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被害者はそのとき何を思ったのか(住居侵入) 傍聴小景 #13

傍聴したい裁判って人によって異なるので、そこにも一つの人間性って表れるなって思います。

超非道な犯行でニュースになっている事件、芸能人が関わっている事件、罪名に「わいせつ」系の文言が入っている事件などなど、いろいろな人のタイプがあります。

そういう意味でいうと、僕はニュースを見てこれ傍聴したいなと思うこともあまりありませんし(絶対にないとは言わないけど)、芸能人の裁判もさほどです。わいせつ系も、時間が合えばくらい。
あえて言えば「窃盗」もしくは、珍しい罪名は優先的に見るけどもくらいです。
ですが、今回はその罪名が珍しいわけでもないのに、罪名に惹かれてしまった裁判についてです。


はじめに

罪名:住居侵入
被告人:30代のベトナム人男性
傍聴席:平均9人

住居侵入罪って全く珍しくないんですよ。恐らく全刑事裁判の中でベスト10に入るくらいにメジャー。
では、どうして罪名に惹かれたかというと、

「住居侵入」のみで起訴されているのはすごく珍しい。だいたいが、
人の家に入った上で何かをすることが多いので、「窃盗」などとセットになることが多いのです。

これは裁判前から期待が高まります。


そして、裁判が始まる前に、とあるドタバタがありまして..。

ただ、そのドタバタなんですが、私が別にやっているYouTube以上にうまく説明できる自信がありません。
noteとYouTubeとで同じ人間がやっているけど、別物の良さを出せるよう頑張ってきたつもりですが、すみません、この部分だけはYouTubeでご覧ください。

最悪、動画は見なくても、それ以降の話には特に影響しませんのでご安心を。
01:48~6:45のみを見ていただければ大丈夫です。

自分で言うのもですが、ここすごい面白かったんだよなぁ。伝わらなかったら僕のトーク力のなさです。この子(裁判)らは悪くないの!

ただ、もし気に入ったらこれを機にチャンネル登録をお願いしますね。


では、裁判について


事件の概要(起訴状の要約)

被告人は、無施錠の家に侵入して、当時在宅していた家主に見つかって
家を出た

という罪です。
はたして「これは罪なのか?」と思ってしまうような内容です。


この起訴内容に対して、罪状認否といって被告人と弁護人に対する最初の意見を聞く場面があります。
今まですべて「間違いありません」だったのでスルーしてたのですが。

これに対し、

被告人:「間違いない」、
弁護人:「被告人は心神耗弱(しんしんこうじゃく)状態であったので、
     犯罪事実自体は認めるが、情状酌量の余地を検討して欲しい」

という主張。
事件当時精神が不安定で、判断能力が劣っていたとのこと。

なるほど。それであれば、このよくわからない罪状も納得できなくもないです。
残虐な事件とかで心神喪失だ、心神耗弱だと聞くと、言い逃れのために使ってるだけだ!と穿った見方をしてしまうのに、この内容だと許せてしまうというのは、私もまだまだ感情に左右されていますね。


検察官からの証拠提示

・被告人はベトナム人の妻と子どもと3人で暮らしている
・事件の家には、金品を窃取する目的で入室した

・家の1階で金品を探したが見つからず、2階で昼寝をしていた家主に
 見つかり、出ていくように言われて、ドアから出た
・被告人と家主に面識はない

・家主が警察に通報して、警察官がかけつけたところ、
 被告人は家の付近を徘徊していた

なんとも不思議な内容ではあるのですが、金品窃取の目的はあったと供述はしているようです。ただ、この供述については、裁判では否認しているのですが。

どちらにせよ、この場合に「窃盗未遂罪」はつかないのかなと思うのですが、これは罪状の成立する要件の話になるので、不確かな可能性もありますが、

物色をするなど「実行の着手」が認められた場合に成立するっぽいです。他方で、金庫などに侵入した場合は、その侵入により窃盗の実行の着手が認められたりするらしいです。

大学生になりてー!この辺りの話を教授に「裁判で傍聴したんすけど、このケースはどうですか?…じゃあ、これは?」とか次々に話して、「なんだこいつ、めんどくせぇな」と思わせたーい!


それにしても、今回は金品の被害がなかったから、こんな感じで書いちゃってるけど、家主は驚いただろうな。

昼寝してて、起きたら見知らぬベトナム人が家に入ってきてて、出ていけと言ったら出て行って、何も取られた形跡などない。
……
……
しばらくは、寝ぼけてるのかなって思ってしまいそう。
いやぁ、ほんと何もなくてよかった。


続いて、被告人の今後の監督を約束する二名の証人尋問に移ります。
奥さん教会の支援者さん(日本人)と。教会の支援者さんの話だけ抜粋。


証人尋問(弁護人から)

「被告人は、どれくらいの頻度で会っていましたか」
「ミサの関係で週に一度ほどです」

「被告人の奥さんと会ったことは?」
「日本語教室を週に一回しているので、そこに参加されたときに話した」

(中略)

「今回、被告人の示談金の20万円に、あなたはどう関わっていますか?」
「お金がないと知っていたので、教会に支援のお願いをし、そこから出した

「被告人が逮捕勾留されている期間、家族への支援などは行った?
2ヶ月連続で10万円ほど支援した

「それは神父も知ってのことですか?」
「神父を通さないと動けないことなので、当然知っている」

すごいな、教会って。

自分が宗教とかに、てんで疎いもんでして、これって当たり前なんですかね?
よっぽど貢献度が高いのか、信じるものは救われるべきという救いの手なのか。裁判で、こんなことまで知れるとは思わなかった。


さて、お次は被告人質問。

心神耗弱が疑われている方で、私も傍聴席で見ていて、ややうつろな雰囲気なので、答弁もそんな感じだったのですが、この書き起こし自体はスムーズに書いていきます


被告人質問(弁護人から)

「幻覚を見たり、幻聴を聞いたりすることはありますか」
「幻聴を聞くことがあります」

「それについて医師から診断などは受けていますか?」
統合失調症といわれています」

「そのことで治療などは継続的に受けていましたか」
新しい病院でもらった薬が自分にとって合わず
  期間が空いてしまったりしました」

今度は、綺麗に整えていない問答を届けたいなと、ここまで書いて思いました。だって、実際はかなり時間がかかったんだもん。

ちなみに、メモに際しても、あまり話がいったりきたりされてもダレてしまうので、要点だけをメモするようにしています。なので、当時のあっちこっち問答は再現不可なのですが。

「どうして、今回人の家に入ったのですか」
「詳しくは覚えていないのですが、家のカギがかかっていないのが
  見えた
ので、それを教えてあげなきゃと思ったのです」

「なにか物を盗ろうという思いはありましたか」
ありません

「警察での調書には物を盗るつもりで家に入ったとありますが、
  記憶にありますか」
「その取調べの際は、幻聴がひどく集中できなかったので、
  警察が言う通りのことをただ返すしかできなかった
んです」

「サインをしたのは自身で間違いないですか」
「はい」

「中身を確認した上でサインをしましたか」
「あまり覚えていませんが、中身を確認するように言われたと
  思いますが、私自身はっきりとしていなかったので、
  中を見ていないと思います」

調書に盗むつもりで入ったと言っていたようですが、否定していたのはこういう理由だそうです。
まぁ確かに筋が通っているといえば、そういう気もする。


さて、検察官は住居侵入以外の犯罪事実の認識などについて証明することはできるのか。

被告人質問(検察官から)

「ドアに鍵がついていないので教えようと思ったって言いましたけど、
  どうやってそれわかったんですか?」
「自転車のカギがかかってないのが見え、大きな扉もカギが
  かかってなく半開きだったので、私のように物を忘れる人なのかと
  思いました。」

「今までも、他の人にカギがかかってないですよ、と言ったことって
  あるんですか?」
「いえ、ないです」

「じゃあ、どうして今回は言ったの?」
「わかりません。でも、何故かそのとき不安になってしまったのです」

もう、こう言われてしまっては、どうにも手立ては出来ない気がします。
あと、単純にこの検察官の詰めが弱かった。


被告人質問(裁判官から)

「悪いことをしたという認識はありますか?」
「はい」

「それはどういった点が」
「許可もなく人の家に入ったことです」

小説とかの知識なんで、どこまで正確かは知りませんが、心神耗弱といっても全てが荒唐無稽ってわけでなく、その人の中では一貫しているというのが条件としてあると聞いたことがあります。

そういう意味では、この被告人もその点では一貫しているように素人目には感じます。

「あなた、警察での取調べに関しては、幻聴が聞こえていたので、
  事実でないかもしれないことも「はい」と言った
といったことを
  言いましたかね?」
「はい」

「物を盗るつもりで入ったかというのもそれであったと」
「はい、そうです」

何を聞かれても「はい」って答えちゃってたってことかな?」
「はい、そうです」

「調書に「山登りの道具が欲しかった」と答えているようだけど、
  これも警察官に言われるがままってこと?」
「はい」

「普通、「はいはい」言ってるだけだったら、
 「山登りの道具」ってワードいきなり警察官から出てこないと思う
けど、
  これはなんでだと思う」
「…ちょっと、わかりません」

裁判官、クリティカルヒット来ましたね!

弁護側は、意識が朦朧としていたから、ただ「はいはい」言っていただけで、この調書に意味はないんだと言っていると。
一方で裁判官は「それにしちゃ、ちゃんと自分のことを自分から発しているじゃん」という質問。

まぁこれだけで、窃盗意欲があったかなど証明できるものでもないのですが、地味な事件ながらいい働きをしたなという感じです。


論告・弁論

検察官より論告
・金品窃取の目的で同期に酌量の余地はない
・家の二階まで侵入するという、平穏な生活を脅かす行為である
・警察官との一定のコミュニケーションも認められ、
 人格を減していたとは思えない

求刑 罰金十万円

弁護人より最終弁論
・真摯に反省し、示談も成立している
・統合失調症の診断が出ており、自らの理由だが薬を減らしており
 その症状が出ていた
・判断能力がないときの供述調書に有効性はない
・物色のあとがなく窃盗目的とはいえない
・可能な限り寛大な判決を



判決

主文 罰金八万円 未決勾留日数中1日を5千円と換算し、納めたものとする

・物事の判断能力については、善悪の判断について証言していることからも
 あったものとする
・不自然さはあるが、家を出るように言われ出るなど合理的な行動と言える
・統合失調により一定の減退が認められる
・犯行対応は日中のことで、大胆であるが悪質とまでは言い切れず、
 統合失調の判断も踏まえ、求刑より減刑するのが妥当と考えた。

まず、note等では初めての判決主文なので、
「罰金八万円 未決勾留日数中1日を5千円と換算し、納めたものとする」ここの説明をします。まぁこのままと言ったらそうなのですが。

罰金は八万円です。でも、逮捕勾留されている時期があったので、その日数分、1日5千円と換算し、罰金を払ったと一緒と考えますというもの。うーん、そのまんま過ぎるな。

とにかく、この被告人はそれなりの日数、勾留されていたので、罰金八万円が下りましたが、これは完納と同義となり、即釈放となりました。



色んなものが絡み合った裁判で、つい長くなってしまいましたが、
やっぱ事件名だけでは裁判の良し悪しって決まらないなと改めて思っちゃいました。

これくらいの罪状とあえて表現しましょう、
それでも、しっかりとしたルールに基づき、計3回も裁判が開かれるんですから、裁判という場の誠実さというかなんというかに、
やはり私は心惹かれてしまうのです。

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