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水深800メートルのシューベルト|第3話

「はあ、はあ、く、苦しい」
 そこでようやく僕を締めていた圧力が弱まった。簡易ベッドの脇へ崩れるように座った。しかし、呼吸は止めようとしても止まらず、意思に反してもっともっと加速していった。一秒に五回も十回も胸が動いているようだ。止まれ、止まれよ! 酸素が体に入っている感覚はなく、助けを求めようと目の前の大男に哀願するような視線のサインを送ったつもりだったが、この邪悪な憎むべき呼吸の簒奪者は僕を半ば敵意の眼で、半ば動揺のそれで見つめたまま動かなくなった。

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