【社会人の意見を求む】これは会社の杜撰なルールの問題か、はたまた大きな犯罪か? 傍聴小景 #114(有印私文書偽造・同行使)
このnoteをお読みいただいている方やニュースをよく見る方は「執行猶予」という文字を目にすることが多々あると思います。懲役刑だけど、その「執行」を数年間「猶予」するからその間、別の過ちを犯さなければ、その懲役刑は受けなくていいというものです。
同じく猶予がつく言葉で「起訴猶予」という言葉もあるのですが、これは聞いたことがある人というのは少し絞られるのではないでしょうか。
被疑者が犯罪行為を起こしたことは明らかだけど裁判を受けさせるまでではないと判断することです。いわゆる微罪などがこれに当たりますかね。
その逆という訳ではないのですが、「これを起訴するんだ」と驚くこともあります。
その多くは、「そんな少額で…」ということだったりするのですが、そういった場合は過去に犯罪歴があったりなど事情があるものです。
さて、今回の事例ですが、全然少額の話ではないのですが、起訴されたことに少し驚いてしまったという話。しかし、その背景を考えると、いろいろな想像が広がるものなのです。
今回の話、地味なんですけど、会社員の人に頑張ってついてきてもらいたい。
はじめに ~熟練の社会人感溢れる被告人~
結構、珍しい罪名です。
「有印私文書偽造・同行使」という罪名事態は決して珍しくないのですが、文書偽造が裁判になる以上、だいたいが詐欺行為に使われるので「詐欺罪」もセットというのがお約束なのです。しかし、今回は文書偽造のみ。
なお似た罪名に「有印公文書偽造」というのがあります。
その名の通り、公文書を偽造するもので、免許証の偽造などが多いでしょうか。こちらは公文書という信頼性の担保のためにも、詐欺とセットになってなくも、行使すらされてないとしても、裁判になる確率が高いです。
被告人はスーツを身にまとった50代の男性。不思議なもので、スーツの着こなしで社会人感って出るものですね。普通に、社会内で年齢相応の地位を積んできているんだろうなというのが外見からも伝わる方でした。
まぁ、この感覚が半分当たっていて、半分当たってないような話で。
事件の概要(起訴状の要約)
罪名の珍しさから多少いた傍聴人もここで席を立ちましたね。まぁ地味なニオイがぷんぷんするものな。僕も傍聴初心者の方を連れてたりしたらそうしていたかも。
確かに地味なんだけど、やはり珍しいは珍しいし、気になるポイントもある。
会社印を模した偽造ってのがそもそも珍しいし、わざわざ裁判になるってことは会社内の懲戒とかで済まないことになったんだろうなと。でも、詐欺罪とかはついていない。う~ん、気になる。
採用された証拠類 ~胃が痛むような事件内容~
被害額3,000万円かぁ…。
単なる見立ての甘さくらいだったら、会社の規模とかにもよるけど、懲戒の程度で済む話かなとも思ったんだけど、そこに文書偽造もあったから会社もブチ切れたんだろうなぁ。
会社がどこまで把握していたか、実際の業務での運用はどうだったのか気になるところです。
もし自分が会社員として、会社に内緒で押印したもので3,000万円の赤を出したってなったら、なんて言って会社に報告するんだろう。想像するだけで胃が痛くなるよ…。
その後、弁護人は被告人の謝罪文を提出。
また、被害会社とは被告人の財産を開示した上で和解の成立と弁済が開始されたことなどが明らかになりました。
被告人は会社を解雇されたのですが、新しい雇用主が被告人の監督と発注権限などを与えないことなどを証言しました。
被告人質問 ~道義的なリスクを考えた結果で…~
まだまだ、謎が多いこの事件。しかし、弁護士さんがしっかりと事実確認を行ってくれました。
今回使った社印は会社に内緒で作ったようです。まぁ、そうか…。
その理由として、被告人が外出することも多く、承認ルートの社員もなかなか捕まらないため、「これくらいなら会社の承認はわざわざいらないかな」というものに対して使っていたとのこと。
私が在籍していた会社もいつからかオンラインでの決済ができるサービスを導入しましたけど、それがなければ外回りをしながら、対面で押印をもらってという作業が面倒だと思うのは確かにわかる。
でも、8,000万円の案件を「これくらいなら」って思っちゃってるってのは無理あるし、バシバシ押していたんだろうなと予想。
面倒だからというのは、まだ同情できていたのですが、会社としては禁止されている案件を実施していたようです。
これは面倒だからじゃなく、単にやましいところがあったからこっそりという印象になってしまいます。
つまり、Tが適当な工事会社を発注して工事がストップしてしまった責任を取れって言われた。どうしようという中で、気付いたらTが勝手にB社と話を先に進めちゃっていたから、止む無く事後処理的に書類作成せざるを得なくなったということなんでしょうかね。
なんか会社内のゴタゴタとしてありそうとは思うんですが、結局社員指導不足の上司の責任ですからね。
辞める方がリスクというのも、言いたいことはわかりますが、それを会社を通さないことで、さらなる社にとっての大事故に繋がるリスクを考えられないのは、ちょっと…。
話はなんとなくわかりました。
ただ、あくまで僕の感想ですが、文書偽造は悪質なことではありますし、損害結果としても大きなものだとは思うんですが、裁判にすることかなという思いがまだ残っているんです。
社会人として不十分な箇所はよくわかるんですが、犯罪としての悪質さがあったかというと、ちょっと疑問符が出るんですよね。
その疑問が検察官の質問によって明らかになります。
会社の損害はあくまで過失的なものという主張を終始。
うーん、と思うけど、会社によってはそういう危ない橋みたいな運用になっちゃってるところもあるんだろうななどと思ってしまったり。
どんどん悪者にされていくT。しかしあくまで文書偽造をしたのは被告人本人です。そこを被告人の中でちゃんと理解できているのかな?と思ったら、検察官がド直球を投げ込みました。
ここで合点がいきました。
何かミスって会社に損害を発生させたってことでなく、リベートを元請けなどからもらいつつ会社に損害を与えた可能性を検察官としては探っていたわけですね。
だから、Tの社会人としてのありえない仕事の進め方などにも疑問符を投げかけることによって、いかに主張が非現実的かってことを示したかったのでしょう。
ってか、リベートを否定するのは、事実かわからないから構わんけど、知らないってのは無理があると思うけど…。
そう考えると、弁護人が和解に際して、被告人の財産を開示したというのも頷けます。
別に不当に金を受け取って、身分不相応な資産価値あるものを持っているわけじゃないっすよってのを示す必要があったわけだね。
で、検察としては、仮にその点を証明できなかったとしても、そもそも被害額も大きいし、会社の怒りも大きいから起訴しましたってことなのかな。
なかなか想像しがいのある裁判でした。
被告人は最終陳述で、
最後まで、売上を上げれば大丈夫だろうのマインドを見せ続けた被告人。
裁判としては、わかりにくく地味な内容であったかもしれないけど、社会人の人が思わずビクッとしてしまうのはこういう事件なのかななどと思ったり。
判決は懲役2年、執行猶予3年、押収された偽造注文書の没収でした。
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