やせれません その1 いきなり体型の話をする奴は敵だ

 久しぶりに会って、開口一番に「おっ、また肥ったんちゃうか」という人が居る。
 敵だ。
 こういう人とは口をきいてはいけない。
 久しぶりに会うということはとりあえず話題がない。それはわかる。何か会話のとっかかりになるものがほしい。それもわかる。しかしそれがいきなり体型の話という、そんな無礼な人とはいずれ話は合わない。
 そもそもそいつは頭が悪い。初っぱなから相手の気分を悪くして、お互い何も得することがないという簡単なこともわからないくらいに。そんな人と面白い会話ができるわけがない。
 当たり障りのない話は他になんぼでもあるだろう。天気の話でも良いし、気温の話でも良いし、隣の空き地に囲いができた話でもいい。あるいは昨日自宅に宇宙人が訪ねてきたとか、そういうごくありふれた話で良いのだ。それをいきなり相手の心の暗部をえぐるような話から始めようとする無神経な人とはまともに話しても無駄だ。
 だからもう、どうせ無駄な話にしかならないのだから無駄なことしかいわないことにしている。
 そう、相手はこちらを「豚だ」と言いたい、「豚である」と認めさせたいのであるから、望み通り豚になってやるのだ。
「おっ、また肥ったんちゃうか自分」
「ぶひ」
「ぶひ、てなんやねん。最近どないや」
「ぶひぶひ」
「いやいや、ちゃんと話そうや。仕事はどないや、みんな元気にしてるんか」
「ぶひぶひぶひ」
 返事をするたびに「ぶひ」を増やす。やがてその周囲をぶひが覆い尽くす頃にはきっと、その敵は去っていることだろう。
 めでたしめでたし。

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