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⑤破局と報い

幸せいっぱいの旅行を終え、初めての休日
私は家でゆっくり過ごしていた。

そこに、携帯に着信が入る。

Aさんだけ着信音を変えていたのですぐにわかる。

休みだけど、今日も会えるかも!!!

『もしもし?もしかして家に来れるの?』

期待で声を弾ませて電話に出る。


しかし、期待していた答えとは真逆で
全てを終わらせる言葉が発せられた。




「婚約者の彼女にすべてばれた」


一瞬にして血の気が引いた。


いつかは来ると思っていた現実。


隠し事は、いつかバレる。


覚悟はしていたつもりでも、足りていなかった。


さらに追い打ちをかけるようにAさんは続けた。




「婚約者の両親と、うちの両親が集まって話をしている。
そこに、申し訳ないが澪も呼んで欲しいと言われたから来て欲しい」




完全ど修羅場の幕開けだ




混乱と不安と多少の覚悟で
その時はもう、逃げられないと
Aさんに言われるまま、
私は準備をして、指定の場所へ向かった。



着いた先はAさんの実家


震える手でインターホンを鳴らすと

真っ青な顔のAさんが私を迎え入れた。


通されたリビングには、Aさんの両親

婚約者の両親、そして

Aさんの婚約者の女性がいた。


顔が直視できず、私はただただ俯き
Aさんも横に座った。


ここはあまり覚えていない。
座ってすぐに謝罪の言葉のべ、色々と質問攻めにされた気がする。

何分たっただろうか

突然、それまで沈黙していた婚約者が私めがけて携帯を投げてきた。



転がった携帯の画面からが見えた。



私とAさんの行為中の写真だった。



撮られていたことにまず驚いたし、
それを他人に見られたことに
とても恥ずかしくなった。


そこからは婚約者からの罵倒が続いた



「身体が目当てだったのに調子に乗るな」

「毎日やってたなんて気色悪い」

「若いだけで綺麗でもない女のくせに」

「よりによってなんで私よりブスな女とやったのか」

「人のものに手を出して何様だ」



何度も何度も同じ言葉で詰られた。

確かに、婚約者は怒りで歪んではいたものの
綺麗な顔立ちをしていた。

Aさんが私を庇おうとすると、
Aさんにも罵声を浴びせ続けた。


私はずっと下を向き、『申し訳ありませんでした』と謝り続けた。



ふと、婚約者の父親と思われる男性が口を開いた


「それで、Aくんはこの後のことをどうするつもりなんだ」



ここでも私はまだ期待を捨ててはいなかった。


バレたことによって、Aさんと婚約者が破局する可能性だってある。


人の不幸を祈って自分の幸せを掴もうだなんて

最低な思考だったが

婚約者と別れて、澪と付き合うと
一言言ってくれるのではないかとほんの少し期待していた

しかし、その期待は、婚約者の言葉ですぐに崩れ去った。







「Aの意見なんて通るわけないでしょ?

Aとは絶対に別れません。別れたらそこの女の思う壺だもの。

Aとは明日籍を入れます。

その後ももし会うことがあったら慰謝料を請求してやる。

なんなら婚約中の今だって慰謝料を取れるんだから!払いなさいよ!

Aとも二度と会うな、近づくな!」



双方の両親は、籍を入れるのはもう少し考えた方がと止めたが

「あの女に取られるくらいなら、Aには私の元で一生罪を償ってもらう自由になんてしてやらない」


そう言って私の元へズカズカと近寄り
私の髪の毛を掴んで引きずった。

ブチブチという音と、激痛の中Aさんがやめろ!と婚約者を止めようとしたが


「この女を庇ってんじゃないわよ!!私より長い髪がむかつく!!」と大声を出し

ハサミで私の髪を切った。



なんとか婚約者の両親が止めに入り、
ここに私がいると、婚約者が興奮して話にならないから、もう2人は二度と会わないことをキツく言われ、帰るように即された。



ボロボロのまま、私は家に帰り

すべて失ったことに絶望した。


月曜日はとても会社に行く気になれず、休んだ。
それに会社にもしられているかもしれない
このまま会社も辞めることになるのか
そうしたら親にもバレてしまう
これからどうやって生きていこう…

そんなことを考えていると、携帯が鳴った。



Aさんかもしれない!



すぐに携帯を開くと、そこには公衆電話の文字

婚約者からかもしれない…
恐る恐る電話に出る







「澪ちゃん…?大丈夫?ごめんね、本当にごめんね…」



震えるような声のAさんからだった。



私は泣きながらAさんに、あの後どうだったか
今後どうしたらいいかを聞いた。


Aさんから話されたのは下記だった。


・Aさんと婚約者は翌日に籍を入れた

・Aさんは今日会社に辞表を出し、婚約者の父親(自営業)の

会社に転職し、毎日婚約者一族に監視されながら仕事をする事になった

・携帯は没収され、GPS機能の追加と、電話の発信履歴がすべて婚約者に通知されるように設定された

・一昨日も、昨日も、一睡もせずに尋問され続けている

・会社には今回の事は伏せる代わりに、髪を切ったことは警察には言わないでほしい


とのことだった。


髪の毛を切られたこと、全員敵だらけのあの場所へ来たこと、Aさんは本当にごめん、と何度も謝った。


本当なら、Aさんを憎むのかもしれないが
私にとって本当に心から好きになった初めての人だったため
最後まで、憎むことはできなかった。

代わりに、もう二度と会えないのが本当に本当に辛かった。


しかし、報いは受けなければならない。


ボロボロにされた髪の毛、彼と二度と会えなくなった現実


その二つを罰だと思い
私とAさんとの恋愛は幕を閉じた。

つづく

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