人のために自然はあるんじゃなくて、もっと広い意味の中で自然の営みはあるんだから/Nakabito VOL.8 山あそび
(一社)中之条町観光協会が発行しているフリーマガジン「Nakabito」は、群馬県中之条町の観光そのものを伝えるのではなく、町に住む人の暮らし・人生を通してこの町の深さを知ろうという意欲的な冊子である。僕はVOL.6からライターを務めており、最新号が発行となった(ふるさと交流センターつむじや、中之条町内施設等で配布しています)。
今回は「山」特集。この冊子のデザイン・写真を担当する山重徹夫さんらと共に、片道6時間をかけて雪の芳ヶ平を横断した。数年前に2度ほど、六合山岳会のみなさんと歩いたコースではあったが、何の運動もせずに行った今回は一番辛かった。スノーシューと呼ばれるかんじきの様なものを履いて、急斜面を登る。僕だけの実感なのか、他の旅人たちもそう思うのかはわからないが「人の生活圏から動物の生活圏に、線を越える瞬間」を毎回感じる。その先は、一人夜に置いて行かれたら死が頭をよぎる場所であり、けれど怖さだけではなくて、しんとした静かさや美しさがある。頼りになるガイドの木村正臣さんや、何度行っても感動する山小屋「芳ヶ平ヒュッテ」を記録として残せたことは、個人的にもとても嬉しいこととなった。
「中之条ガーデンズ」は薔薇やナチュラルガーデンで県外からの来客も多い名所であるが、時間をたっぷりとって暮坂峠を越えた先にある「山の上庭園」にも足を運んでほしい。奥にある地産の花や雑草から作られたドライフラワーは圧巻。それらの生産・流通や、庭園の庭を作ってきた淵上奉夫さんのバイタリティは一読の価値がある。僕は中之条暮らしが長いので、実は今回「はじめまして」の人はいなかったのだが、旧知である入澤麻子さんのノルディックウォーキングやジムも取材した。中之条町は今、彼女くらいの年齢の女性たちがとても元気が良い。
赤岩地区に移住してきたばかりのフードアーティスト「yamanofoodlabo」の2人と、赤岩に生まれ入山で精力的な隠居生活を送る山本茂さんを取材できたことも良かった。野反湖、美味しい蕎麦、めんぱなどの木工・・六合が魅力的な場所であることは知られるようになったが、昔からそこを守る人だけではなく、新しい人の存在は必須だ。茂さんが語る、すでに失われてしまった草履のために必要となるスゲを刈にいく女性たちの物語と、ヤマフーの古平くんが語る、山のエッセンスを多国籍な料理や独創性と合わせ舌から伝える新しい物語の間にはきっと、何かしらの接点がある。
この文章のタイトルの「人のために自然はあるんじゃなくて、もっと広い意味の中で自然の営みはあるんだから」という言葉は、炭炬燵で足を温めながら茂さんに六合の昔を聞くなかで、ぽろっと、大事なことを言うぞ、というタイミングでもなく(そもそも茂さんは、常に淡々と物事を物語るのだが)さらっと話された言葉である。実際聞いていたら聞き流してしまう一言だったかもしれないが、その一言をハーケンのように紙面に刺し留めることができるのが「文章表現の強さ」である。僕の仕事は映像が主ではあるが、今後も人に必要とされるような言葉を探していきたい。
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