ハムレット139 Ⅳⅴ

第四幕第五場 エルシノア。城内の一室。
王妃、ホレイシオウ、侍従、入ル。

王妃 会いたくないわ。
侍従 せがみますもので。いや、全く正気でないと申しますか、憐れとしか言いようもない有様で…
王妃 何があるというの?
侍従 父親のことをしきりに話して居りますが、あるいは、此の世はまやかしばかりだとか、口にして居ります。咳払いをし、激しく胸を鼓動させまして― 些細なことにも喰らいついて参りまして、半ばうわの空と申しましょうか、曖昧に言葉を濁しまして、まあ、意味なきことを口走っておるのです。ところが、舌足らずな言葉も聞き入ってみますと、思い当たる節があり、考え込ませてしまいまして― その目配せ、頷く様、身振りを見ますと、もしやと自らに都合よろしき妄想を逞しうさせてしまうのです。何とは申せぬものの、あるいは、と次々に穏やかならぬことが想い起こされまして―
ホレイシオウ 是非とも、話をお聞き願います。さもなくば、宮中の奸計を好む連中によからぬ思案の種を撒き散らしてしまうことになるかと― 
王妃 連れて来て。
(ホレイシオウ、奥へ) 
(傍白)罪の当然の報いとでも言うのかしら、私の病んだ心によしなき事どもが寄り集まって、災いを招くようだわ… どうしようもないわ…さんざの疑心の果てに、守る為と思うて放った矢…舞い戻って、今度は自分を打ち殺してしまうのだわ…
(ホレイシオウ、オフィーリアを連れ、再び入ル)

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