見出し画像

⑭嬉しいサプライズ


Dくんから鎮痛剤を貰った次の日。

私はDくんのデスクにコーヒーを持って向かった。
お礼を伝える為に。

『昨日は本当にありがとう』

黙々とPCに向かっていたDくんは、ちょっと驚いたように目を丸くして私を見た。

「ああ、わざわざ良いのに…すみません」

そう言って私からコーヒーを受け取る。
そして、時計とPCを交互に見たあとに

「ちょっと休憩行きません?」

Dくんに誘われて私たちは
リフレッシュルームに行った。





「何飲みます?」

『いや、自分で買うよ!さっきのお礼の意味なくなっちゃう』

「ここに誘ったのは僕なんで」

そう言って小銭を自販機に入れるDくん。

何度か断ったが譲らないので
私は諦めてコーヒーのボタンを押した。

そこからはなんてことない会話をした。

もうすぐ夏休みなので
実家には帰省するのかとか
地元はどこで、休日は何をしているのか
恋人はいるか…等



「自分はいないっすね」

『私もいない』

「お互い、寂しい夏になりそうですね」


そう言ってDくんは少し意地悪そうに笑った。
普段無口なDくんとは思えないほど会話が弾んだ。
そして不意に

「再来週の●日の土曜日空いてます?
仲いい人たちと海に行くんですけど良かったら澪さんも行きませんか?」

突然Dくんに遊びに誘われた。



凄く驚いたし、嬉しかった。

正直、夏の海は暑いし
日に焼けるのであまり気は進まなかった。

しかしDくんとプライベートで会えるなんて
またとない機会。

逃すわけにはいかない。

私は二つ返事でOKした。



丁度その日の夜、友人数人と会う約束があったので
そのことを報告した。

「澪が年下なんて珍しい!」
「遊びに誘われるって事は好意はありそうじゃない?」
「そこからさらに2人で遊ぶ仲になりたいよね」


30を過ぎても女は恋愛話が大好き

これ鉄則。
あーだこーだと盛り上がっていると
一人この展開が面白くなさそうな人物が口を開いた。


「っていうかさー年下と言ったら私なのに
澪も年下好きになったら被っちゃうじゃん!!」

「年下なら私に回すか、その人の友達紹介してよ!」

はい、出ました。
梨乃です。


相変わらずの自分中心恋愛体質発言。

年下と言ったら私って…
まあ…梨乃なら言うかと思っていたが。

『梨乃とは好みが真逆だから被らないでしょ』

そう言って適当に流しておいた。

しかしその後も

「ババアなんだから無駄に露出とかしないようにしなよー?イタいからねw」
「前の日は早く寝なよ!寝不足顔で海なんてババア丸出しになるよーw」
「年下と遊ぶからってはしゃぎ過ぎない方がいいからね!」

と梨乃はいらぬアドバイスを沢山くれた。

本人は年のことを言われると不機嫌になるのに
人の事は平気でババアと言う。
同い年やろが。

数年前までは
自分の事を【梨乃は~♪】と名前で言っていた
イタい女は自分だろうが。

梨乃の前でDくんの話題はなるべくしないようにしよう。
私は心に決め、その後は梨乃が最近遊んでいる男の話に持って行った。


そして、海当日。


私のマンションまでDくんが迎えに来てくれる事になっていた。
先輩と後輩を乗せて、私が最後だと言っていた。
持ち物と化粧を再確認していると携帯が鳴った。

「もう少しで着きます」

私は急いで荷物をもって
マンションの前まで下りて行った。

Dくんの車が近づいてくる。
大きなSUV車だ。


「おはようございます。荷物後ろに積むので貸してください」

そう言ってDくんが車の後部座席をあけた。

乗っている人にあいさつをしようと思い
覗き込んだが



誰も乗っていない。



『あれ?先輩と後輩は?』

「それが、先輩は休日出勤で後輩は風邪ひいたらしくて」

『あ、そうなの?あとは誰か来るの?』

「いえ、二人だけですが」

『ええ!?2人??』

「駄目でした?」

『あ…いや、大丈夫…』



なんという急展開。

焦った私は、昨日のグループにLINEを送る。


“先輩後輩来ず、まさかの2人”


‘なにそれ計画的犯行!?’
‘二人っきりで海とか!’
‘本当なのかウソなのか気になる!'

と大盛り上がり。
梨乃は既読無視だった。

確かに私も色々と妄想した。

本当に急なキャンセルだったのか
最初から先輩も後輩も来る予定ではなかったのか
私が行くから、遠慮してもらったのか――――――――等

拗らせ女は自分に有利な妄想が得意だ。


涼しい顔で海へと車を走らせるDくんの気持ちはわからないまま

を私は緊張しながらも
この急展開に心弾ませていた。



つづく


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?