私はあまり読書をしないが、昔から江戸川乱歩が好きだ。一般的に知られる探偵ものではなく、怪奇小説。
中でも『白昼夢』という作品が、クトゥルフ神話TRPGのシナリオを作る中でも、かなり大事にしている雰囲気だ。
ここからは『白昼夢』のネタバレをがっつりするが、青空文庫にもある作品なので、原文はそちらを見て欲しい。ネタバレを見たくない人はここでストップをお願いする。
短編にも関わらず、人間の狂気と、薄気味悪さが濃縮された素晴らしい小説だと思う。主人公だけが正気で、世界が狂っているという作品だ。浮気症の美しい女房を殺し、蝋人形にして飾る店主が自らの罪を告白し、周囲はその様子をただただ笑い続ける。
晩春の生ぬるい空気感のなか、その不快感を助長させるべったりとした歪んだ愛情の吐露と、それを面白がる周囲という耐え難い現実に、主人公が翻弄されるだけの話だ。終始、現実と非現実の境がない、幻想怪奇小説だと感じる。主人公は一連の流れを実際体験し、蝋人形になった彼女を確かに見ている。まさに冒頭の1文が感想に尽きる。
ちなみにこの蝋人形の描写も最高に気持ち悪い。原文を引用する。『孤島の鬼』や『芋虫』でも同じだが、人間の肌感描写が本当に生生しい。
こちらは講談社の『江戸川乱歩推理文庫②』に収録されている。