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#43『自分の時間』アーノルド・ベネット

 背表紙に「渡部昇一 訳」とあった。それだけで買った。氏が好きなのである。渡部昇一氏の思想は実践哲学、プラグマティズムである。空理空論や神学論争に、この方は興味がない。質実剛健、と言った感じである。エマソンの訳書も出しておられたが、そういう訳で買う前から内容は分かっている。
 私みたいな宗教家?、神秘主義者と、プラグマティズムは普通折り合わない。「結果が出れば良い訳じゃないだろう」みたいな考えを持っている。しかし結局、語る人の問題だと思う。右から行こうと左から行こうと、大切なことは自然と一つに狭まる。そして私にはプラグマティックな性質が乏しい。だから時々自分を叱咤しないといけないのである。良い刺戟になる。
 渡部昇一氏は私にとって丁度良い温度を持っている。今並行して中村天風を読んでいるのだけれど、中村天風は私には温度がちょっと高い。何と言うのか「分かるんだけど~、それが出来ない人もいるんだよ、ね」みたいな感じが出る。決して抵抗する訳ではないけれど、世の中無理な人もいまっせ、みたいな第三の意見が出てくると言えば良いのか。
 多分渡部昇一氏は「これが最も効率的だと思うぞ。私はそうしている」みたいなくらいの感じで「どうにも君たちはこうせにゃならん!」という姿勢を持ってない。そこが、いいんだろうな。
 って、訳者の話しかしていないが。

 まあ、本書の要旨は至って簡潔。「自分で立てよ。自分で立たねば人生は立たぬぞ」「週に半分、一日90分で良いから、学習時間を確保して自己教育に使え。そしたら絶対未来が明るくなる」この二点である。
 時間についての、非常に面白い、斬新な描写。

「朝、目覚める。すると不思議なことにあなたの財布にはまっさらな24時間がぎっしりと詰まっている。そしてそれが全てあなたのものなのだ。これこそ最も貴重な財産である」29

 思うに、この発想を持てるかどうかが人生の明るさ暗さを決定している。私なんか、自分の身を振り返ると目を覚ました時点で鬱になっている時が長かった。そして夜は早く寝たかった。完全に鬱である。こういう気持ちでいる時期は、自己教育なんて絶対できない。
 有難いことに、今はそうではない。おまけに有難いことに私は暇人なので、四六時中自己教育している。多分、無為な歳月を取り返しているんだろうな。
 著者は自己教育として何より読書を挙げている。難しい本を読め、新規開拓しろ、頭を使え、と。そのため、詩を読むことを勧めている。それが駄目なら歴史。
 面白いことに、私、人に同じことを言っている! ちなみにこの人の本を読んだのは初めてだよ。だから受け売りではない。自己教育の重要性を知る人は、たぶん同じことを言うんだろうなあ。
 著者の勧め通りの時間割を作ることはなかなか難しいかもしれない。しかし怠惰な暮らしにお尻を叩いてもらう目的だけでも、時々こういう言葉に触れるのはとても良いことだと思う。

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