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「ふざけもしたいし、かっこつけもしたい」不条理コントユニットMELTインタビュー

佐藤佐吉演劇祭実行委員会が、参加団体の魅力を紹介するため稽古中のお忙しい所にインタビューを敢行!第五弾は不条理コントユニットMELTより演出家の平田純哉さん、劇作家の宇城悠人さんにお話を伺いました!

佐藤佐吉演劇祭2024参加団体インタビュー
ゲスト:平田純哉・宇城悠人(不条理コントユニットMELT)
聞き手:内田倭史・前田隆成(佐藤佐吉演劇祭実行委員会)



(宇城さん・平田さん)

3回は絶対にやろう

内田:自己紹介をお願いします。
平田:僕らは 98 年生まれの映画監督、作家、デザイナー、ラッパー、カメラマン、保育士が集まって立ち上げた、不条理コントというものを創作・発表する集団です。
内田:本当にいろいろな経歴を持った人が集まっていますね。どうやってそんな方々が集まったのですか?
平田:まず僕(平田)と宇城が高校1 年から 3 年まで同じクラスで、大学のゼミまで一緒っていう、気持ち悪いくらい長い付き合いなんですよ。
内田:すご!
平田:デザイナーの渋木も同じ高校で、他のメンバーの、カメラマンの馬場とラッパーの酒井、保育士のさとうは、僕が子役をやっていたころに所属していたスクール兼事務所のような場所で一緒に活動していた人たち。ようするに、全員僕の友達です。そのメンバーたちが何個かの劇団の解散などを経て、ちょっと大人になったしもう一回演劇やってみようか、といって2022 年から始めたという感じですね。
内田:今このタイミングなら、あのころの友達たちと演劇がやれるかも、と。
平田:以前はぐちゃぐちゃになってしまったけど、いまならできるかもって。
内田:結成しようと思った2022 年は何かきっかけがあったんですか?
平田:僕はずっと「やったらええじゃん」って宇城に言っていたんです。特にラジカル・ガジベリビンバ・システムやラーメンズのような、コントと演劇の中間みたいなことをやっていた人たちがゼロ年代半ばぐらいから減ってるし、宇城がそういうものを書けることはわかっていたので、やるなら今なんじゃないかって思っていて、僕と一緒じゃなくても演劇やれば?って、社会人になった宇城に1年くらい言い続けていたんですよ。
内田:大学卒業後、1年間を置いたのはなぜだったのですか?
宇城:僕、前の劇団がなくなった後は小説を書いていたんです。でも、いくつか書いた後に、あまり書けなくなってしまって。その代わり平田と一緒に入っているSlack のグループに、延々とどこにも発表する予定のないコント案みたいなのを投稿していました。
内田:なるほど。
平田:だからその、寝かしていた一年間は、宇城が小説書くと言い張っていた一年間です。
宇城:長編小説を書くと言っていたのに、ラジカルとかモンティ・パイソンの話をずっととしていて。
平田:暇しかなかった学生時代から、しょっちゅう一晩中かかるくらいの長電話をしていたんですけど、最後の方は話すことがなくなって、どこでやるかもわからないコント案をずっとこうなったら面白いよねって言い合っていました。それが卒業後もどんどん溜まっていき、さすがにこれは発表した方がいいんじゃないかと話して。
宇城:僕は最初に3回は絶対やろうと言いました。
平田:それまで一つの団体で第3回公演を迎えたことがなかったので、3回は発表の機会を設けることを目標に始めたんです。
前田:今回は第3回公演ですよね。
平田:番外公演を入れると今回、 5 回目になるんです。なので3回やろうという目標はクリアしているんですが、ここから先は未知のゾーンという感じで、過去最大のピンチに今襲われています。やっぱりみんな社会人としての苦労とかが出てくるタイミングで、今はそれと戦っているという時期ですね。

稽古風景

何がしたかったって、小屋入りがしたかった

宇城:でも、大学の後半ぐらいに電話をするようになるまで、そんなに仲良くなかったんですよね。どちらかというと、悪かった寄り。
平田:特に高校時代は、同じグループにはいるけど、なんか斜に構えていて嫌な奴だと思っていました。
宇城:高校の時の話でいうと、僕に電話をかけてきて「体育の授業の受け方がよくない」って 3 時間ぐらい説教してきたことがあったんですよ。
内田:同級生に説教?
平田:違うんですよ。宇城は運動が苦手なんですけど、運動苦手なやつが一生懸命やってるなら、まだなんかわかるじゃないですか。なんだけど、苦手なのをちょっとこう脇に置いて、スポコン漫画っぽいメタノリとか、別のスポーツのルールの話をしてるみたいな、ずっと小ボケを言ってるんですよ。体育の授業中に。一生懸命走りもせずに。それって格好よくないじゃないですか。
宇城:格好いいとか格好良くないとかじゃないじゃないですか。運動苦手だけど楽しくやろうとしてたんです。
平田:負け顔を見せなくて、往生際が悪いなってずっと思ってました。
内田:高校生の時にもうその価値観持ってるのも早いなと思う(笑)。
平田敗れるとこまで見せた方が人間として厚みがあるだろ!っていう。
宇城:それから一生懸命体育やるようになりました。
内田:素直!
宇城:(平田は)昔からずっとプロデューサー目線なんです。振る舞いまで含めて、口を出したがる。
平田:その延長なのかはわからないですが、僕は宇城に「コントやれば?」っていうのをずっと言い続けていた。そこで僕がフリーランスで映像の仕事をはじめて、映像で演劇に関わる仕事をちょこちょこいただけるようになったタイミングで、なんか自分の団体で小屋入りを久しくしてないなっていうことに気づいて、ウズウズしてきて。そこで本当に「宇城の本でユニットやろうよ」と言いはじめました。何がしたかったって、小屋入りがしたかったんですよ。小屋入りの朝を迎えたいっていう。
内田:うわ〜。
平田:僕は小屋入りがしたい。宇城は溜まったネタを吐き出したい、っていうことで利害が一致して。
宇城:僕は今は小屋入りの日がどうにか遠くならないかってことばっかり考えていますね。
一同:(笑)
宇城:演劇ってほんとしんどい。
平田:演劇って頭下げることしかないよね。基本的にお願いするか謝っている。
宇城:脚本よりもメールの方が書いている気がする。
平田:「お世話になっております。」って書く文字数の方が多いよね。

稽古風景

演出という「謎の権限」

内田:どんな風に創作をしていますか?
宇城:脚本と演出が分かれているというのはそもそも小劇場の劇団でもコントユニットでも珍しいと思うんですが、平田が各セクションに無理難題を言って、みんなが一生懸命そのオーダーを超えようとする、みたいなことをやっています。
平田:ここでも僕がずっと「やれば?」を言い続けています。脚本家にも、音楽家にも、映像作家にも、それぞれに「今あなたのこういう表現が見られたらアツい」みたいなことをひたすらに言い続けて。上がってきたものに対して、もうちょっとこうやってみたらどうなる? を言い続けて一つの作品に組み込んでく、という謎の権限を「演出」という名前をつけて発揮していますね。
内田:コントでそういう作り方って珍しいですよね。
平田:そうですね、絶対一人の脳で完結していたほうがスムーズだと思いますし、自分の世界がしっかりある人が作って、その世界の中だけで完結していることが美学、というコントのジャンルもあると思います。かなり作家性に依存する形式ですよね。でも、僕らは内容の部分と、見せ方の部分を分けてやっていますね。僕は元々テレビっ子だったのもあって、すごくポップな人間で、宇城の方がもっと文学的な方向に意志がある。だから、その二人で引っ張り合いができる。
宇城:メジャーへの憧れは一致しているので、かなり喧嘩をしながらなんですけど、今のところ大喧嘩はせずに作品が良い形でまとまっている。ただその過程で、すごく面白いなって思っているコントがどうしてもボツになってしまうことが毎回あります。ボツになった台本だけを集めてゾンビ台本って呼んで会場限定で販売しているんですけど、これ面白いので個人的に特に手に取ってほしい物販です。
平田:尺とかいろんなしょうがない理由で僕がボツにせざるを得なかったものが 1 冊分になるぐらいはあるんです。
前田:いいバランスですよね。やっぱり作家は書いたら全部上演したくなるものですけど、1 回そこに演出の目が入ることによって客観性が入る、と。
宇城:そうです。ボツは悲しいですけどね……。 『スネーク・オイル』では、前回の本公演『眠る島』でボツにした「独裁者の最期」というコントがゾンビ化して蘇っているので、ぜひ見てほしいですね。

稽古風景

かっこつけもしたいし、ふざけもしたい

内田ホームページに作り方を大切にされているっていうことが書かれていて、気になっていたんですが、そういうバランスの取り方をしているんですね。
平田:基本的にこれが全セクションで起きてるというか、宣伝美術とか当日パンフレットでも、デザイナーが端から端まで意識を伸ばして創作していて、で僕もそれにコンセプト出しの段階から丸2日くらい電話をつないだりして一緒に伴奏していって。映像にしても音楽にしても全部、僕がすべてのクリエーションに伴走するっていうことをやった上で、それぞれが一番今やりたいことを、ドンでぶつけて最後にまとめるっていうのを義務にしているというか、それがあるからやっていける団体だなって思っています。
宇城:平田は本当に欲張りで、そこまでやった上で、役者としても出るんですよ。自分が。デザインにも脚本にも口を出す。その映像にも口を出す。なんなら編集もしちゃうって上で「演じる」っていうのがあって。場当たりが面倒になるんです。
内田:俳優もスタッフも両方やることについてはどう思っていますか?
平田:どんだけかっこよく作っていても結局、舞台上に生身で上がってウケる・スベるがあるっていうのが良いなと思っているんです。多分クリエイターだけやっていたら、デザイナーの渋木とかも含めて、もうちょっとかっこつけられる余地があるんですけど、スベるかもしれない、というヒリヒリを含めて、観ている人を置いて行けぼりにしない客観性が持てたらいいなと。かっこつけもしたいし、ふざけもしたい。
宇城:欲張りだし、ものすごい自分たちで首しめてるよね
平田:そうだね。

稽古風景

MELTの活動は答え合わせ

前田:稽古がうまくいかなかった時の突破口をどうやって開けていますか?
宇城何が面白いのかっていう最初のところに戻るということですかね。稽古が進んで来ると、いろんなギャグを足せちゃうし、メンバーがいるので映像も音楽も足せちゃうし、と選択肢が多い分、僕も平田も欲張りなのでどうしてもいろんな枝に発想が伸びていっちゃうんですが、幹のところに戻るっていうのが一番難しいけど、やらなきゃいけないことかなと思います。平田と案を出して喋っていた時に面白かった部分に戻る。
内田:最初に自分たちにヒットしたところ。
平田:そうそう、自分たちにウケたところに戻る、みたいな気がします。
前田:最初に戻るのが一番大切ですよね。
平田:はい。最初に戻るということでいうと、僕はいつもMELTの公演を作る時は、中学・高校時代に宇城や他のメンバーの創作物を最初に見せてもらったときのことを思い出します。僕がこの人は面白いものを作る、と心から感じた人をかき集めたチームなので、MELTが面白いと言われると、「そうでしょう、そうでしょう」と思う。そういう意味では、出発点から面白いことが確定していて、MELTの活動はすべて最初の直感の答え合わせでしかないんです。

稽古風景

今まで積み上げてこられたものを全部ドブに流してもらう

前田:今作『スネーク・オイル』はどんな作品ですか?
平田:今まで同世代としかやったことがなかったので、今回は年齢の幅を広げたキャスティングができたらいいなって思っていました。スキルも経験もお持ちの先輩方に、わがままを聞いてもらう気持ちで台本と演出をお渡しするっていうことをしたらどうなるんだろう、っていうのが未知数だったので。いつも稽古中に、豪華すぎる…と思っています。
宇城:豪華すぎる。
平田:皆さん本当に大きい舞台に立たれている中で、このね、若手の劇団に出てもらって。しかもこんな芝居を……っていうことをやっていただいてる。本当にプレミアです。
宇城:これまでMELTを見てくれた人から見ても、多分今回が一番意味が分からないセリフが多いですね。ギャグも増えていますし、仏教絵画の九相図から発想したストーリーであるということもあって、不条理度は過去一です。それを俳優のスキルで強引に見やすく成立させてもらっていますね。
平田:すごい演技力で意味わかんないこと言ってもらうっていうのが乱発します。今まで積み上げてこられたものを全部ドブに流してもらうような、無駄遣い。そんな言葉を吐くためにスキルを積んだのではない!みたいなことを次から次へとやってもらいます。あとは、それだけだとバツが悪いんで、プライヤーにも書いてある通り、見た後に泣けるっていうところを目指しています。
内田「この茶番劇を目にしたあと、なぜかあなたは涙する。」って書いていますね!
平田:これも自分たちでハードル上げていますね。泣けるっていうのは平易な言い方なので語弊があるかもしれないですが、何かしらの厚みを作品に込められたら、と。
宇城:そうですね。無意味なことだけやりたいわけじゃない。
平田:不条理コントっていうものの性質上、すごく物騒なものをたくさん扱ったり、世界の残酷な部分をそのまま表現したりっていう事をずっとやってきているので、それとちゃんと示し合わせがつくような話にできればいいなと思っています。ちょうど今格闘中なんですけど、作品の終わらせ方に関して、自分たちなりの答えが出せるといいなって。そういうことを先輩たちのスキルをお借りしてやっている感じですね。

稽古風景

MELT古参だって言えるのは『スネーク・オイル』を見た人まで

内田:最後にお客さんに伝えておきたいことはありますか?
平田:今回も映像や音楽をフルで使いつつ、ユーモアにすごく理解のあるスキルフルな俳優さんたちと一緒に全部盛りみたいなことをやるので、その全部盛りっぷりを楽しみにしていただけたらなと思いますね。
宇城MELT古参だって言えるのはスネークオイルを見た人までになります。
内田:こっちから線を引くんだ(笑)。
宇城:今作で、「ああ、MELTってあの作品の団体ね」ってなってしまうので、古参になれるのは今回までです!
平田:あとは YouTube のチャンネル登録よろしくお願いします!

自分たちの展望も失敗も屈託なく話す二人。いいチームなんだな、ということが伝わってくるインタビューでした!『スネーク・オイル』は、オムニバスのコントが少しずつ繋がっていって、一つのストーリーになるとのこと。加えて日本神話や仏教画の九相図から発想を得ているそうです。果たして観終わった後に涙は流れるのか?劇場に確かめに来てください!

公演詳細

不条理コントユニット MELT
不条理コントユニット MELTは、1998年生まれの映画監督/作家/デザイナー/ラッパー/カメラマン/保育士が集まり2022年に設立された、不条理コントを創作・発表する集団。情報学研究者ドミニク・チェン氏に命名された「世界の欺瞞ネイティブ世代」を標榜しながら、メンバーそれぞれの技術を駆使し、自分たちの手で舞台・映像・漫画・音楽などあらゆる表現を実践する。国際問題や身近な差別など「笑い」の中では扱いにくい社会的なトピックからしょうもない下ネタまであらゆる事実を並列に、観光客のように首をつっこみ、喜劇に翻訳することで、スペキュラティブな(笑いつつ立ち止まる)体験を生み出すことを目指す。

佐藤佐吉演劇祭2024参加作品
不条理コントユニット #3『スネーク・オイル』
〇会場:王子小劇場
〇脚本:宇城悠人
〇演出:平田純哉
〇出演:伊藤圭太(アガリスクエンターテイメント) 鍛治本大樹(演劇集団キャラメルボックス) 江益凛 佛淵和哉 守屋百子 波多野伶奈 平田純哉 さとうゆうき 酒井陽佑(生演奏) 渋木耀太(声の出演)
〇詳細はこちら
https://contemelt.studio.site/news/snakeoil_1 (団体HP)
https://en-geki.com/sakichisai2024/melt.html (演劇祭特設サイト)


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