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ブラックホールを見つめる

2019年4月10日、ブラックホールの撮影に成功したと報道があった。意外だった。ブラックホールが撮影されていなかったなんて――。

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天体のニュースを聞くと、いつも高校時代を思い出す。

地学の授業前、教師が「きょうは流星群が見られるぞ」と興奮気味に話していた。たしか、しし座流星群だったはず。当時から天体には興味があった。そのときは、ブラックホールよりも、目に見える星が好きだった。オリオン座のベテルギウスとか。おおいぬ座のシリウスとか。おとめ座のスピカとか。とにかく明るい星。

その日の夜、2階にある部屋の窓から屋根に上がり、寝そべって星を眺めた。凍えるほど寒かった。1時間ぐらい屋根の上にいたが、流れ星を見たのは3回だけ。予報ではかなりの数が見られるとあったが、寒さで多くを見逃した。

ただ、星はたくさん見えた。冬の澄んだ空気と町の暗さが、目に見える星の数を増やしてくれた。そして、安心した。

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高校時代、見えているものがすべてだと感じていた。

その感覚が、無意識に自分をたもっていた。目に見えないものは怖くて仕方がない。見えるものだけで成り立っていた世界が、突然、覆るかもしれない。見えているものにすがりつく。自分の価値観だけでものを言う。その価値観を相手に押しつける。そこに情緒はない。

見えないものは、つねに隠れている。そういうもの。その存在を恐れるのではなく、きちんと見つめる。目に見えないものを見つめる。自分の価値観だけではない広い宇宙を見つめる。人は宇宙で小さな小さな存在。その気づきが情緒を生む。そう信じたい。

あの夜から十数年が経った。見えるものだけを好んでいた高校生も、やっと自分のちっぽけさに気づいた。そして、ブラックホールを見つめるようになった。


2020/03/05

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