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食事中には読まないでください。汚いけど書かざるを得なかった裁判の話(建造物損壊、窃盗) 傍聴小景#81

本当に不思議なんですけど、裁判傍聴を続けていると流れみたいなのがありまして。やたら、この手の裁判に遭遇するなってのがあったりするんです。もちろん、組織犯罪などで一斉に検挙されたから、同じような裁判が続くわけですが、そういうものでもなく。

というわけで、やたら今年2月は「おしっこ」事案が僕の周りで続いたんで、その中の一つの話なんかを。「えっ?ここでもおしっこ絡み?」って心の底から嬉しくない偶然でした。なにかのパラレルワールドに突入してしまったのかと思いました。

はい、今回の話、汚いので読み進めるにあたりお気をつけください。マジで気を付けてくださいよ。僕、言いましたからね。

はじめに 〜無職のときは「NJ(No Job)」とメモすることにしている〜

罪名 :建造物損壊、窃盗
被告人:40代男性
傍聴席:平均5人(傍聴全2回)

被告人は大柄な男性。伝わるかわかりませんが、黒のスエット姿がよく似合う感じの人。まぁ、少しだらーっとしている感じの人。痩せたらモテそうな気がしなくもないんですけどね。
実家暮らしで、無職のようです。


事件の概要(起訴状の要約) 〜人の尿と書いて「人尿」〜


被告人は自身が住むマンションにおいて、
自分の下の階に住む女性宅のドア、通路などに向けて、スプレーボトルに入れた人尿を吹き付けて、見積額131万円の汚損などの被害を負わせた
階段に設置されていた防犯カメラを窃取した

「人尿」なんて言葉、メモで文字として書いたのも、原稿としてパソコンに打ち込むのも初めてですよ。吹き付けるのは当然汚いんですが、どうやってボトルに入れたんでしょうね。
全部、うまく入るとも思えないので、途中何度か家の中で大惨事なんてことも起きていたかもしれませんね…。

オッサンの汚い悪戦苦闘を自分で勝手に想像して、勝手にブルーになった真夏の日。


採用された証拠類 〜お婆ちゃんの家は臭いから行きたくない〜

検察官証拠
被告人は働いていた時期もあるものの35歳から無職で両親と実家で暮らしている。前科はないが、逮捕歴が1回ある。

数年前から真下に住む住民(今回の被害者)と生活音を巡るトラブルとなり、事件当時も朝の散歩に行くドアの開け閉めの音が気になっていたとのこと。被告人側から逆に大きな音楽を流して対抗したことがあるものの、それは騒音だと逆に警察に注意されてイライラしていた。

最初は唾や、口に含んだ飲み物を吹きかけていたがそのうちに尿を選択することに。被告人の家から、噴射に使ったと思われるスプレーボトルを押収した。(うげぇ)

被害者はある日から急に、自宅付近におしっこのようなものが撒かれていると気付き管理会社に連絡した。日に日に臭いはきつくなっていき、壁は黄色に変色していった。
孫からは「お婆ちゃんの家は臭いから行きたくない」などと言われてしまい寄り付かなくなった。旦那さんと過ごしてきた思い出の家を汚されて大変憤った気持ちになっている。

管理会社は被害者から相談を受け、マンション内に複数防犯カメラを設置した。しかし1箇所を除きケーブルが切られて盗まれていた。残っていたものに写っていたのは、犯行に至る様子で顔が隠されていた姿だけだった。

裁判傍聴したてのとき、検察官なり、裁判官が押収したエロDVDのタイトルや、卑猥な文言などを真顔で淡々と読み上げるのが面白いというのがあったりしますが、検察官が真顔で「お婆ちゃんの家は臭いから行きたくない」と読み上げたのも妙にツボでした。
証拠を全部読み上げるわけにはいかないのでポイントだけ読み上げてくれるんですけど、この孫からの言葉が被害を表すのに重要ポイントと認定したんですね。確かに、深刻な被害とは言えますが...。


被告人質問 〜マンションの回覧板で回される被害〜

前科がなく、実家暮らしである場合、両親が証人に立つことがありますが、証人に立つことはなく、陳述書の提出もありませんでした。
たまに証人尋問の様子を形式的だなぁと思うこともありますが、やはりいなかったら、その必要性を感じるものなのですね。

被告人質問で、その親御さんが来ない理由など感じ取れるものでしょうか。

弁「なぜ、こんなことをしたのですか」
被「騒音トラブルというか、朝とかにドアの軋む音がうるさくて」

弁「それでなんでこの行為になっちゃうんですか」
被「人が嫌がるのは何かなと思ったら、自分のアレかなと。相手からの嫌がらせだと思っていたので」

弁「それによってどうなると思ったんですか」
被「辞めてくれると思いました

これ後に検察側の質問で明らかになるんですが、そのドアの音について被害者に言うでも、親や管理会社に言うでもなかったようなんです。なので、被害者にとっては何がなんやらの状況だったはずなので、何も辞めるはずがないんですよね。

弁「尿をスプレーしたのは何回くらいですか」
被「100回はしたと思います」

弁「そんなに重ねたら自分の立場が悪くなるとは思わなかったんですか」
被「そのときは思えませんでした。やられたから、やり返すくらいのつもりだったんで」

弁「カメラを盗ったのはどうしてですか」
被「プライバシーの侵害や、と思って腹立ったので」

弁「そのカメラをどうしようと思ったんですか」
被「僕の家の前にも生ゴミとか置かれるんで、それを撮ってやろうかと」

弁「自分のカメラでないのに盗っていいと思ったんですか」
被「警察のものと思ったんで、後で返せばいいかなって。でも、いくら警察のものでも盗ったのは反省しています

そりゃあ、そんなルールはねぇからな。「警察のものだから、後で返せばいい」ってすげぇ感覚ですよね。これは親御さんがどう言っても聞かないんだろうなと勝手に妄想。

弁「汚染した被害弁償はどうしますか」
被「今は無職なんで「返すわ!」とは言えないですけど、住み込みでできる仕事を探そうと思います」

弁「最後に言いたいことなどあれば」
被「取調べしてくれた検事さんからは、第三者にもっと相談しなさいって言われました。弁護士、警察、管理会社とかですね。どこにいっても、うるさいって感じることってあると思うんすよね。だから、なんとか今回とは違う形で解決したいなって。でも、検察さんからは更生できるよって、言ってもらえて頑張らなきゃと思いました」

前向きになっている中、大変申し訳ないんですが、何をいきなり語りだしたんだ!?と思っちゃいましたよ。この、おしっこ撒きが!
あと家の前に生ゴミ撒かれているってなんすか?それはそれで対処しろよ。変な住民しかいないのか、このマンションは。

でも、検察さんもそういうこと言ってくれるんですね。こういう風に前向きになってもらうことで、一つでも犯罪の芽を潰せるのは公共の利益ってことなんですかね。
では、その検察さんからの質問に移りましょう。

検「ドアの明け閉めって生活音じゃないんですか」
被「さすがに朝早くってのは迷惑なので」

検「両親や管理会社には相談していないんですか」
被「していません」

検「どうしてですか」
被「もう腹が立って、腹が立ってという思いしかなくて」

検「マンションでこの件について回覧板が回っていたの知っていますか」
被「らしいですけど、自分もまた被害者だと思っていましたから」

引かないねぇ。そこまで言うなら、むしろどれほどの音だったのか気になってきました。
ってか回覧板が回っているって相当大ごとになっている気が。「◯◯さん宅のドア付近におしっこ風なものが撒かれて困っています」とか書かれていたのかな。

検「被害者にとっては、同じことされるのが恐いと感じていると思いませんか」
被「なので家は出るつもりです」

検「両親はなんて言っているんですか」
被「保証人とかにはなったるで、とは言っています」

検「あなた、親から「病院行け」とか言われてたりしませんか」
被「そうは、言われてないですが、「お前いつまで家におんねん」とは言われてるんで」

検「あなた無職ですけど、そのお金とかは」
被「しばらくはネカフェで、親からお金もらったりとかですかね」

検「親にそういったお金の相談などはしているんですか」
被「いや、面会室はそういう話をする場所じゃありませんから」

もう追い出される寸前だったんじゃん。それでも、なお親にお金を出してもらう前提なのがすごいですね。こうはなりたくないですが、こういうことを何の気無しに言えるメンタルは微妙に羨ましかったりもします。

最後に裁判官からもちょっとだけ質問します。

裁「両親との仲はどうなんですか?」
被「いたって普通だと思います」

裁「親に相談しなかったのはなぜですか」
被「親に泣きつくのは嫌だなって。あと困らせるのも嫌だし、自分で解決しようと思って」

散々、生活面で親に泣きついて、困らせてるのに、さらに困らせてしまったというのに。そしてその考えた解決の方法がよりによって、おしっこだとは。

この人、どうしたらいいんですかね。実家に住まわせ続けたら両親の負担になるし被害者が安心した生活を送れないし。
でも、かと言ってこの考えの人を外に放出することによって、どうなっちゃうんだろうという不安は残りますよね。

求刑は懲役2年6月でした。
判決は見に行けませんでした。というか、もちろん見に行くつもりだったんですよ。でも、裁判所の正門にある開廷表にはその裁判の記載がなかったんです。だから見逃しちゃって。法廷前の開廷表にはちゃんと予定として載っていたらしいんですけど。たまに、こういう謎の事務的ミスがあるのです。

気になる判決だったんで、見れなかったのショックでした。というか軽く怒ってましたよ。

でも、だからといって、おしっこ撒き散らすという発想にはなりませんが。

今回の内容は動画にもしています。よろしければ、そちらも御覧ください。


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