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水深800メートルのシューベルト|第38話

 パパは、ブロックから足を踏み外して草むらと砂利の混ざった地面に倒れこんでいた。起き上がりがけに掴んだらしい小石をママの車に向かって二三投げつけた。しかし、小石は立ちこめる灰色の空気の塊を通り抜けただけだった。
「おい、何見てやがる。家でおとなしくしてやがれ」
 振り向きざま、いきなり僕に向かってきた怒鳴り声。ブロックの上でいったんしゃがんで箱――中には少しの茶色にまみれた豆とコーンが残っていた――を拾うと、パパと目を合わさないお湯に鉄の扉を開けた。

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