やせれません その2 空気にもカロリーがある

 8000メートルを超える山は全部で14座ある。そしてそのすべての頂に、すでに人類はたどり着いている。
 標高8000メートル以上は「デスゾーン」と呼ばれていて、空気の薄さや低温などのせいで、人が生きていけない過酷な環境だ。どれくらいデスゾーンかと言うと、たとえば「睡眠を取っている間も体力がどんどん削られていって、決して回復することはない」のだそうだ。疲れても寝たら治る、という平地の常識が通用しない。
 空気が薄いというのは、具体的に言うと酸素の量が平地の1/3。もしも人間が平地からいきなりこの高さに連れて行かれると、ほぼ間もなく気を失って、そのまま死んでしまうのだそうだ。デスゾーンにもほどがある。
 こんな高さまでボンベなしに上がる登山家も居るが、それは一歩ずつ時間を掛けて、高所に順応しながらだからなんとかなるわけで、またしかしそんな彼らでもデスゾーンに対しては「とにかく短い時間の滞在に止める」くらいしか安全策はないのだそうだ。
 高所は空気が薄い。反対に言うと、ぼくが住んでいる場所は兵庫県西宮市の海のそばで、標高は低いからきっと空気は濃いのだと思う。
 日頃から濃厚な空気を吸っているぼくは、空気の濃さにうるさい。だから少しでも高い場所へ行くと空気が薄くて大変だ。階段で二階に上がるとすでに空気の薄さを感じ、三階まで上がるとかなり酸素が恋しくなる。四階で鼻の穴がもう二つ欲しくなり、五階も上れば高山病で半死半生になる。
 やはり西宮は良い。空気が濃い。お隣のA市(芦屋じゃない方)の一部では昔「空気に味がある」なんていう話も聞いたけど、それほどではない。しかし濃厚なのは確かだ。
 これほど濃いと、もしかして空気にカロリーがあるかも知れないと感じる。
 そう、だからぼくはやせれません。うん、そうに違いない。

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