違う選択をした自分観測センター

ちょっといやなことが続いてたのよ
ほんと些細な事だけど

傘持ってくか悩んで 持ってかないって決めたら雨降ったり
ぎり持てるかと思ってレジ袋断ったら 帰りに転んで全部台無しにしたり

とにかくそんな感じで
選んだことがことごとく裏目に出てたのよ

なんかこういうときってさ

もしも自分が別の選択してたらどうだったんだろって
考えたりしない?

俺は考えたのよ

考えてたの

そしたらさ
あったんだよ

「違う選択をした自分観測センター」

嘘みたいに安直

まあ、でも、入るよね。
好奇心が勝つのよ 大学生ってさ

中に入ったら絵に描いたような博士みたいなおじさんがいた

「違う選択をした自分を見に来たのかな?」

はい、そうです。っつって
博士とちょっとしゃべった

最近の話

結構聞き上手だったな

興味深そうに聞いてた

知識がある奴って一人だけでしゃべるから意外だった

そうやって話してたらさ
博士の隣に研究室っぽくないものがあるのに気づいた

タイル張りで真っ白な、いかにも研究施設って感じの部屋の真ん中に
標高の高い観光地に絶対あるごつい双眼鏡みたいなやつがあった

「これこそまさに違う選択をした自分観測機だ!」

俺の視線に気がついた博士が言った

「覗くかい?いつがいい?」

覗いて罠とかだったら、なんて思ったけど、見る事にした

「さあ、傘を持ってた君はどうなったのかな~?」

レンズを覗き込むと自宅を鳥瞰している映像が広がった
自分を空から見てるような感じ

昔こんな番組あったなって思った
雲のおじいちゃんでてくるやつ なつかし

家から傘を持った自分が出てきて 大学へ向かう
しばらく見てたけどあの日と全然変わんなかった
眠そうに講義受けてたわ 俺

帰り道に雨が降って
向こうの俺は傘を差した

「やっぱ傘必要だったか~ ラッキー」

向こうの俺が独り言を言った

笑顔だった

ちょっとうらやましかった

レンズから目を離した

「どうだった?レジ袋の日も見ていくかい?」

ちょっとだけ、返事が遅れた。

レンズを覗くとコンビニの屋上が見えた
お店上から見るとグーグルアースっぽいのよ にしては近距離だったけど

コンビニから俺が出てくる
レジ袋に夕飯とお菓子が入ってる

踏切を渡った先でこけた
レジ袋の中を確認する俺

肩を落とす向こうの俺

お?もしかして?って思った

「ふう、あっぶね~」

なんだよ無事かよ
ひっくり返してせっかくあっためてもらった弁当こぼせよ

え?

いま 俺は俺が不幸に会わなくて落胆した?

俺は自分に不幸な思いをして欲しいと思った?

「やっぱりそう思うよね」

博士の声に驚いてレンズから目を離した

「違う選択肢を選んだ自分がうまくやってると不幸を願ってしまうんだ」
「なんだかそれはうまくいっている他人へ向ける妬みに似ているね」
「そこにいるのは紛れもない自分なのにね」

「大体みんなそうなんだ」

「僕もね」

急に博士めっちゃしゃべるじゃんって思った

俺はいやな気持ちになったから足早にセンターを出た

まっすぐ家に帰った

こんな気持ちになるなんて
最悪だ なんだこの気持ち

こんなことになるなら

二回目覗く前に、帰れば良かったのか?

そもそも、一回も覗かなければ、良かったのか?

まず、研究室に、入らなければ、良かったのか?



もしも、これらの、場面で、俺が、違う、選択を、していたら?



「あんなとこに入ったせいで!最悪だ!」

なるほどこうなるのか
なんか不幸な自分を見るってちょっと不思議な気分だな

レンズから目を離す

「まさか未来を見るなんて初めての子だよ」

ここは「違う選択をした自分観測センター」だから
そこに時間の指定は無かった
そこで好奇心だけで機械を覗くことを選んだ自分はどうなるか覗いた

「僕の研究も進むよ ありがとう」
「いまの気分はどうだい?」
「終わった直後って結構ふわふわするんだよね」
「わかるよその感覚僕は好きだけど」

すごいしゃべる博士はさておき 少なくとも良い気分ではなかった
でも道の真ん中で 最悪だ なんて大声出さなくてすんだのはよかった

あと 自分で自分の不幸を望まなくて良かった
結果的に向こうの俺は不幸になっちゃったけど

博士に形だけのお礼をしてセンターを後にした

その日から
着替えるときとか注文するときに


上から視線を感じるんだよね

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