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おふざけは法廷のあとで(道路交通法違反) 傍聴小景 #22

いろいろと適当なのに愛される人っていますけど、あの能力ってなんなんですかね?単純な見た目の良し悪しでなく、語り口であったり、人の懐に入るうまさであったりするのでしょうね。僕はそういうの苦手なので本当に学びたい気持ちはあるのです。
まぁ、裁判においてはそういう能力は慎んでいただきたいものですが。

はじめに

罪名:道路交通法違反
被告人:50代の男性
傍聴席:4人

被告人はスーツを着た、普通の社会人。なんというか、クラスに一人はこういう父ちゃんいるよなっていう、ガタイがよく「ガッハッハ」と豪快に笑いそうな人。
こういう人、職場にいたら明るいんだよなぁ。まぁあんまり役職が高いイメージはわかないけど。

事件の概要(起訴状の要約)

被告人は大阪府内の高速道路内において、制限速度を大幅に超える
161km/hで進行していた

見た目通り、豪快なことをする方です。
ちなみにこういった速度超過ってどういう流れで検挙されて裁判までいくんですか?その流れが知りたいです。
路上で、野球のスピードガンみたいなの持って見張っている方もいますけど、そんなスピードじゃわかってから追いつけないですもんね。オービスなんかも超過したら、どういうデータが飛んで、そこから何を判断するんですかね。それを追えるような職場体験がしたい!
というのも、いろんな事情があるんでしょうけど、今回速度超過してから裁判まで8ヶ月かかってるんですよ。かかり過ぎですよね。そのときのことを裁判で思い出せと言われても難しそうです。

さて、被告人はどこまで当時のことを記憶しているのでしょうか。
被告人質問です。

被告人質問

「被告人は今回、どこからどこへ向かう予定だったのですか」
「大阪府の箕面(みのお)から、兵庫県の夙川(しゅくがわ)です」

「夙川には何故行く必要が」
息子の部活動の送迎当番になっていまして」

「大阪の箕面へは何故いたのですか」
会社で以前世話になった人が亡くなりまして、線香を上げに

関西以外の方にはわかりにくいかもしれませんが、この2ヶ所はそんな遠くはないです。
電車だと乗り換えを何度かしなきゃですが、車なら箕面の場所にもよりますがだいたい20km前後くらいでしょうかね。

「何時から何時までその箕面のお宅にはいたのですか」
「10時から12時くらいです」

「夙川にいなきゃいけないのは」
「13時です」

「元々、箕面にはそれくらいいるつもりだったのですか」
本当は11時には出る予定でした」

細かい確認作業は、聞いていて面倒に思うこともありますが、ちょっとずつ事件像のパズルが埋まっていくようで興味深くもあります。
半年以上前のことをこうもスラスラ出てくるのは、どう考えても事前の打ち合わせの成果ですから、この被告人質問自体は弁護人が書いたシナリオなんだろうなと思っていたのですが、ここから雲行きが怪しくなります。

「どうして、家を出るのが遅れてしまったのですか」
「いや、それが、、、



  向こうの奥さんがホントよく喋る人で 笑

急に笑いながら、他人のせいにする被告人。「ちょっと、聞いてくださいよ~」みたいなテンションだと思っていただければ。
例えそうだとしても、ちゃんと断るか、もしくはただただ自分の認識の甘さを反省しなさいと思ったのですが、

「それでは、そういったトラブルがなければ、予定通りの行動を
  していたということ?」
「はい、もちろんです。息子の部活がかかっていますから。」

おばさんの話が長いことをトラブル扱いにし始める弁護人。これが描いたシナリオだとしたら、なかなかに酷いです。
「どうせ、法廷に来ないし、原因として責任を被ってもらおうか、フヒヒ…」
いや、本当に話が長かったのだとしても、別にそれが原因にはならんし、って誰かシナリオ時点で突っ込んであげる人はいなかったのでしょうか。有名な作家とかもそうですけど、ちゃんと意見できる編集さんがいないとダメですね。

弁「実際、12時に家を出たら、どうすべきと考えたのですか」
被「高速道路を使えば、なんとか間に合うかなって思ったんですけどね」

弁「なんとか間に合うというのは、法定速度を守っての話ですよね」
被「もちろんそうです!・・・」

弁「・・・・・・」
被「・・・いや、ちょっとスピード出せばですけど」

弁「ですよね」
被「いややややや、でも見通しのいい場所だけの話ですよ」

法廷で、オッサン同士が何を仲良くやりあってるんだよ!
今回、一歩間違えたら、本人はもちろん、多くの人が巻き込まれる大事故になってた可能性をわかっているんかね。

この「見通しのいい場所だけ」ならいいって考えが、文句なしに悪い。まぁ多少は、気持ちはわかるけどさ、それを裁判で言っちゃうあたりが、本当に悪いと思っていないんだなってが出ちゃってます。

「ほかの親御さんの連絡先は知らなかったんですか」
「いえ、誰も知りませんでした」

「速度超過以外の方法はなかったんでしょうか」
「いやぁ、ちょっと思い浮かばなくて、なんとか間に合わせたいと思い」

それにしたって限度があるだろうがよ。160km/hってなに?
あ、ちなみに部活動のお迎えということで、お分かりかと思いますが、深夜とかではありません。普通に昼間の12時とかの話です。ってかこの感じなら、仮に夜だったら酒まで飲んじゃってるだろうな。

とにかく弁護人からは、本来スピードを出す必要はなかったのと、他に手立てがなかったということをひたすらアピールして終了。
検察官からは、いろいろ厳しいご意見もあったのですが、なんだかんだヘラヘラとかわしまくった被告人。
最後の裁判官に対してはどうでしょうか。

「送迎当番とのことなんですけどね、それは送る方か、迎える方ですか」
「送る方です。駅から会場へと」

「その送迎当番は当番表とかは作られていないのですか」
「そういうのはないですね」

「あれば、他の親御さんの電話などもわかると思ったのですが」
もう高校生ですから、車が必要になったら子どもたち同士で、
  誰の親なら頼めるかと探していく形なんです」

送迎当番の実情をはっきりさせたい裁判官。いいよ細かい運用は、とも思うのですが、本当に他に手がなかったのかの可能性を潰したいんでしょうね。きっと頭の中では、連絡網みたいなのが浮かんでいたのでしょうね。なんか、かわいい。

あ、あと被告人、「もう高校生ですから」とか子どもの自主性的な言ってるけど、普通は「もう50代ですから時間に余裕を持って行動します、とか言われないようにします」って言わなきゃいけない立場なのは、お分かりですかな?

「息子さんに連絡を取る方法はなかったのですか」
「息子は当時、携帯を持っていませんで」

「それはどうして」
息子が悪いことしたもんで、ちょうど携帯を取り上げていたんです。
  いやぁ、悪いことって重なるもんですね」

裁判長~!この被告人も悪いことしたんで、携帯を取り上げた方がいいと思います!
この人の緊張感の無さ伝わらないかな。マスオさんの声で、サザエさんの次回予告みたいにすると、この場の雰囲気が伝わるかもしれない。

マスオです。
今日は、カツオくんの部活動の送迎を任されていたんですけど、SNSで「裏バイト」と検索してヒットした、怪しい人からもらったキャッシュカードを別の口座に移す仕事をしていたら、警察に捕まってさっきまで取調べ。ついでにカツオくんの送迎もできずに不戦敗で高校三年間の部活が終わってしまいました。
いやぁ、悪いことって重なるものですね、とほほほほ

カツオかわいそう!
うん、例としては不適格だったけど、書いてて楽しかったから、これで良しとしてください。

「今回、不利益を被る可能性があったのは、息子さんが部活動の試合に
  間に合わないということのみですか」
「はい、そうです」

「で、あったとしても、あなたが罪を犯してこのように
  裁判になることと、どちらを優先すべきであったものと思いますか」
「・・・・・・」

裁「答えられませんか」
・・・いえ、法律です

「大人として道路交通法を守るのはごくごく当たり前の話です。
  この場で二度と罪を犯さないと誓ってください」
「・・・はい、誓います」

のらりくらりで逃げようとする人には、ビシッと言うのが一番ですね。
最終的には、意気消沈していました。まぁ本当に反省してるのかはしりませんが。

論告・弁論

検察官による論告
・制限速度を大幅に超えており危険極まりない
・車の運転は見通しの良さだけでなく、小石や小動物などの
 想定できない事態にも対応できるべきであり、
 そういった認識もないのは運転者としての資格がない
・法を犯してまで行う緊急性がある動機とはいえない
求刑 懲役四月

弁護人による弁論
・息子の部活動に間に合わせたいというやむを得ない事情があった
・本来、時間に余裕はあったはずだが、恩人の奥さんの話が
 思いのほか長く、滞在が長くなってしまったことによるもの

弁護人は結局、それで押し通すつもりなんやね。。。

社会に出ると、意外と「ちゃんと謝る」ということができない人がいて驚くことがあります。双方でその件に対する温度差があるだけなのか、なぁなぁで乗り切れると思っているだけなのかわかりませんが。

でも、一個人が不利益を被るだけならまだしも、それによって多くの人に迷惑をかける可能性があるという視野の持ち方って、これもまた会社などによって重要視していないところもあるのかもしれません。

でも、やっぱ本当に謝るべきところってのは理解してもらいたいものです。
自分が被害者になって、そんなヘラヘラした奴が来たらどう思うのでしょうか。

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