やせれません その7 永遠に食べ続けられそうなもの

 焼き鳥とかしゃぶしゃぶとか、なんていうかこう、串に刺さってたり薄かったりでぼちぼちと食べるものというか、たとえば丼物みたいに「一気に大入力にならない食べ物」ってありますやん?
 そして「とても美味しい」もの。
 こういうのって、食べ始めた瞬間に「これ、永遠に食べ続けられそう」って思うことがあるんだけどあなたそんなことないですか?
 なんていきなり今回は問いかけから入ってしまった。
 一口一口が軽めというか、口いっぱいにほおばらない食べ物って、最初なんとなく「これでいつか本当におなかいっぱいになるのかな」という不安を感じてしまうよね。あれ?共感されない?んじゃ、ちょっと実感できそうなものの例を出すね。味付け海苔。あれっておいしいけど、食べ続けていつかおなかいっぱいになりそうな気がする?
 なんとなく「食べる勢いとおなかが空く勢いが平衡しそうな食べ物」というか、そういうやつ。腹に溜まらなさそうな食べ物。
 むかし関西では「パンみたいな人」という表現があったという。お米を主食にしていた日本に突如西洋から降って湧いたパン食文化。その食感からか最初は「米でないと力が出えへん」「あんなふわふわした頼んないもん」と受け入れられにくくて、その「頼りない」というところから「頼りにならない人」を「パンみたいな」と揶揄したのだとか。
 食べてもおなかがいっぱいにならないもの。さすがにパンはたくさん食べたらおなかがいっぱいになる。それはわかる。ぼくは大人で、現代人だからね。でも、食べても食べてもおなかいっぱいにならないものももしかしたらあるかもしれない、っていうのもちょっと信じている。
 たとえば、食べたら溶けてしまうアイスクリームとか。でもアイスクリームは食べ過ぎると凍死するらしいのでよほど危険を伴う。アメリカで1ガロンだったか食べて死んだ人が居るらしい。1ガロンというと4リッター弱、500サイズのレディーボーデン8個なのでまあたぶんそんなに食べることは普通無さそうだけど、いちおう注意が必要だ。
 アイスクリームよりも幾分か温度が低くなくて安全そうなものというと、プリン。中でも定番は、モロゾフのプリン。これが入ってるガラスの器は非常に頑丈で、当たり方によっては石でも砕きそうだ。関西の家庭の食器棚には必ずいくつか入っていると思われる。阪神大震災の折、こいつが食器棚の中を暴れ回って他の高価な食器類を全滅させた、という話をよく聞いた。食器棚に石を入れていたようなものなのだから仕方がない。
 話が逸れた。このプリンは1個180ml、むかしこれを一気に10個食べられるかどうかやってみたことがある。結果わかったこと。食べられるけど、ちょっとしんどい。そう、「プリンもやっぱり永遠には食べ続けられない」という事実をその時に発見したのだった。
 では、スナック菓子はどうか。知り合いが経営している飲み屋で「うまい棒は食べ放題」というところがある。やはりこれはチャレンジするよね。10本はまだまだ余裕、20本で少し口の中が辛く、というか不思議と苦く感じ始める。化学調味料的ななにかが身体にヤバい量に近づくのかもしれない。この辺りで「チョコレート味」が出るとかなりホッとする。きついのは「めんたい味」とか「てりやきバーガー味」。「たこ焼味」はわりとまし。で、30本食べた段階で「今日はもうこれくらいで堪忍しといたろ」という気分になった。
 考えてみるとうまい棒は1本10円、300円で限界を知ることができる希有な食べ物だ。ちなみにモロゾフ10個は3000円超えなので貧乏人はおいそれとチャレンジできない。
 焼き鳥もしゃぶしゃぶも、当初の心配とは裏腹にやがて必ずおなかがいっぱいになる。それもそんなに長い時間は掛からない。90分とか120分とか、短い人生に比べてもほんの一瞬の間。永遠とか悠久とかとはほど遠い。不思議なことだ。
 何度も思い知りながらも、一日経って消化すると「いや実は違うかもしれない」と思う浅はかな心。これを敢えて「不屈のチャレンジャースピリット」などと勘違いしてしまうぼくはやっぱりやせれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?