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「俺はいったい何を見せられているんだ?」は最高に楽しい 〜シラスの動画配信を初視聴して〜

 ひょんなことから仲間内で「シラスの配信見てみよーぜ」ということになり、ゲンロンカフェ主催の動画配信プラットフォーム「シラス」の配信を単発購入した。
 全ての動画を視聴できる定期購読は6600円とAdobeのサブスクくらいするが、動画の単発購入なら880円、しっかりしたラーメン1杯分だ。

 で、これがめちゃくちゃ面白かった。議論については正直、前提知識が不足して、ついていけない部分がほとんどだったにも関わらず、気がつくと5時間以上ぶっ通しで視聴してしまっていた。

 19時から始まって0時をゆうに超えたにも関わらず、まだパワーポイントが終わらない(脱線しすぎて)。ついに放送は延長となり、190円くらいの追加料金が発生したタイミングで自分はバテたものの、友人たちは最後まで視聴して大満足だったようだ。

 難解な議論や用語が飛び交う配信で、こちらの理解が追いつかないにも関わらず、なぜそれだけ集中力が途切れずに楽しめたのか?について簡単な感想文を提出してみたい。

 こういう文章を書くのは慣れていないので、さっそく結論から言うと、一つは登壇者の身体性(らしきもの)が潤沢な情報を発信し続けていたということ、もう一つはそれを「視聴」するというフォーマットが整備されていたということ、この両者が、登壇者の鑑賞を可能にしてしまったのではないか?みたいなことを考えている。

 主催の東浩紀さんや、ゲストの飯田泰之さん、井上智洋さんについて、自分は何も知らない。「東さんっていう人が、なんかツイッターで炎上してたな〜」くらいの解像度だった。
 それでいきなりこの配信を視聴したので、本当に失礼を承知で申し上げれば、「3人のおじさんが酔っ払って楽しそうに、でも真剣にしゃべくり散らかしていた」のであって、第一にそれを観てて最高に楽しかった。そのオマケとして話題が知的興奮を伴うものだったのだから、これは随分と腹持ちのいいラーメンだ。

 冒頭はさすがという感じで理論を展開し、関連図書を見事に要約したパワポなどで、すごいな〜と思って観ていたはずが…気がつくと全員酔いがまわってきて、あるいは視聴者のコメントを受けて、議論はどんどん、どんどんどんどん脱線していく。
 話の一番面白い部分を伝えるときの、あの横から差し込むような独特のしぐさ、なにかと盛り上がると「イエス!イエス!」と連呼したり、「遅れてきたニューアカ野郎」という力強いパワポ、贈与論に触れたと思えば「うちの娘が大きくなって…」とお父さんトークになったり、後半は飲みすぎてうつらうつらとしていたり、頻繁にトイレに行き始めたり、休憩を挟んだことを忘れていたり…

 単にテーマについての議論を観に来た人にとっては、そんなことはすべてノイズどころか、あるまじき態度ですらあるのかもしれないのだけど、初見の自分にとっては、そのどれもが面白い、もっと突っ込んだ言い方をすれば「愛おしい」とさえ思えてしまった。

 印象深かったのは、自分とは別の、初見の20代の視聴者さんが「東さんの本を読んだことないんですよ」とコメントしていた場面だ。自分もそうだったので、他の視聴者さんから「そんな浅学なことではダメだ、出直してこい」くらい言われるのではないかと、他人事ながら内心ヒヤリとしていた。

 だけどそんな空気は一切なく、むしろそんな人までもが動画を視聴しに来てくれたことが感慨深い、というようなムードだった。
 飯田さんと井上さんが「ぜひ読んでみて!すごいから!」と言っているのに対して東さんが「いや、あの、ゲンロン戦記だけ読んでくれたらいいから…」「若い頃の自分は本当に愚かだったので…」などと、はにかみながら言っていたりして、

 もう本当に良くて、ついつい自分もゲンロン戦記を買ってしまった(友人は井上さんの「純粋機械化経済」まで買ってた)。

 今日になって、今回の動画配信に、なんとなく既視感があることに気が付いた。
 須賀原洋行「新釈うああ哲学事典 下(モーニングコミックス)」にあった、哲学がもてはやされている世界線でのこのページだ。

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 今あらためて引用してみると、別にそんなに同じではないのだけど、要は「議論という抽象的な場において、身体性が立ち上がってくる」という場面として、自分の頭の中で紐付けされたのだと思う。

「ゲンロン戦記」を読んでいくと、このことについて「誤配」というキーワードが出てくる。ノイズまみれで予定調和のない、言語的・理論的ではない領域のものの作用。そういったものが、たしかにあり、自分自身に大きく作用しているのを、実際に感じることができた。

 お金の工面はいつも厳しいけれど、また月一くらいで、シラスの動画視聴を購入したいと思っている。

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