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(純粋に)映画化されたものが観たい、と選ばれたシナリオが映画化されたものは、何年経っても強い/出張!伊参スタジオ映画祭 in 群馬県庁

映画祭開催当初から共催に入ってくださっている上毛新聞社様からご縁をいただき、7/20(土)に群馬県庁31階GINGHAMにて「出張!伊参スタジオ映画祭」を行える運びになった。中之条町で2001年から続いている「伊参スタジオ映画祭」の柱となっているシナリオ大賞(全国から短編、中編の映画シナリオを公募しその大賞作品を映画化させる試みで、現在までに35作品が映画化)の作品の中から、僕を含む映画祭スタッフが「今回の機会であればこれを上映したい!」と推薦した4作品が上映される。

まずは、シナリオ大賞が始まった年、2003年の中編の部大賞『少年笹餅』。小学校の人気者フッくんと目立たないのんちゃんを巡る物語は、内面としては少年少女特有の劣等感や優越感を時に反転させながら、表面的には可愛らしいタッチを崩さず、独自の作家性を示している。監督の岩田ユキさんは、その後商業映画監督も経て現在は漫画家として活躍中です(より個人ならではの表現を求め、監督、脚本、カメラワークを一人でこなすとも言える漫画に進んだ岩田さんの原点が見られる作品でもあります)。

続いてシナリオ大賞作品の映画化としては最も新しい『冬子の夏』。シナリオを書いた煙山夏美さん自身は監督を務めずTVCMディレクターとしてキャリアのある金川慎一郎さんが監督を務めた事で、煙山さんのシナリオが持つ「青春映画なのに成長しない冬子の独自の存在感」がより際立つ作品となった(テレビでもよく見る豊島花さん長澤樹さんのW主演という華やかさも良い)。こちらは他の映画と合わせたオムニバスでの東京上映もされ、5月にはフランクフルトの日本映画祭でも上映された。

さらに続いて、伊参での上映後にその出来の良さから東京や大阪の映画館で上映もされた飯塚俊光監督の『独裁者、古賀。』。高校でのイジメやスクールカーストが劇中で描かれ、見ていて辛い部分もありながら、映画祭スタッフの熱烈支持者が多い。その理由は、清水尚弥さん演じる冴えない主人公が転生するでもなく超能力を得るでもなく、冴えないままで最後まで突っ走る爽快感や鑑賞後の満足感にあるように思う。その後飯塚監督は俳優の岡山天音さんを自身の分身として見出し、これまた冴えない主人公が奮闘する映画『ポエトリーエンジェル』『踊ってミタ』を作るわけだが、その原点は明らかにこの作品にある。

県庁31階からは、前橋や高崎の夜景が遠くまで見渡せる。そんな環境にもぴったりな最後の上映は高山村の天文台等で撮影された外山文治監督『星屑夜曲』。外山監督といえば今年の第37回高崎映画祭において『茶飲友達』で最優秀賞監督賞を受賞。その前の映画『ソワレ』などにおいても人間の闇を覗き込むようなヒリヒリした作品を作る監督という印象があるが、キャリアのスタートはどちらかというと優しい、愛らしい映画を撮っていた印象がある。監督第一作である『星屑夜曲』は、(僕自身の思い込みを込めて言えば)現在の監督では撮れない瑞々しさに溢れている作品とも言える、気がする。貴重である。

映画上映の間には、今年のシナリオ大賞で審査員を務めていただく事になった作家•絲山秋子さんによるトークも行える運びとなった。審査員のお願いしてから即のトーク出演のお願いで恐縮ではあったが、シナリオではなく小説の第一線で書き続けてきた絲山さんからどんなお話が聞けるか今から楽しみである。



中之条町と言うと、「ビエンナーレね、アートね」と返ってくる事が多くなった。僕もそちらは内部スタッフではないが撮影という立場を続けていてその返事も嬉しいのだが時に「中之条って映画祭やってるよね」という人がいると飛び上がって嬉しい。

••などと受け身でいてはいけないので、今回中之条町を離れ前橋市で、県庁で上映が行える事はとても嬉しいし、次の何かに繋がる予感がしている。

篠原哲雄監督(『月とキャベツ』『影踏み』等)らと行うシナリオ大賞の最終審査会に参加していて思うこと。大賞で選ばれる作品の一番の特徴は、「こういう系の作品今流行ってますよね」でも「(当然ながら)原作が人気なんだから映画化しても安パイです」ではなく「このシナリオが映画化されたものが観たい」という一言に尽きる。今回上映する作品の中には個人的に「シナリオ読んだ時も凄かったけど、映画化されたらそれを越えてきた!」と震えた作品もある。今の世の流行りがどこにあるかはわからないが、シナリオ大賞作品は、何年経っても古びない純粋さを内包し続けている。

ぜひ、上映会にお越しください。

【7/20(土)開催】 出張!伊参スタジオ映画祭 参加申し込みは以下から

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