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ニッポンの老若男女が170年考えたことがない問題:定番面接でわかること

 秋である。推薦やOAやいろいろな種類の試験面接が始まる季節である。
土曜、日曜と連日出勤して「人が働かない時に働くんだね」なんて嫌みを言われる大学教員ライフである。
 志望動機書類、小論文などを読んで、さてさて面接である。たくさんいるから4-5人のチームを作ってやる。全員、甲冑着てんのかいっていうくらい緊張している。
 だから最初の声がけは「緊張してますね?Take a deep breath !」大丈夫、基本的に減点しないで、いいとこ発見したら足し算ばっかりだからと言ってやると、少しほっとするようだ。初々しい。こっちは汚れちまった、すれっからしのおっさんだ。本当は、そこに居るだけでありがたい人たちだ。
 一応、定番の質問はしないと、と思って「この学科を志望した理由と入学したら何をしたいか?」を言ってもらう。

 もう聞かなくても全部わかる。
 「自分がオンガク(御学)を希望した理由わぁ・・・(この後、受験者用のパンフの中から言葉拾ってつなげて言う)・・・将来の夢であるぅ公務員を目指して、公務員講座に集中したいです!」

 あのさ、試験やって入学して、高校でまたやって、大学推薦のために日々の学校の試験こなしてさ、またここまで来て「公務員講座」頑張りますって、そういうのいい加減辟易しないの?オレなら「地獄のような男子校を抜け出せるわけですから、思いっきり青い春を謳歌します!」って言うけどね。(言えるわけないよなw)

 「夢だった公務員」というのが、もう本当に何十年も聞かされた言葉で、ま、政治学科だから「そう言え」って疲れた顔した担任に言われたんだろうけど、こっちは不思議だから聞くのですよ。

 「公務員が夢なの?でもさ、地方公務員なんて、今ある1800くらいの自治体があっという間に800も消滅して、賃カツ(賃金カット)の嵐が吹き荒れてさ、そのうち雇員の三分の二は非正規雇用の時給1000円になるかもしれないから、銭金で言えば「夢も希望もしぼむ」仕事じゃないの?」
 意地悪な質問するオッサンだ。

 そんな「え?」みたいな想定外の質問をされても、粘力で「自分の生まれた故郷の街を守ることが生きがいですから、頑張ります」と切り返してくる学生もいて、ほっとする。若い人がそんなこと言うと嬉しくなるよね。

 次のグループは偶然だが「国際政治、国際関係を勉強したくて、NGOとか国連とか云々」の5人だから、100%固まってしまうだろう「あの質問」をしておかないとなんて思う。本当は、これが一番大事な部分で、そこがないと困るのだが、面接をする側人生で、これまでただの一度も「ほぉ」と思う言葉を聞いたことがない。

「日本という国は、世界の中でどういう貢献をする国であるべきだと考えますか?」

 A君「・・・貢献・・・で・す・かぁ?・・・」
 B君「・・・あぁ、ちょっと時間もらっていいですか?」
 Cさん「地味でも暮らしやすい国がいいです」

 いや、「どんな国が好きですか」って聞いたんじゃないのよ。
 「日本は、どんな国として、世界にどんな貢献ができる国になるべきか?」って訊いてるの?質問の意味わかる?

 「・・・。」(一同沈黙)
 やっぱりだ。僕たちの国で生まれ育った者たちは、実に善良で真面目な人が多いし、謙虚で慎ましいし、礼儀正しい。
 でも、「世界の中で自分たちはなにをできるのか?」ということ、それを「こちらから世界に向けて発信する」ということについて、外務省のエリートから、こうして真面目に面接に来る、「国際関係とか興味あります」と言っている高校生まで、ほとんど、誰一人として自覚と意識が希薄なのだ。

 では、この間何をしてきたのか?
 「外から何かやって来たら、その都度なんとか対応してやり過ごす」。

 ペリーが浦賀沖に現れた時から、アミテージに「集団自衛権を使って米軍のアジア戦略に貢献できるように安保法制11本国会で通すように」と指令を受けた時まで、そして今、台湾有事の時は米軍出動するから、防衛費はGDPの2%まで引き上げておくようにと「外から」言われて、「言われた以上、何か対応しとかないと」と、霞ヶ関のエリートは日米合同委員会を通じて「対応項目一覧」を作っているはずだ。
 
 何か外からきたら、とりあえず対応だけしておく。
 こちらから外に向かって呼びかけやメッセージは一切送らない。

 これで170年だ。

 もちろん、面接にきた真面目で慎ましい、「面接マニュアル」を読んで、身体中を甲冑みたいにして「自分わぁ!」なんて答えている若者に罪はない。なぜならば、ずーっと我々はそうやって来たからだ。湾岸戦争の時だって「対応って言っても、金出すぐらいしかないですよね?」なんて言ってしのいできたけど、もう金はないから、ますます「対応している」感を出すのは難しい時代だ。

 面接は、ご縁があれば教室で向かい合うことになるキラキラした若者と話ができるというありがたいものだ。
 同時に、時計の針がまったく動かないように、「あの」「例の」日本人が、日々大量に再生産されているのだなというタメ息が沈殿する場でもある。声を枯らして「ちょっとトーンの違うニッポン人」を送り出そうと、この職業の範囲でできることをして来たつもりだが、なんとも無力なことよ。

 ちなみにそう言う私は、「日本は、戦争と環境破壊と格差と差別の20世紀の人間の蛮行の後始末をするために、高い技術と丁寧な仕事ぶりとオリジナルをしのぐ改良能力とを持って、世界にそのための方法を発信することで貢献できる国になるべきだ」と思っている。

 一人だけ「地味だけど暮らしやすい」と言った女子学生のことが印象に残った。こちらだって誤解する自由があるからこう言い換えた。脳内で。

 「強い軍隊もないし、洪水のような輸出もしない、地味で、華々しい人はいないけど、謙虚で堅実で、治安が良くて安心できる街で暮らす、英語が下手だけど外国人のお客さんには親切な人が多い、そんな国の、そんな幸福ってもんがあるんですよって、世界の人に21世紀の地味キャラを示すっていう役割じゃだめですか?」と。

 この職業は、あらゆることから学ぶことができてありがたい。

 もう一つ、定番の面接キーワードがある。
 「リーダーシップ」だ。

 これについては、また別稿で。

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