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柿の葉寿司

奈良に住む叔母から柿の葉寿司が届いた。木箱を開けると、吉野杉と柿葉の香りがほのかに漂ってきた。家人に聞くと先日送った家庭菜園のタマネギのお返しらしい。倍返しどころじゃない、恐縮ものだなどと言いながら棚から日本酒をとりだし、柿葉を開く。

好きな果物はといえば、柿だ。子どもの頃、田舎の家の裏に柿の木があった。木の上で、手をのばしてもいだ実をズボンにこすりつけ、汚れを落とし、下の前歯で皮をそぎ落としてかぶりつき、食べる。秋のおやつはこれだった。「サクイから登ったらアブナイ」と祖父に叱られるので、見つからないように素早くしないといけない。サクイというのは粘りがなく折れやすいという意味だ。10月から11月、この柿の葉寿司のみずみずしい青葉とは違って紅葉してたのだろうなあ。実は覚えているが葉は思い出せない。

出張で奈良方面に出かけたことがある。帰りがけ、駅の売店で柿の葉寿司を買った。京都からの新幹線、お酒のあてにちょうどいい。腹がすいたという同行のBさんにストップをかけた。包みを開け、小さな寿司をテーブルにシャッフルして並べ、当てたら食べていいということにした。3種類だと書いてある。鯖、鯛、それにサーモンだ。

「鯖!」
葉を開くと鯛だった。Bさんはお預け、わたしが食べた。甘めのすし飯に薄っぺらい鯛の切り身の押し寿司。ちびちび飲む日本酒によくあう。

「お待たせ。はい次」
「サーモン!」
「残念!鯖。ごちそうさま」

12個入り、半分近くまで当たらなかった。そこでゲームオーバー、中も確認せずにむさぼるBさんだった。

今日の柿の葉寿司は5種だった。鯖、サーモン、金目鯛、エビ、それに穴子。シャッフルして当ててみたが当たらない。2個であきらめた。Bさん、元気でやってるだろうか。スマホにつけたストラップをたぐり寄せた。