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「救われた誰かがいることがわたしにとっての救いになる」いいへんじ インタビュー

佐藤佐吉演劇祭実行委員会が、参加団体の魅力を紹介するため稽古中のお忙しい所にインタビューを敢行!第10弾はいいへんじの中島梓織さん、飯尾朋花さん、小澤南穂子さんにお話を伺いました!

佐藤佐吉演劇祭2024参加団体インタビュー
ゲスト:中島梓織・飯尾朋花・小澤南穂子(いいへんじ)
聞き手:内田倭史(佐藤佐吉演劇祭実行委員会)


俳優さんのもっているチャーミングさや、やりとりのなかに生み出される可笑しさを大切に

内田:自己紹介をお願いします!
中島:いいへんじという団体で主宰・演出・劇作、今回は出演もやっています、中島梓織です。よろしくお願いします。
中島:いいへんじは早稲田大学演劇倶楽部っていうサークルの同期の子と2016年に結成して2017年に旗揚げをした団体です。その後、朋花と南穂子が演劇倶楽部に入ってきて、2020年にいいへんじのメンバーになってくれました。
作風は、会話劇という説明をすることが多いですね。どうでもいいこと、としてもいいんだけど、なんかずっと考えちゃうことをテーマにすることが多いです。日常の中で引っかかった言葉やジェンダーのこと、メンタルヘルスのことなどを扱ってきました。
テーマだけを聞くと、難しい事を考える作品なのかなとか、堅苦しい感じなのかなと思われがちなんですけど、俳優さんのもっているチャーミングさや、やりとりのなかに生み出される可笑しさを大切に作品を作っています。
内田:今回は出演もされるという事ですが、今までは?
中島:旗揚げ公演には出演していたんですが、劇作と演出もやっている自分が出演すると、客観的にだれも見れないなと思って、それ以降は出ていませんでした。今回は、友達っていうのが作品のテーマであることもあって、稽古場での関係の作り方を考えた時に、完全には無理でもできるだけフラットな立場で俳優さんと関われないかなと思って今回は出演することにしました。

稽古風景

もうこれは書いた人の思い通りに演出するとか無理だ

内田:実際にそういうやり方で創作をしてみてどうですか?
中島:俳優として皆さんにすごく助けられていますね。みんな率直にどう見えたのかを言ってくれるのがすごくありがたいです。見てもらってそれを言葉にしてもらうことってすごく嬉しいことだな、とまず思いました。稽古としては、今はまだいろんな可能性を探っていて、どう見えたかをお互いに伝え合っている段階で、自分が書いていた時に想定したものとは違うことが生まれていて面白いです。かつ、今回は3チームあるので3パターンとも違うものが生まれていて、もうこれは書いた人の思い通りに演出するとか無理だって、いい意味で思いました。コントロールできるものではないから俳優さんから出てくる面白さでやった方がいいなって。なので自分が演じる時も、書いた時の感覚を再現しようとせず、劇作家としての自分は家に置いていくことが大切だなって思います。

稽古風景

どうやったら口先だけではなく一緒にいられるか

内田:今作『友達じゃない』を作ろうと思ったきっかけは?
中島:前回のいいへんじの公演が、2022年の6月で、今回は約二年ぶりの公演になるんですけど、前回公演のあと、自分が心身ともにあんまり調子が良くなかったのもあって、もう劇団続けられないかも、みたいな気持ちになって次の予定を立てなかったんです。立てなかったら立てなかったで、その間めちゃくちゃ寂しくて、わたし演劇やってなかったら友達いないんだなっていう孤独を感じていました。そこから、「友達がいない」とか「友達が欲しい」という時の”友達”って何を指すのかなっていうところにまず引っかかって。友達ってなんだろう?とか、どうやって人って友達になるのかな?みたいな。それをとことん物語にしようと思いました。子供の時はそんなこと考えなかったけど、大人になったら、役割や立場とかがある状態で人と出会うことがほとんどで、演劇をやっていると特にそれを強く感じる気がして。
みんなと友達でいたいな、とか稽古場でずっと遊んでたいな、みたいな気持ちがあるけど、
一方で、演出家が「みんな仲良くフレンドリーにやろうよ!」みたいなことを言いながらすごくトップダウン的だったりすることは往々にしてあると思っていて、主宰や演出家がみんなとフラットでいることってめちゃくちゃ難しいなと思っています。
現実として、最終決定権があるという意味で、自分にはある意味のパワーがあるので、みんなに対して「わたしたちはフラットな関係だよ」と言うことには慎重にならなきゃいけないなという思いがあります。今は、どうやったら口先だけではなく一緒にいられるか、ということを考えてやっています。今回、自分が俳優として創作の内側に入っていくっていうのも、その一つです。

 (ここから飯尾さん、小澤さんが合流)

内田:稽古はどんな感じですか?
飯尾:今はまだ3チーム一緒に稽古している段階なので、別のチームの稽古を楽しく見ながらやっています。同じ役だけど、全然違うものになっているので、新鮮に楽しんでいますね。今回の稽古では、なるべく今の自分の状態を正直に伝えることを大切にしています。
中島:稽古を始める前に元気度を1から10で申告してます。健康観察みたいな感じですね(笑)。
飯尾:最近は特に「緊張してます」とか「セリフが不安です」とかを正直にいうようにしています。隠すとあとで自分が苦しくなるから(笑)。
小澤:わたしは今年から、頑張らなきゃって思ったことは頑張らないっていうことを大切にしています。自分が頑張りたいって思うことは頑張るんですけど、人に言われたり、世間体を気にして、頑張らなきゃいけないと思った時は、一旦立ち止まって待ってみて、ネガティブな頑張り方をしないようにしています。

稽古風景

お互いにつっこめる余地がある関係性が作れるといいな

内田:創作の中で困った時、どう突破口を開けていますか?
小澤:わたしは、まずいと思ったとき、まずいと思った中にどんどん入っていっちゃうなと思っているので、この役ができない…演出家には何もいいことを言われない…どうしよう…みたいな時は、例えば学生時代なら、大学の授業を受けにいったりして、別の方向に視点広げるというか、意図的に逃げるみたいなことをしていました。
中島:わたしも行き詰まると、できてるはずのことも全部ダメだ…みたいな感じに思ってしまうので、考えたすえで駄目だったら、みんなに手伝ってもらいます。本来であればわたしがザクザク決めていった方がいい場面もあるけど、責任を放棄するわけではなく全うするために、力を貸してもらうことにしています。
飯尾:時間がまだ許すタイミングであれば、いっかい全部放棄して寝ます(笑)。意外と寝て起きたら解決したり。あとは、人にやばすぎと思われない程度に弱音を吐いています。無言で頭を抱えて悩むより、大きい声で「だめだー!」っていう方がいいだろうという(笑)。
中島:「山口綾子の居る砦」(飯尾さんと小澤さんの団体)にわたしが俳優として出演したとき、朋花が休憩中にじわじわ稽古場を周回し始めて最終的には「うわー!」って叫びながら走り回ってたことがあったね(笑)。
飯尾:「だめだ!いやだめじゃない!」とか一人で言っていました(笑)。
中島:ダメな時にシリアスになっちゃうと、救われないもんね。お互いにつっこめる余地がある関係性が作れるといいなと思っています。
内田:「山口綾子の居る砦」を始めてみて何か変わりましたか?
小澤:団体を運営するっていう視点も持てるようになって、いいへんじへの参加の仕方も、”いち出演者”から“構成員”っていう感じに変わった気がします。でも山口綾子でやっている時の方がしっかりやっていますね(笑)。いいへんじのときはみんなに頼ることの方が多いです。
中島:主宰としての相談ができることって珍しい気がします。「今ってちょっと焦る時期だよね」みたいな話を主宰として共有できたりするのはありがたいですね。

稽古風景

作品が存在していることが誰かにとっての救いになって、救われた誰かがいることがわたしにとっての救いになる

内田:演劇をやっていて好きな瞬間はどこですか?
小澤:ひとつはセリフとか演出が全部入った状態で、本番中に何も考えないで動いてる時が一番楽しいです。でも大学2、3年生のころからその感覚を失っていて、本番中もずっと頭で考えてるみたいな、ガチガチになってる状態がずっと続いていて、それがすごく苦しかったんですけど、去年の11月ぐらいから、「あれ?頭の中に何もない!あ、これだ!高校生のときに楽しかったやつだ!」って思い出して。
内田:すごい自力で!
小澤:ある日ふと思い出して(笑)。今はそれが楽しいです。もうひとつは、物語を書きたいという欲がすごくあって。なんでかわからないんですけど。今カフカとゲーテの対話集を読んでて、ゲーテはめちゃくちゃポジティブで、逆にカフカはめちゃくちゃ絶望していて、でも二人とも詩を作ったり小説を書いたり、ものを作っているところは共通していて、それはなんでだろう、何か本能的なものなのかもしれない、と。今はそういうことに興味があります。
飯尾:わたしは”こういう流れでこういうことを言う”みたいなものっていうよりかは、”その時その場で起こること”みたいなものが好きです。全然意味ないけど、なんか面白い会話とか。それを体現できて、見てる人にもそれが伝わっていると感じられると嬉しいですね。
中島:共感だけが良さではないと思うんですけど、やっぱり作品に共感してくれた時は嬉しいですね。劇作だけは一人でやっていて、めちゃくちゃ孤独で、「こんな面倒くさいこと考えてるようなやつと誰も演劇やりたくないですよ」って思いながら書いているんですけど、観てくれた人が「自分だけだと思っていたけど、同じ事を考えていた人がいたんだ!」っていう感想をくれたりして。そういう作品が存在していることが誰かにとっての救いになって、救われた誰かがいることがわたしにとっての救いになる。そういう循環が感じられる瞬間に、ああ作って良かったなと思います。共感してもらえなかったとしても、そういう視点がこの世にあるということを共有できると嬉しいです。

中島:ぜひ3チーム観てもらえると嬉しいです。ひとチームだけでも楽しいし、プラスアルファで、他のチームも観てもらえると俳優さんってすごっと思えると思います。同じ戯曲だけど、全然違う作品になっているので、ぜひお願いします!
内田:ありがとうございました!

作品の舞台となっている荒川の風景

より良い創作環境をつくるために、丁寧に考え行動するいいへんじの三人。お互いに頼り、頼られる、という信頼関係がうかがえるインタビューでした。社会に対するクリティカルな眼差しとチャーミングな俳優たちに出会いに北とぴあ ペガサスホールへ向かいましょう!きっといい機会になるはず。いいへんじの「友達じゃない」は3/20(水)から。3チームの上演を見比べてみると、三者三様の物語が楽しめます!

公演詳細

いいへんじ
早稲田大学出身の演劇団体。2016年結成、2017年旗揚げ。構成員は、中島梓織、飯尾朋花、小澤南穂子。答えを出すことよりも、わたしとあなたの間にある応えを大切に、ともに考える「機会」としての演劇作品の上演を目指しています。個人的な感覚や感情を問いの出発点とし言語化にこだわり続ける脚本と、くよくよ考えすぎてしまう人々の可笑しさと愛らしさを引き出す演出で、個人と社会との接点を見出したいと考えています。
佐藤佐吉演劇祭2024参加作品
いいへんじ『友達じゃない』
〇会場:北とぴあ ペガサスホール
〇作・演出:中島梓織
〇出演:
Aチーム
飯尾朋花(いいへんじ)、冨岡英香(もちもち/マチルダアパルトマン)、小林駿
Bチーム
中島梓織(いいへんじ)、タナカエミ、てっぺい右利き(パ萬)
Cチーム
小澤南穂子(いいへんじ)、百瀬葉、藤家矢麻刀
〇詳細はこちら
https://ii-hen-ji.amebaownd.com/(団体HP)
https://en-geki.com/sakichisai2024/iihenji.html(演劇祭特設サイト)

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