦のパスで切り崩すセンスや突破するスキルが発揮できない。和田を入れたが、ハイネルがサイドのスペースをカバーする為に中央ががら空きとなりボールを奪われ続けてしまった。

終盤は東京ヴェルディに振り回されてしまいピンチの連続。ピンチをGKブローダーセンのセービングで凌ぐ。
後半アディショナルタイムにはガブリエウのヘディングシュートもあったが枠を捉えきれず。

そのまま試合は1-1で終了。前日に新潟が引き分けて、この日仙台が敗れていた為勝てば首位奪取のチャンスでもあったが、勝ち点1を積み上げるに留まり勝ち点39で3チームが並び得失点差で3位となった。

後半チャンスも増え、決定機もあったがそこで仕留めきれなかった。後ろを振り返っても仕方ない。この先、天皇杯の先に金沢、仙台、新潟との試合がある。リーグ中盤の天王山。仙台、新潟との首位決戦。厳しい連戦になるが、それでも前を向きたい。
イサカ・ゼインが交代でベンチに戻る時、悔しさを秘めながらもフィールドの脇でチームに檄を飛ばしていた。ポジション争い、結果、評価はあるが、昇格を見据えて選手は戦っている。
サポーターが下を向いても仕方ない。選手の顔を上げさせるなら、まず自分たちから。悔しいのは皆同じ。さぁ、前を向こうか。ここで終わりじゃない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?