自然観察の方法:チ・ョ・コ・レート
ずいぶん以前のことだが、目黒にある国立科学博物館付属の自然教育園が主催する野外生態実習「自然観察の方法」を受講したことがある。講師は自然教育園の矢野亮さんという人だった。
矢野さんのモットーは、
1) 自然観察は、自ら調べる活動に励むべき
2) 自然観察会は、体験学習的な活動も取り入れるべき
とのことで、その言葉をその言葉通りに実践する愉しい講座だった。特に1)に関わる話として、自然教育園におけるカワセミの繁殖についての話、自然教育園のヒキガエルの生態学的研究に関わる話、そして自然教育園での外来生物駆除の話など、とても興味深い話が聞けた。
目黒の自然教育園は行ってみるとわかるが、広大な敷地というわけではない。そんな限定されたフィールドでも、自然を調べるということはどういうことでどういう意味を持つものなのか、矢野さんの話からは伝わってきた。
そういう活動の積み重ねや考え方を、「自然保護教育のためのカリキュラム作成に関する研究」、「小学校における野外観察の具体的プログラム作成に関する研究」という非常に丁寧で豊かな内容のレポートとしてまとめられていたことも素晴らしいと感じた。
講座は後述するように3日間のメニューで、ツルグレン装置を用いた土壌生物数による自然度判定、飛ぶ種の模型実験、若葉のミニ図鑑作り、荻を使ったふくろうの作製などネイチャークラフト、どれも楽しいものばかりだ。
この講座は、本来、学校の先生など自然観察の方法を伝える人たちのものだが、こういう地道な取り組みが本当に大切だと思う。それにしても、矢野さんの実習に向けた準備は丁寧で驚く。そしてこれが3日間で3000円。とても有意義な時間だったなと思う。
荻のふくろうや竹トンボなどのクラフトは、矢野さんの作った模範例は素晴らしいのだけれど、実際にやってみると案外に難しい。
若葉のミニ図鑑で作ったしおりは今も使っているが、矢野さんの準備の話には驚いた。これ、若葉でないと葉が大きすぎて栞に出来ないので、春、まだ葉が小さいころに、あらかじめ採集して押し葉の状態にしておくそうだ。ただし、葉が出る時期はばらばらなので、一ヶ月ほどかかるとのこと。木の名前を書いた小さなラベルもすべて矢野さんがあらかじめ準備してくれた。「人に頼むとまっすぐ切ってくれなかったりね」と笑っていた。
ツルグレン装置による土壌環境診断は、子供でも楽しめるようにできているところが素晴らしい。白熱灯の熱で土が乾燥すると、乾燥を嫌う土壌生物はロート状の部分に落ちる。ビーカーの水の表面に浮いているものが小型土壌生物。表面張力によって彼らは水面に落ちても溺れない。2倍程度の倍率で見ると、まぁ、いるわ、いるわ。
種たちの戦略では、実際に自然教育園を散策しながら観察していく。写真は拡大すると、うーん、結構ピンボケだね。
3日目のネイチャークラフトの時に見せてくれた作品は本当に素晴らしかった。チョコではないのだ。
豊かさの定義はいろいろだろうけれど、私はこういうことが豊かなことなんじゃないかと、ときどき思い返す。