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ただの美味しい、とは違う、もしかしたら前世まで遡って、どこかで味わっていたかもしれない実感を獲得するということ/yamanofoodlabo(中之条町・六合赤岩)

岡安 賢一

僕自身は移住と呼べる移住をしたことがないので、それがどれほど勇気がいるものか、楽しいものか、しんどいものかはわからないのだけど、この夏、中之条町の六合地区のさらに赤岩地区という、重要建造物保存地区としても有名ながら、(僕の記憶では)そこに移住しました!という話は他に聞いたことのない、かなりディープな山間部に移住してきたアーティストがいる。古平賢志くんと万歳夏恵さんによる「yamanofoodlabo」がそれである。

彼らは以前から千葉県松戸において食を介した独自の飲食業・イベントを行ってきていて、古平くんの家族のルーツがある吾妻地域に、彼らにとっては必然なタイミングで、移住する運びとなったようだ。すでにyamanofoodlaboとして、東吾妻町の「serenite」や「朝陽堂」という、お客さんに愛される町のキーポイントとなるお店で期間限定で得意のスパイスを使ったカレーの提供などを行っている。そして次の行動として彼らは、赤岩地区にてスパイス料理教室を行う(9/17~不定期。詳しくは下記インスタにて)。

yamanofoodlabo インスタグラム

僕が彼らの料理をはじめて食べたのは昨年中之条町で行われたイベント「秋、酒蔵にて」であったが、ビーツを使ったピンク色のカレーを、できれば素手で色々な副菜とぐわーっと混ぜ合わせて食べてください、というその第一印象は強烈だった。美味しい、という言葉は第一声には出てこない。あ、野菜だね、あ、スパイスだね、混ぜ合わせるとこんな味だね、という素材となるものの確認が口の中で行われていく。だが、彼らの言葉を借りれば実は、口に入れる以前にある、あ、こういう手触りだね、あ、こういう香りだね、という触覚や嗅覚も含めた広い感覚を使って料理と向き合うことこそがその料理の醍醐味であった(彼らは時には食事の場所を真っ暗にしたり、アンビエントミュージックと合わせたりするらしいので、それはもうアートと呼んでも良いのかもしれない)。よって、万人受けする料理ではない。人は選ぶ。それは仕方ない。

それからイベントなどで何度か彼らの料理を食べたが、良い悪いの話ではなく、普段いかに自分が和食・洋食・中華というようなジャンル化可能な味を食べているかを再認識するようになった。だからこそ、その場所で手に入る野菜を中心とした食材を主とし、調味よりむしろスパイスによって新しい味覚を探す彼らの行動は、僕が本来前々前世よりずっと前に獲得していた、料理以前の懐かしい実感への手がかりなのかもしれない・・と言ったら、多分言い過ぎではあるだろう。

とかくこの話は、美味しいものを作る料理人は数多くいる中で、彼らが作るものの独自性にびっくりした、というだけの話である。人は選ぶが、刺さる人には深くまで刺さる。ぜひとも、赤岩に移住してきた彼らに注目していただきたい。(写真は、先日行われたserenite主催「気持ちの良い風が吹く場所 蔵元150年目の軒下マルシェ」で僕が撮影した写真です)

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