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2023年ルヴァンカップグループステージ第5節横浜FC-サンフレッチェ広島「突き上げ感」

サッカー経験者あるあるかもしれない。スパイクを履いた時の独特の突き上げ感は慣れないものがある。ポイントの上に板を置いてそれを踏んでるあの感じは苦手だった。
ただ、何度も履いて脚に馴染んでくるといくらか低減していく。馴染みすぎるとグリップ感は悪くなるし、突き上げ感が強いと脚を痛めてしまう。適度な突き上げ感は必要なのかもしれない。

ギラギラしている

スタメンが発表になり、どんなシステムで臨むかと思ったら本来ミッドフィルダーの宇田が3バックの左で起用。同じようにボランチのユーリララもセンターバックの右での起用とシステムもリーグ戦で2連勝しているシステムに寄せつつ、台所事情の苦しさも窺わせた。
その左サイドを狙われたのは、宇田の問題だけではないだろうが、ここで経験が足りないと思われたのか、宇田と広島・森島がマッチアップしたりと中々苦しい。彼も相手を剥がそうと自分の色を出そうとすると狙われてピンチを作られる。本職でなく、高卒ルーキーがJ1でも上位の広島相手に守勢になるのは想定の範囲内といえば範囲内。

この苦境で奮闘したのが高井だった。攻撃センスの高さは抜群でFWもシャドーもそしてサイドも経験している、文字通り攻撃のスペシャリスト。その彼がこの日はボランチで初スタメンだった。時折奪ったボールの運び方が迷子になるシーンもあったが、総じて彼がボールを運んで推進していた。攻撃のセンスが高いから剥がし方、散らし方、踏ん張るところの勘所をしっかり押さえていて、彼をもしボランチ起用で目途が立つなら次の試合からでも即ベンチに入れておきたい位の活躍だった。タフでいて、良い意味でギラギラしている。もう一つ前で攻撃センスを見てみたい半面、ボランチの位置だからこそスライドで足を消耗せず、馬力の良さが出ているのかもしれない。

もう一人ギラギラしている

高井の良さがわかったところで、もう一人ギラギラしていたのは永井である。彼は今シーズンの横浜のリーグ開幕戦のスタメンGK。足元の技術の高さを買われて、ポゼッションサッカーを志向したチームの守護神となるはずだったが、チームは低調なまま結果を残せず、彼自身も春先の京都戦で足首を負傷して長期離脱。その離脱している間に、ブローダーセンの復帰、そしてシステム変更により、チームは上昇気流に乗りリーグ戦は2連勝、5月に入ってからは4戦3勝。ポジションを失った形の永井だったが、この試合でも気合の入りようは見てわかった。

確かに開幕戦となった名古屋戦でコーナーキックをパンチングで逃れようとしたのを空振りし名古屋・ユンカーに決められて失点する大きなミスは犯したが、勝てない中でも孤軍奮闘でよいセービングを見せていただけに、負傷離脱は本人にとっては怪我以上にポジションを明け渡してしまったのは痛かっただろう。もう一度ポジションを奪うべく果敢な飛び出しからのセーブを見せたり、広島・佐々木と腕を交錯しながらもゴールマウスを死守。
ヒアンへのロングボールを蹴ったり、広島に隙があるとみて左右のスペースを使ってボールを入れたりと足元の技術の高さを見ることはできた。

さらにもう一人ギラギラしている

今シーズン公式戦初出場となったのが、横浜のユース出身のヴァンイヤーデン・ショーン。長身で過去U20日本代表候補合宿にも召集経験のある彼が、広島のFW陣とどこまで戦えるかは、このゲームのみならず来年再来年と横浜の屋台骨を支えていくであろう彼の今後の試金石にもなる。

驚くことに彼と対峙した広島ドゥグラス・ヴィエイラをほぼ完封。中央にボールを入れても起点を作れない広島の攻撃は次第に散発的になっていく。特にチームの運動量が多かった前半は広島に攻め込まれても中央で跳ね返す余裕があった。センターラインが安定しているチームは大きく崩れない強さを見せた。

チームを突き上げる

前半29分には坂本の蹴ったフリーキックをユーリ・ララがヘディングで広島ゴールを陥れて横浜が先制。ターンオーバーでリーグ戦から先発を全員入れ替えた横浜がリードする展開になるのだからサッカーは面白い。

後半広島は選手交代で圧力をかけて横浜は守る展開が続く。広島・川村と松本のシュートはポストに嫌われ横浜はゴールを逃れた。横浜は小川慶が右のウィングバックに入ったのは今後のリーグ戦を見据えてのメンバー入り、起用だろうか。

マテウス、新井、そして高塩の途中出場とこれまた今後を見据えた采配。マテウスは確実にリーグ戦へのテストだろう。新井は2シャドーでのポジション争い、高塩は経験を積ませている。5人目のカードを切らなかったのはリードしている展開で動いてバランスが崩れるのを嫌がったからと推測できる。清水を入れて守備強度が下がるのを考えると、勝っているのにやや替えすぎと考えたのかもしれない。

ゲームはそのまま1-0で横浜の勝利。ルヴァンカップ初勝利。公式戦でいえば3連勝。今月は5戦で4勝。ターンオーバーして、スタメンクラスの広島を破ってしまった。4月まで未勝利だったクラブが、いまや今Jリーグのクラブの中で最も調子のよいクラブの一つになっている。

ルヴァンカップはすでに敗退が決まっているので、完全にチームの底上げの場と割り切ればよい。そうした狙いはなかなかうまくいかないのだが、このゲームにおいてはそれが思い通りになった。ここ数戦、対戦相手のチームはどこも低く設定したラインとブロックを崩せずに攻めあぐねるシーンが多い。スピードダウンして横パスを繰り返し、縦パスには選手が殺到して跳ね返される。チームとして良い戦いができている。決して強者の戦いではないが、そもそも横浜はまだ強者ではない。

リーグ戦に絡んでいない選手が、こうして突き上げることでチームはまた競争が生まれる。実際に公式戦の場で広島を倒したことは大きな評価になる。チーム内で突き上げを起こして、リーグ戦でも突き上げを起こす。Jリーグの開幕から約3か月、やっと馴染んで良い履き心地になってきた頃だろう。地に足がついた良いグリップ感が得られる時。

今月はリーグ戦で3勝してもまだ16位。J1リーグの下位は団子状態といわれながらも、上げた順位は2つ。まだまだ突き上げられる。この突き上げ感、嫌いじゃない。

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