やせれません その5 三倍おいしい

 関西には「サンガリア」という飲料メーカーがある。
 「いち、にい、サンガリア」とか「国破れてサンガリア」とか、テレビコマーシャルでとてもキャッチーなフレーズを連発するおしゃれな会社なのだけど、製品もなかなか面白い。主に自販機で安く売られるものが多くて、その中に以前「ミラクルボディC」というのがあった。350ccの缶飲料で、デカビタCのような瓶の絵が描いてあって「3本分のおいしさ」というキャッチコピーが添えられていた。
 三本分。これはつまり「量が三倍」ということだろう。デカビタCはそんなに小さくないから、このイラストはもしかしたらオロナミンCを意識していたのかもしれない。だとしたらおよそ三倍の容量だから辻褄が合う。よく似た味で、量が三倍。3本分のおいしさ。実にシンプルかつ力強い主張だ。まったく隙がない。
 これを見て、ぼくは少し目から鱗というか新たに発見をしたような気持ちになった。仁鶴師匠がむかし仰ってた「大発見やぁ〜」に近いかもしれない。それはつまり、「おいしさが同じだとしたら、量が三倍あればそれは三倍おいしい」ということだ。例えば「電力」は「電圧」掛ける「電流」だ。「馬力」も「トルク」と「回転数」で決まる。「おいしさ」も「味」と「量」で決まるのだ。きっとそうだ。
 「味で多少劣っても、量が倍あればそれはよりおいしい」という新しい価値観がここに確立したと言えるのではないか。
 うなぎ屋さんで考えれば、さらに納得できるだろう。鰻重の「梅」と「松」は、たいていの場合味は同じだ。その値段の差はつまり、うなぎの量だ。やはり食べ物の偉さは味と量で決まるのだ。
 最近ペヤング焼きそばの超巨大なやつが出たが、あれは通常サイズの八倍と言われている。味はきっと同じだから、つまり「八倍おいしい」と言える。そんなにおいしいのだったら一度ぜひ食べてみたい。
 ということで、やはりぼくはやせれません。

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