見出し画像

ドイツ在住 独日ファミリーの山口県滞在記(山口県山口市・長門市)

*こちらの作者はドイツ在住 Kさんファミリーです。 このレポート末尾には、Kさん夫の英語レポートもあります。

   滞在時期:2019年10月9日~10月15日
2019年10月に、おかえりハウス代表の武田さんのご紹介、および東芝国際交流財団さまと一般社団法人おんなたちの古民家さまのご支援で、家族で山口県を訪問する機会をいただきました。私たちは4人家族(南ドイツの州出身の夫、ベルリン生まれの長女9歳、次女6歳、私)で、ベルリンをぐるりと取り巻くブランデンブルグ州に住んでいます。

山口県を訪れるのは、家族は皆初めて、私自身は1度だけ錦帯橋に行ったことがありましたが、宿泊も含めた滞在はしたことがありませんでした。行く前からとても楽しみで、観光のウェブサイトやブログなどを読んでいました。

今回、東芝国際交流財団のご紹介により、山口市に所在する2つの古民家に宿泊させて頂きました。古民家を管理・運営していらっしゃるのは、一般社団法人「おんなたちの古民家」です。創設者であり、代表を務めていらっしゃる松浦奈津子さんは、ご自身が古民家鑑定士の資格をお持ちで、その他にも地元に密着した幾つかのプロジェクトを起ち上げられた実業家、そして大学院生でもあるという、様々なお顔をお持ちです。そうした彼女の多才ぶりかつ多様な活動の根っこはただ一つ、先人の技術や知恵の遺産である古民家の再生や地域創生など、地元山口県を心から愛する気持ちであるようです。松浦さんのご厚意とご協力により、家族一同、山口県でかけがえのない経験をさせていただきました。山口

図1: 山口県地図とおかえりハウスプロジェクトで訪問した場所

 山口市湯田温泉 (10月9日~10日)
最初に宿泊した「鸞家(らんま)」という古民家は、山口市の湯田温泉という温泉街の一角に1943年に建設された、たおやかな趣のある古民家でした。お家は、名匠山本隆章(数寄屋師)棟梁が造られた茶室(&水屋)を備え、上がり間、中の間、二間続きのお座敷、檜風呂、お手洗い2つ、機能的に改装された台所、縁側などがある伝統的な建築の日本家屋です。お家にも風情ある檜風呂があったのですが、折角湯田温泉に来たからと、自家源泉のある山水園という旅館へ入浴だけしに伺いました。私以外の家族にとっては初めての温泉体験で、露天風呂に入って星空を眺めたり、(温泉の湯が)熱い熱いと大騒ぎしたり、楽しい経験をさせてもらいました。鸞家は通常、一日一組限定の紹介制料亭として利用されています。温泉の後は鸞家のお座敷で地元の美味しい食材を使った夕食を頂きました。

図2: とびらの写真:鸞家の縁側に腰かけて

夕食で、「田楽庵」(次に伺う古民家)のある地域、徳佐で収穫された新米を頂きました。普段はフリカケなどなしで白いご飯を食べるのは苦手な子どもたちですが、徳佐のお米があまりに美味しくて、ご飯を3杯もお代わりしておかずもなしで食べていました。そう言う私も、お米があまりに美味しくて、翌日には早速購入しました。

松浦さんに山口の様々な見所を教えていただき、翌日は美祢市にあるカルスト台地の秋吉台とその地下にある秋吉洞(鍾乳洞)を見学しました。鍾乳洞の見学も、家族は初体験です。澄んだ水が流れる小川を辿ると、鍾乳洞の暗い入り口が・・・。子どもたちは入る前はちょっとドキドキしたようです。中の観光ルートは1㎞ほど続き、所々に押しボタン式音声ガイドの機械もあります。気の遠くなるような長い時間をかけて形成された迫力ある自然造形の中にいると、自分たちが生きている時間の短さ、自然の壮大さについて思いを巡らせるばかりでした。

画像2

図3:秋吉洞入り口: 橋の先、左の方が鍾乳洞の入り口

画像15

図4:鍾乳洞内部

カルスト台地・秋吉台では、地表面に突き出る石灰岩柱や背の高いススキの群生する様子が印象的な遊歩道を1時間ほど散策しました。こうした地形の中を散歩するのも家族にとっては初めての経験でしたし、草原の中で鳴く初秋の虫の声に耳を傾け、ドイツに比べるとかなり大きいバッタ(日本の普通大きさのバッタ)にも子どもたちはびっくりしながらの楽しい散歩となりました。夕方、2軒目の古民家「田楽庵」へ移動しました。

画像4

図5:秋吉台展望台からカルスト台地を望む

画像5

図6:秋吉台散策

 田楽庵 山口市阿東町徳佐(10月10日~12日)
2軒目への移動で、山口市の面積は自分が思っていたより随分大きいということが分かりました。新幹線新山口駅を起点にし、国道9号線を約50㎞津和野方面へ向かって真っ直ぐ車で走ると、田楽庵がある阿東町徳佐に到着します。余談になりますが、新山口⇔津和野は、蒸気機関車「SLやまぐち号」が運航しており、古民家のある徳佐(駅)にも停車するようです。今回は残念ながら乗られなかったのですが、もし次回来ることがあれば是非乗ってみたいと思っています。徳佐から島根県の津和野までは車で15分程です。前述のSLでも行けます。明治の文豪でベルリンとも関係の深い森鴎外の出身地まで足を延ばしてみるのもよいかもしれません。

さて、田楽庵は鸞家よりもさらに古く、築400年の酒蔵を200年前に移築して建てられた古民家だそうです。その後、おんなたちの古民家の活動により、2013年にリノベーションされて素敵に甦りました。400年前から屋根を支えるずっしりとした太い梁は黒っぽい色で、それらと白い壁とがコントラストをなしていて、古いのにモダンな雰囲気を醸し出しています。リノベーションは、日本家屋の良さを残しつつ、使い易く綺麗に改装されています。伝統的な「田の字型」のお座敷の間取り(4部屋中の1部屋は家を支えるために壁を入れたので、現在区切られています)、土間、囲炉裏、雪見障子、檜風呂(外には露天風呂も有)、縁側など、現代ではそれほど頻繁には目にしない日本家屋の建築の特徴を有しています。田楽庵の周囲には、田んぼや山があり、屋内のひと部屋には、バーカウンターのようなハイテーブルとハイチェアがあり、座って外の田んぼや山の景色を眺められるようになっています。インテリア小物も凝っており、松浦さんのお父様が、蔓と和紙を使って丁寧にセンス良く手作りされたランプが所々に置かれ、素敵な和の雰囲気を醸し出しています。

画像9

図7:ずっしりと重厚な雰囲気のある田楽庵(山口市阿東町徳佐)

画像15

図8:田楽庵:囲炉裏とその上の400年前の建築から使われている梁

画像8

図9:田楽庵:雪見障子のあるお座敷 右のランプは松浦さんのお父様の手作り

田楽庵の周りは、苔生した神社、田んぼ、山々など、「となりのトトロ」に出てくるような風景で、ねこバスでも出て来る(?)と思えるような趣のある地域でした。家の周りの散歩も、日本の里山風景が珍しい子どもたちには楽しかったようです。後日「日本で一番楽しかった思い出は何だった?」と聞かれた時、長女は「お家(田楽庵)の周りの散歩」だと答えていました。

画像11

図10:田楽庵の周囲の散歩:山や田んぼの中で子どもたちには発見が一杯

田楽庵では自炊でした。車で5分ほどの国道9号線沿いにスーパー、コンビニ、コインランドリーがあります。夕食は徳佐のお米(!)で美味しいご飯を炊いていただきました。

滞在中、松浦さんお勧めの果樹園へリンゴ狩りに行きました。徳佐はお米が美味しいだけでなく、リンゴを栽培する果樹園も多く、国道9号線を走っていると、「リンゴ狩り」の看板が彼方此方に見られます。リンゴ狩りは、「なかおりんご園」さんに伺いました。ドイツでもリンゴの木はよく見かけますが、日本とドイツのリンゴの違いは、日本のリンゴは果実一つが随分大きいことです。夫の実家のある南ドイツもリンゴの産地なので、リンゴの木がずらっと一列にならんで植わっている風景はよく目にしますが、日本のリンゴ園は、木の植わっている感覚がもっと広く、リンゴも鈴生りではなく、手を入れてその分果実の少し数を少なくし、一つ一つの玉が大きいのです。園内の木を見せていただき、沢山の種のリンゴがあることを教えていただきました。どれも、甘くてシャキッとしていて美味しかったので、もっと色々な品種のリンゴを試したかったのですが、何分1個が大きいので直ぐにお腹が一杯になってしまいました。リンゴ園にはコイの池もあり、子どもたちは餌やり体験もできました。ぽかぽかとしたお天気の良い日で、リンゴの木が作る日陰に座り、様々な種類のリンゴの木を見上げながら美味しいリンゴを食べるひと時に、これ以上贅沢な時間ってあるだろうか・・・と思っていました。

画像9

図11:リンゴ園-どのリンゴを取ろうかな?

画像10

図12:リンゴ園-コイに餌やり

このリンゴ園に、宿泊施設と触れあい動物コーナーがあれば、ドイツなら立派なホリデーアパート/ハウス(長期休暇に滞在できるような貸し別荘・貸家)だね、と夫と話していました。リンゴ園の方と、この辺にそんな場所はありますかとお尋ねしたら、日帰りで訪れることができる農場はあるけれど、宿泊までできるのはないかなとのお答えでした。日本ではそれほど長い休暇をとったり、長く一ヵ所に滞在する休暇はあまり頻繁ではないかもしれないから、国内向けにはあまり需要がないのかもしれないと思いました。
 
田楽庵には2泊お世話になりました。その後の旅程に日本海側でのシンポジウム参加が入っていたので、12日の夜から会場からそれほど遠くはない宿、俵山温泉の旅館に移りました。

 泉屋旅館 長門市俵山温泉(10月12日~14日)
多くの爪痕を残した台風19号が東日本を直撃した10月12日、一足先に福岡空港からドイツに帰国する夫は、山口から福岡に向けて発ちました。強めの風と雨が降っていたものの、大阪から下りの新幹線は運航しており、予定通りに出発しました。
 
ここからは、東芝国際交流財団の白井さんにご案内いただき、子どもたちとともに大変お世話になりました。12日は、私の仕事(考古学)の分野とも関係する、下関市にある土井ヶ浜遺跡・人類学ミュージアムを訪問しました。土井ヶ浜遺跡は、弥生時代前期から中期にかけての墓地遺跡で300体を超える弥生人の骨が出土しています。日本の土壌は酸性のため、遺跡から出土する骨の残存状態が悪いことが多いのですが、土井ヶ浜遺跡は砂丘にあり、砂地で骨の残存状態が良かったのです。弥生時代については、まだ分かっていないことも多々あり、こうした残存状態の良い土井ヶ浜のような遺跡は非常に貴重です。博物館は、展示が見やすく、子どもたちにも分かりやすいように作られた3D映像や、博物館に隣接した建物内に発掘された墓地遺構や人骨(レプリカ)の復元がされています。学芸員の沖田さんに丁寧に説明していただき、より理解が深まりました。

画像12

図13:土井ヶ浜遺跡・人類学ミュージアム内部

画像13

図14:土井ヶ浜遺跡・人類学ミュージアム前の浜

その他には長門市おもちゃ美術館を訪れました。美術館のテーマは木と海で、ガラスの大きな窓から日本海を見ながら木の玩具で遊ぶというこれもなかなか贅沢な体験でした。様々な玩具があり、度々どのように遊んで良いのかわからず途方に暮れている子どもたちもいました。館内には学芸員さんが何人もいらして、そのような場合は、子どもの傍に来て、おもむろに同じような玩具(木のブロックなど)で遊び始めます。声をかけることはなく、とはいえ、どのように使うか遊び方の例が子どもの視界に入る範囲で遊び始めるので、子どもによってはそれに気付いて真似をしてみたり、もしくはそれに関わらず、やはり自分で遊び方を見つけようとする子もいました。学芸員さんたちは、其々のやり方を尊重できるようなやり方で上手に見守って下さり、わが家の子どもたちも当初思っていたよりも随分長い時間美術館で遊んでいました。

長門市では、全国棚田千枚田サミットの一環として、山口県立大学の水谷由美子教授と安倍昭恵内閣総理大臣夫人、そして水谷先生の学生さんたちが行われた国際交流ファッションショーが開催され、視察する機会を得ました。ファッションショーは今年で7回目になるのだそうです。華麗で独創的なファッションから、実用的な(農)作業で使えるファッションまで拝見しました。フィンランドとハワイと国際交流されていらっしゃるということで、各々の国からの作品(および関係者の訪問)もありました。緊張感アリ、迫力アリ、また最後に笑いもアリのステージで、関係者の皆さま(学生さん)の企画力、組織力、実行力の高さに感心しました。

画像14

図15:長門市おもちゃの美術館:真剣にカプラで遊ぶ長女、
ブロックを渡して下さる手は学芸員さん

12~13日の宿泊は俵山温泉でした。俵山温泉は深い山間にある情緒ある温泉街で、リウマチに効く温泉として有名なのだそうです。大型のホテルや旅館などはなく、個人経営の旅館と民宿が並ぶ、ひっそりとした湯治場という印象でした。どの宿泊施設にもお風呂(内湯)はなく、町にある2軒の温泉へ行く「外湯」というのも俵山温泉ならではの特徴なのだそうです。

14日には角島で、東芝国際交流財団および松浦さんの会社主催のシンポジウム「地域の未来を創造する:ハイエンド・インバウンドの可能性-地域の発想力・共創力・行動力―」に、パネリストの一人として参加させていただきました。会場は角島と角島大橋、青い海が一望できる、松浦さんの経営される絶景カフェ・レストラン「晴ル家」でした。シンポジウムのテーマは、山口県へのハイエンド・トラべラ―のインバウンドを増やしていくために、現状把握、どのような点がアピールできるか、どのような課題があるかなどを水谷由美子先生がモデレーターをされ、安倍昭恵氏、松浦奈津子氏、山田理絵氏、そして私の4人のパネラーが其々の視点から意見を出し合いました。私の場合は、考古学者および海外在住日本人としての視点から、遺跡や博物館をインバウンドにどう生かしていけるか、そのための課題は何であるかなどについて話をさせていただきました。様々な分野でご活躍中の方々が聴きにいらして下さり、パネルの方々の貴重な御意見と併せて、ご参加くださった方々からも多種多様な興味深いアイデアを拝聴することができました。こうしたテーマでのシンポジウムは地元で初めての試みだったということです。これから関係者の皆さまの目指すインバウンドの形に向けて、少しずつ繋がっていけばよいなと考えています。

地方にある古民家を再生して生かしていくという活動は、おかえりハウスの目指す、Jピープルに日本の地方についてもっと知ってもらおうという活動にマッチすると思います。シンポジウムのテーマであったハイエンドとはダイレクトに繋がらないかもしれませんが、今後Jピープルが山口を訪れて沢山の素敵な発見・体験をして欲しいなと思います。

シンポ 表

図16:シンポジウム案内 表紙

自然豊かで美しい山口県を知ることができた、今回のおかえり旅行のきっかけをつくってくださった武田さん、山口県とおんなたちの古民家をご紹介くださり、旅行中もたくさんの御心遣いをしてくださった東芝国際交流財団および財団理事の白井さん、滞在前・中・後通してお世話して下さったおんなたちの古民家代表の松浦さん、松浦さんのご両親、またその他温かく迎えてくださった関係者の皆さまに、家族一同心から感謝しています。

-------------------------------------------------------------

夫の山口旅行感想

From 9th to 10th October, we stayed a night at a partially restored traditional house in Yuta Onsen, Yamaguchi city. House and garden gave a good impression from Japanese building tradition, especially the interior with its very low doorways and the fireplace in the tea room.

The following two nights, from 10th to 12th October, in Tokusa, Yamaguchi city were even more impressive. An originally 16th century wooden house, which was modern renovated, yet still kept the original beams. To know about the early modern architecture and to see how the knowledge about these houses and their building technique will be preserved by such projects as Ms. Matuura initiated was an invaluable experience.

The surrounding landscape invited us to walk in the mountainous area and gave an instructive impression of “another face” of Japan: far less crowded, less hectic, less overbuilt than those areas, which travellers would visit and see at first. People talking about their local area and some nice places like the Akiyoshidou/Akiyoshidai landscape and the apple orchard helped us to take time out after visits in Nagoya and Kyoto, and also to get some distance from the busy professional life which we also have in Germany.

-----------------------------------------------------------------------------参考リンク:
一般社団法人 おんなたちの古民家http://yamakomi.com/index.html
鸞家(らんま、山口市湯田温泉)http://www.yamakomi.com/ranma.html
田楽庵(山口市阿東徳佐)http://yamakomi.com/dengakuan.html
俵山温泉 泉屋旅館(長門市俵山)http://www.tabi-izumiya.com/
SLやまぐち号http://www.c571.jp/


#継承日本語 #Jピープル #国際交流 #古民家再生 #ハイエンドインバウンド


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?