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「私の頭の中なんて全部ぱっかんしていい」キルハトッテ インタビュー

佐藤佐吉演劇祭実行委員会が、参加団体の魅力を紹介するため稽古中のお忙しい所にインタビューを敢行!第9弾はキルハトッテの山本真生さんにお話を伺いました!

佐藤佐吉演劇祭2024参加団体インタビュー
ゲスト:山本真生(キルハトッテ)
聞き手:内田倭史(佐藤佐吉演劇祭実行委員会)


まとめる、編集をする

内田:自己紹介をお願いします!
山本:キルハトッテは”あるかもしれないきっとを切り取って、貼ってコラージュする”というキャッチコピーを掲げて活動している団体です。長いので”きっと、をコラージュする"って短縮しているんですが、”切って取って貼って”という単語をコラージュするとキルハトッテになります。
日本大学の芸術学部演劇学科が母体で、演劇学科の演出コース4年生の山本真生と演技コース4年生の吉沢菜央で構成されています。
佐藤佐吉演劇祭2022の関連企画「見本市」というショーケースに出させていただいたことがきっかけで結成して、王子スタジオ 1 での公演を経て、今回、佐藤佐吉演劇祭に参加することになりました。
内田:劇場での公演は初?
山本:初です。ずっとスタジオで公演をやって来たので、勝手が全然違うなと思います。お芝居の質感も違う感じになる気がしています。
内田:お芝居の長さも違いますよね。
山本:見本市でやった『バター』は30分、スタジオ公演の『どこどこのどく』は60分。で、今回は大体80分です。長さが変わると頭の使い方も変わって、稽古の進め方も違うので結構わーっ!てなってますね。
内田:どんなふうに作品を作っていますか?
山本:日頃思ってる問題意識というか、自分の中にあるテーマとモチーフが組み合わさって上手い感じに行ったら企画書始動っていう感じですね。モチーフになるものが何個かできた段階でそれを合体させて、コラージュしたら、できる。イメージの連なりで作品を作っています。
内田:演劇を始めたのはいつからですか? 
山本:中学生の時からです。
内田:中学生から!
山本:もう10 年やってます…。
内田:きっかけは?
山本:マンガ家になりたくて美術部入ろうと思ってたんですけど、新入生歓迎会の部活動紹介で見たエチュードが面白くて演劇部に入りました。なんか、”お姉ちゃんがブルーベリーパイを作ってて食べたいって言った弟に食べさせたら食べた弟が死んじゃって、救急車が来て最後みんなで踊る”っていう、
内田:夢の話?
山本:なんかそういう流れのお話を、役の属性を変えた色々なパターンでやるエチュードの稽古で、例えばお姉ちゃんをお兄ちゃんに変えてみたり、救急車を”パリピっぽい救急車”に変えてみたり、その場で決めて、それを表現するっていうものでした。
内田:面白いですね。
山本:それで演劇部に入って、中学生の時は役者をやっていました。実は中学生の時、キルハットッテのメンバーの吉沢さんとは演劇部の地区が一緒で、大会で観てたんです。すごく好きな作品で、めっちゃ泣かされて。その人と大学で再会して今一緒に劇団をやっています
内田:すごい!
山本:で、高校が生徒創作をやる学校だったんです。みんなでエチュードから作品を立ち上げるっていうことをやった時に、わたしは台本をまとめる係をやったんですよ。最初からガッツリ劇作をやっていたというより、 まとめる、編集をするっていう感じで始めました。 
内田:なるほど!コラージュするっていう作り方はそこに影響を受けてる?
山本:受けてると思います、めちゃくちゃ。
内田:キャッチコピーとかタイトルとか、団体名もそうですけど、パッケージングがうまいなあって思っていたんですけど、それはどこかから影響を受けたものなんですか?
山本:なんだろう…。でもなんか、私の両親が雑誌の編集者で、コピーライティングとかもやる人なんです。
内田:聞いたら答え出てくるもんですね! 
山本:なので結構、家の教育かもしれないです(笑)。
内田:教育(笑)!
山本:とにかくキャッチーなコピーをつけろ!とか。家族で会議とかするんですよ(笑)
内田:すげえ!
山本:小学生、中学生とかのころからやってましたね。自由研究のタイトルとかもブレストして。作文の一言目は絶対に良いコピーから始めろ、とか。じゃないと読んでもらえないとか。
内田:ある種の英才教育!
山本:言われてみれば親かも、親の影響かもあ、思い出した。お母さんが新しく作る雑誌のタイトルのアイデア出しを家族でやって、私負けたんですよね、お父さんに
内田:そこ悔しいんだ!?
山本:はい。
内田:兄弟は?
山本:兄弟はいなくて。
内田:一人っ子!三人でやってるんだ!
山本:私も戦います。親に「それは違うよ」とか言って。
内田:そこに影響を受けるんですね。

『そろそろダンス。』舞台写真
撮影:林美月、中嶋千歩

私の頭の中なんて全部ぱっかんしていい

内田:創作の中で大切にしていることはありますか?
山本:今回は昨年の11月から俳優と定期的に集まっていて、最初は月一から始まって、週一になり、だんだん稽古が増えていくって言う感じで、グラデーションで集まって作りました。書くところから。
俳優陣はみんな同世代で、22 歳、23 歳のみんなで作っている感覚が大きいです。私たちの現在地点から見た人生の話になってると思う。
稽古場では架空の人物の一代記を作ったりしました。やっぱり23歳より先って、想像でしかないから全然リアリティがないんです。”50歳で大学にもう 一度入って、ギャルの将棋のプロと仲良くなってディズニーに行こう”みたいな(笑)。”でもこの子は大学教授と不倫して大学辞めるんだよね”とか。
内田:ちゃんとドラマがあるんだね(笑)。
山本:楽しくなっちゃって。やっぱり私たちにとっての未来は可能性に過ぎないってこととかも面白くて。0歳から 23 歳まではリアリティがあるんですけど。
22 歳〜23歳って、先がめっちゃあるように見えて、人生の大事な選択はもう終わっちゃった時期なのかもねっていう話をしてて。その諦めと未来や可能性の話がこんなに膨らむってことの希望のアンバランスさが面白くって。そういうことを作品に取り入れたりして、みんなで前に進んでくってことを意識して作りました。
プロット段階で自分の考えてることをバンバン開示して、みんなに送っていました。「ここはこうなるから!まだ書けてないけどこうなるから!」って伝えて、相談したり。
内田:それは前からそういう感じでやってたんですか?
山本:私、創作は孤独だと思っちゃうことが多くて。やっぱり一人で書いて一人で演出してってなると、自分が正解を知らないといけないと思い込んでて。それが結構辛かったりしたんですけど、今回から変わりました。
内田:意識的にそれを開示していこうとし始めた。
山本私の頭の中なんて全部ぱっかんしていいし、意外に開示すればするだけみんなが不安にならない、ってことに気づきました。
内田:今回は抱え込まずにやろうと。
山本:だし、そっちの方がやっぱり楽しいです。

わからないこともみんなで共有する

内田:創作で困った時どう突破口を空けていますか?
山本:ちゃんと寝る。シンプルなんですけど。ちゃんと寝ると、次の日起きたら思いついてることが多いし、みんなが考えてアイデアを持ってこられることがある。その場で答えを出さない、焦らない。
内田:たしかに。失敗するときって大体焦ってるもんなあ。
山本:次の日になったら、これめっちゃいいじゃん!と思える可能性もある。あと、なんか最近稽古でわかんなくなっちゃったら、その場で黙らずに「審議」っていうことにしてて、私が「審議!」って言ったらみんな「審議!」と返してくれるんです。わからないこともみんなで共有することが突破口な気がします。
内田:審議システム良いですね。
山本:今回の座組で言えば、全員同世代なのがいいのかもしれないです。わかんないって言いやすい。あと、井澤佳奈さんに今回の主役”あたたかハルヒ”を演じてもらうんですが、彼女は一回もハケないんです。彼女の物語だから、彼女がその場に居られるかどうか、もしくは居られない状態にした方が面白いのか?っていうのを二人で話したりとかもできていますね。役のことも密に共有しているので、彼女の感覚が一つの指針になっている気がします。

『そろそろダンス。』舞台写真

予期しないことが起きた時が一番面白い

内田:演劇をやっていて好きな瞬間はどこですか?
山本:なんだろう。わたしの頭の中をすべてが超えた瞬間。わたしは割とはっきりと演出のプランがあるタイプで、”ここで想像力を開いて次のシーンで閉じる”とか、”こういうルートを通ってここに辿り着く”みたいなことを意識的にやってるんですけど、そういうわたしの計画を、ぶっ飛んで超えてくることがあるんです。俳優だったり、スタッフたちが超えてくる瞬間がいっちゃん楽しい。
内田:なるほど!元々の計画があるからこそ、超えた瞬間が面白い。
山本:そうですね。超えるっていうか、もう、壊された瞬間。破壊してくれた!みたいな。予期しないことが起きた時が一番面白い。感動する。これは作演を始めたときから変わってないかもしれないです。

『そろそろダンス』舞台写真

彼女たちはすごいスピードで走っていって、卒業していっちゃう

内田:今回の『そろそろダンス。』はどんな作品ですか?
山本:まずアイドルの話をやろうと思ったのと、あとはわたしが大学を卒業するので、卒業の話をやろうと思ったんです。アイドルって、私達の人生に並走してくれているようで、すっごいスピードでかけ抜けていくんですよ。
きっとアイドルとしての人生と、その後の人生は全く違う。それは”生まれ直す”みたいなことなのか、と考えていて。それを私たちの人生と照らし合わせて書きたいみたいな、ところから始まりました。
内田:へー!
山本:アイドルの卒業のスピーチを軸に、一人のアイドルの「過去・現在・未来」を過去を記憶、現在を現実、未来を可能性に全部置き換えて描きます。
内田:おもろそう!
山本:特に女の子のアイドルが好きで。日本の男性アイドルとかだと結構長い間活動されてるじゃないですか。嵐とかだってめっちゃ長い。女の子のアイドルって中学生くらいでデビューして25歳には卒業してるみたいな感じで、なんかすっごい早い感覚があって。 歌詞とか悩んでいることに共感して、その子の存在を人生のお守りとして並走して一緒に走ろうって思ってたのに、彼女たちはすごいスピードで走っていって、卒業していっちゃうんです。それが寂しくて。
内田:面白い!
山本:だから並走じゃないんだってなって。わたしの人生より毎日目まぐるしくいろんなことが起こっていて、それを全部人に見せる職業なわけですよ。どこまで計算でみんながやってるかはわからないけど、きっと、そういうパッケージングされたドラマが私たちには提供されていて。
きっと私たちの中には、私たち一人一人のその子がいる。その子のパフォーマンスや喋ったことから情報を汲み取って勝手に自分の中でその子を形成して応援してるんだと思うんですよね。そこが面白いなって
今回はあややこと、松浦亜弥さんの話なんですけど、きっと、あややには100人のオタクがいたら100人のあややがいるんですよ。それがアイドルの面白さだし、暴力性でもあるなと。
内田:あややを選んだ理由は?
山本:『そろそろダンス。』って「ソロ」「ソロ」ダンスなんですよ。
内田:かかってるんだ!
山本:一人の女の子の人生を描きたいなって思った時に、ソロアイドルの話がいいなって。そこで、平成最後のソロアイドルと呼ばれている、あややがいいなって。
あややってすごいんです。15歳でデビューして、活躍した時代が不景気で自殺率と失業率が戦後最悪の時代に現れた、意味わかんないくらい明るい歌を歌う女の子。いまは結婚して引退してるんですよ。そしてもう表舞台にはほぼ姿を現してない。みんなあややが今何してるか知らない、それも興味深くて。
内田:へえ〜!あややのことはモノマネとかでしか知らなかったです。
山本:モノマネをたくさんされてるって事も、やっぱり、その人なりのあややがいるってことだと思うんです。そういう引力があややにはあったから。そこからモチーフにあややを選びました。
今回の『そろそろダンス。』は、今までのキルハトッテを見てくれた方も楽しいし、見たことない方もきっと面白いんじゃないかなと思います。キルハトッテの作品は、同じシーンを見ていても、泣いてる人と、笑ってる人と怖いって言う人に別れる。今回も本当にそんな作品になっていると思いますので、体験してみてください。多分、共感しても面白いし、わかんなくても面白いと思います。
内田:そう言えば、今回やったら新作をしばらくやらないみたいなことをXで言ってましたよね?
山本:今後は 2025 年に向けて、ちょっと長期的に戯曲を書くターンに入りたいと思ってて、今までキルハトッテがテーマに掲げてた「変身」、たとえばバターに変わるとか、人がスーパーカップのバニラ味に変わるとか、人がキノコに変わるとかってことをやってきたんですけど、その「変身」をテーマにして思春期地獄ホラーをやります。っていうことだけ決めています。ホラーに向き合おうかと。
内田:思春期地獄ホラー!
山本:今回もある程度の時間をかけて戯曲を書いたので、次はそれをもうちょっと長い期間走らせてみようって思ってます。
内田:なるほど、楽しみですね!
山本:やばい。言っちゃったからもうやんなきゃ。ありがとうございました!
内田:ありがとうございました!

『そろそろダンス。』舞台写真 

佐藤佐吉演劇祭2022のショーケース「見本市」で旗揚げし、王子スタジオ1での公演を経て、いよいよ王子小劇場での公演。大胆不敵なコラージュを武器に、演劇ならではの表現で人の哀しさを描くキルハトッテ。3/14(木)に開幕です。どうぞお見逃しなく!!

公演詳細

キルハトッテ
劇作家/演出家の山本真生と俳優の吉沢菜央によって構成される団体。
今を生きる人々の感覚を、思いもよらないフッと笑ってしまうような身近なモチーフに繋げ、奇妙な嘘と本をおり混ぜ、その境界を曖味にしながら、いつも観ているような光景を違った見せ方にするような作品が特徴。
ヒトのどうしようもない哀しみを、フィクションを通じて開き直って肯定することを目指しています。
2022年4月佐藤佐吉祭関連企画見本市にて旗揚げ。
佐藤佐吉賞2022優秀演出賞、助演俳優賞。

佐藤佐吉演劇祭2024参加作品
キルハトッテ vol.4『そろそろダンス。』

〇会場:王子小劇場
〇作・演出:山本真生
〇出演:井澤佳奈、大塚遊馬、奥山樹生、川合凜、中嶋千歩、吉沢菜央(キルハトッテ)
〇詳細はこちら
https://kiruhatotte.wixsite.com/my-site(団体HP)
https://en-geki.com/sakichisai2024/kiruhatotte.html(演劇祭特設サイト)


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