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トークン投資契約においてスタートアップと投資家が検討すべき内容についての個人的なメモ

こんにちは。
Skyland VenturesアソシエイトのKOJOです。
最近、自分の活動の中でトークン契約書について考えることが増えたので、現状の自分の見解としてトークン契約書関連で考えるべき内容などについて開示しておこうと思います。
また、本稿はSkyland Venturesの意向に関わるものではなく、個人的な思考の整理を目的としており、その真偽や正当性は今後も検証していく余地があります。何より、私は法務や税務の専門家ではないので、こみいった議論や細かな間違いが本文に紛れている可能性が高いです。ご了承ください。

自己紹介

KOJO:
慶應義塾大学理工学部とSkyland Venturesに所属。去年までフランスの大学に留学していたのでフランス語と英語が話せる。大学の研究室ではコンピュータハードウェア設計の研究をしている。イギリスのクラブ音楽に詳しい。ドラマ・映画・アニメを見るのが好き。近代西洋哲学(現象学、ポスト構造主義)やサブカル評論も好き。cryptoとVCとなめらかな社会について興味がある。

トークン契約の種類

そもそもWeb3プロジェクトでトークンに関わる契約をする場合、以下の3種類のケースがあり得るとされています。

SAFT

Simple Agreement for Future Tokenの略称で、将来発行予定のトークン購入予約権を確約する契約形態です。
Headlineさんが詳細な説明を以下に記しております。

このSAFTという契約形態は上記記事でも言われていますがUSでのレギュレーションでは問題視されているということもあり、US外のスタートアップに利用されるケースが主流となっています。
契約上で約束している内容はシンプルに羅列すると以下のようなものです。

  • 投資条件: トークン価格、出資額、トークン発行量

  • トークン発行日

  • ロックアップ・べスティング

中でも特徴的なのは、SAFTの場合だと投資家へのトークンアロケーションは総供給量のx%であると確定的な文言になっている点です。この記述により、SAFTによる契約書ではエクイティファイナンスのようにダイリューションが発生しないということになります。

J-KISS+Token side letter

Infinity Ventures Crypto(IVC)、Headline Asia、Skyland Ventures、増島 雅和氏の4者にて共同で作成したJ-KISSにサイドレターを付与する形で日本法人でもJ-KISSベースで契約を可能にした形態です。

昨年度の4月に公開され、Skyland Venturesもこちらに寄与しています。ある一定程度の有用性がある一方、国内ベースのWeb3スタートアップに対してしか利用ができない、多くの場合で日本人率いるスタートアップでも海外法人を利用するようなグローバル展開全体の企業体にはどちらにせよ利用し難い、という実態があるのも事実で、現実的には下記に示すもう一つの契約形態が主流となっています。

SAFE+Token warrant

US内でも利用可能な契約形態として最もスタンダードな契約形態は、このSAFE+Token warrant という形式です。投資家としてはエクイティへの投資を行い、将来的にトークンリリースが行われる際にエクイティをトークンに転換する形態をとります。
SAFEによって得る新株予約権が顕在化し、完全希薄化後の保有株数に応じ、なにかしらのルールでトークンが付与される、といった流れです。この場合、SAFTのように総供給量のx%を指定するような形での契約ではなく、エクイティの希薄化ロジックをうまく利用してスタートアップ側はトークンを配分することができます。

以上のような3種類が存在しますが、現実的に検討すべきスタンダードな契約形態はSAFE+Token warrantである場合が多いと考えます。その上で、「Token warrant」部分の契約内容をいかに設計するかが多くの場合争点になるのではないかと思います。今回は、こちらの「Token warrant」について、より深く検討事項を整理してみたいと思います。

トークン契約(Token warrant部分)において特に検討すべき条件について

トークンの付与割合

そもそもエクイティとトークンの転換比率がどうであるか。エクイティ保有比率:トークン保有比率=1:1の転換か、あるいは2:1の転換か、など。どんな契約でもこの観点については議論に上がるでしょう。

トークン投資家枠を用意するのか

エクイティをトークンへ転換する場合、転換割合がそもそも「総供給量の」x%アサインなのか、あるいは「投資家枠トークン供給量の」x%アサインなのか。スタートアップの多くはトークン総供給量に対し「投資家枠」のようなスペースを設定しています。どのような形式でエクイティが転換されるかは投資家にとって厳密な議論が必要になるでしょう。

cliff+TGE後のmonthly解放割合

いわゆるロックアップ/Vestingスケジュールについてです。トークンのパブリックローンチ後、どのくらい投資家は完全ロックアップを受け、完全ロックアップ後1ヶ月ごとにどのくらいの割合で保有トークンのロックが解放されていくのか、という議題です。
また、この時、「特定の日時まで」ロックアップ解除に相当する日付を決めておくことが大事だと思われます。というのも、トークン価格が月初/月末で大きく変化する恐れがあるのが実態であったりするからです。日時まで正確に契約上に落とし込んでおかなければ、将来的な投資家スタートアップ間のハレーションを引き起こす恐れがあります。

何年以内にトークンをパブリックローンチするか

創業当初のWeb3プロジェクトに投資する場合、トークノミクス設計などが不十分であったり未定なケースがあり得ます。その場合、「X年以内にトークンリリースを約束します」という文言はシード期などでリスクを取る投資家にとって必要になってくる条件だと思います。投資家に割り当てるトークンに対する裁量権はスタートアップ側に多く残されていて有利な一方、リターンの期待が完全に残されていない契約書の場合は投資家も投資しにくいスキームになってしまいます。

最恵国待遇

J-KISSやSAFEの場合だと当たり前のように入っている内容ですが、トークン契約書においても最恵国待遇のような条項が必要でしょう。同じラウンドで参加した投資家に対するインセンティブが等しいように設計することは投資家が参入する上でも、スタートアップが資金調達をする上でも、重要な投資条件の整理であると思います。

ハードフォークしない期間/AML条項など

J-KISS+side letterの方では記載されているのですが、「パブリックローンチ後にX年ハードフォークしない」という期間の設定は、投資家のリターン形成にとって必要な条項になってきます。また、AML条項は当然ながらコンプライアンスや詐欺発生防止のために必要になってくるでしょう。

トークン転換時、エクイティの財産分与権放棄

下記のAstar Network渡辺創太氏も指摘しているのですが、エクイティがトークンに転換した場合、エクイティの財産分与権が残ってしまうことはあまりに投資家側に有利であると言えます。スタートアップ側は、トークンにエクイティを転換する場合にエクイティの財産分与権などの権利を放棄してもらうよう投資家に打診できるような契約方式の方が吉でしょう。

その他

上記以外にも、多くの契約上の細かなポイントについても検討の余地がありますが、自分でも消化しきれていないところが多々あります。今後のアップデートをご期待ください。


まとめ

上記の内容は、ぼく自身の個人的な理解の範疇でまとめあげているに過ぎず、弊社Skyland Venturesの投資契約書を断定するものではありません。また、スタートアップ側に対し上記の条件を全て入れるべきだと主張しているわけでもなく、一定程度スタートアップと投資家の間で「検討すべき」条項であると考えているまでです。間違いのないようお願いします。

依然、Web3スタートアップに対する投資契約は発展途上であると思います。それゆえにこういった条件の整理を1人の投資家プレイヤーとして日々継続して参りたいと思います。



以上。


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