⑧新たな沼
Cくんのことは別に好きとか思ったことはなかった。
近所のお兄ちゃんって位の印象。
なので
【運命の再会…!!】
なんて事はい1㎜も思わなかった。
【世間って案外狭いよね~】くらい。
さて、何はともあれ20年ぶりに再会した私たち。
偶然は重なるもので、勤務先も近く、住まいも最寄り駅が同じだった。
再会を記念して、今度飲みに行こうと連絡先を交換した。
そこからは何度か2人で飲みに行った。
連絡も本当たわいもない内容を程よい距離感で。
相変わらず、“面倒見のいいお兄ちゃん”なCくんだった。
私はすっかり安心していたんだろう
男は所詮
男なんだってことに。
ある日の金曜日。
私は会社の飲み会に出席していた。
盛り上がり、2次会、3次会と流れていく。
終電はもうなくなる時間になり
タクシーで帰るしかないか…
そう思っているところに、Cくんから連絡が入る。
「“澪ちゃん、今日飲み会って言ってたけどもう帰った?”」
私は、帰り損ねて終電は諦めた事を伝えた。
「“俺も今日飲み会で同じ状況!笑 タクシー乗るなら一緒に乗ろうよ~”」
タクシー代を割り勘できるのはラッキー!
私は勿論OKした。
そして、「“俺は駅前で飲んでるから、終わったら連絡して!時間は気にしなくていいよ~”」
と来たが、さすがに待たせるのはと思い3次会で私は帰ることにした。
駅に近づき、Cくんに近くにいることを伝えるとすぐに電話が来た。
「お疲れ様!早いね、ごめんね、せかしちゃったか」
『私ももう帰ろうと思っていたから、大丈夫だよ』
相変わらず優しいな、Cくんは。
そう思っていると、Cくんが申し訳なさそうに言ってきた。
「澪ちゃん、悪いんだけどさ俺監事で全然食べれてなくて、ちょっとだけでいいから付き合ってくれない?」
丁度小腹が減ってきた私
『全然いいよ、私もお茶漬けでも食べようかな』
「よし、じゃあ行こうか」
そんな会話をして、手ごろなお店に入り
私はお茶漬け、Cくんはからあげと焼きそばを頼んだ。
お腹もいっぱいになった所で帰ろうかとタクシー乗り場へ向かうと
なんとものすごい行列ができていた。
いつもより5倍近い行列だ。
どうやら近くでアイドルのコンサートがあったようで、グッズやキャリーケースを引いた女の子達で溢れていた。
「『どうしよっか…笑』」
行列に並ぶのはもう諦めよう。
私たちはそう言って始発までカラオケに行くことにした。
Cくんは歌もうまかった。
低音ボイスなのにちゃんと高音も出る。
私は次々とうたって欲しい曲をリクエストした。
Cくんは喜んで歌ってくれたし、分からない曲は一緒に歌ったりした。
私が歌うとCくんは褒めてくれて、とても盛り上げてくれた。
2人で、明日の土曜日はもう1日寝て過ごそうと腹を括りトコトン遊ぶことにした。
沢山飲んで、沢山歌って、沢山話して
あっという間に時間は過ぎていった。
そしてもうそろそろ始発も動き出す時間にとなり
再び外に出る。
流石に眠さが限界だ。
帰れるという安心感も出たのだろう
急激に眠気が襲ってきた。
ふらふらと歩く私をCくんが支えてくれた。
「澪ちゃん、大丈夫?眠いよね、ごめんな付き合わせて」
別にCくんが謝ることじゃないのに優しいな~
なんて思っているがもう眠気は限界。
Cくんにすっかり寄りかかってしまった。
Cくんは私を支えながら近くのベンチに座る。
私のことを気にかけてくれてるな~
優しいな~ごめんね、少ししたら起きるから…
そう思っていると、突然何かが私の唇に触れた
ん?
今、Cくん
私にキスした?
驚きで目をあけると、目の前にC君の顔があった。
「目、覚めた?」
そう言って再びキスしようと近づいてくる。
驚きと、眠気と、まだ酔っている頭で必死に考えたが
【キス、嫌じゃなかったな…】
Bさんの時は嫌で仕方なかったキスが
平気だったな。
そんな気持ちがぼんやりと頭をめぐる。
【もう1回…してみよう】
私はもう1度、Cさんとキスをする。
今度は、私からも返してみた。
Cくんはちょっと驚きながら、でも止めることはなく
私に応えてくれた。
寝不足の頭、まだ残っているお酒、そして久しぶりの高揚感に包まれながら
私たちは何度も何度もキスをした。
つづく
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