見出し画像

月イチ純文学風掌編小説第七回 「フェリーにて」

はじめに

こんにちは。吉村うにうにです。普段はエンタメ系の小説を書いております。たまには純文学っぽいものを書くかと、こちらの企画を始めました。今回七回目となりました。きっかけはこちら

純文学って? よくわかっておりませんが、とりあえずマイルールを作って縛りました。今回はこれ

①文章の美しさを意識する(少しでも。これはエンタメ小説にも生きるはず)。文章が美しくなるなら、主語を省略して、誰の台詞かという分かりやすささえ犠牲にする。
②オチ、ストーリー展開を気にしない(してもいい)。意味分からないことも多いでしょうがゴメンナサイ、解説何処かで入れるかもです。入れたら無粋かな?
③心理描写を(できるだけ)書かずに、風景や行動で伝えようとする(これは作家さんによります。太宰治さんなんかは心理描写しっかり書いているようですが、川端康成さんはあまり書かないように見えます。)
④会話文の終わりに〇をつける。
⑤接続詞、副詞をきちんと使う(これは純文というより、自分への戒めです)。
いつものルールにつけ加えて
⑥今回は自動書記オートマティズムに挑戦です。

自動書記オートマティズムとは?

シュルレアリスム小説の手法にある、無意識に任せて書く方法(だと理解して)います。参考にしたのはこちら

今回はゆめで見た風景に、意識レベルを下げつつ、思いついた言葉を並べてみました。「意味がわからない」と思われるでしょうが、そのように書いております。

それでは、「フェリーにて」です。よろしくお願いします。

    フェリーにて
                      吉村うにうに
 大雨が止んだ。宇似うには波止場から神戸駅を視野に入れる。そこに行くには、目の前の巨大な水溜まりを越えなければならない。それは、切れかけてきた雲の隙間から、射し込んでくる陽を受けて燦然と輝いていた。
 彼は神戸駅まで歩くつもりだった。その距離はせいぜい一キロくらい。しかし、水は深く、足のくるぶしまで浸して抵抗する。彼は、昔話で聞いたことのあるナンバ歩き――同じ側の手と足を前にあ出す歩き方――を試みる。そうやって、粘った水を押し出しているうちに斜め前方にフェリーが見えてきた。
 車が出入りするハッチが開いた。すると、水の抵抗は急に弱まり、宇似の足取りは軽くなって、三歩でハッチに飛び込めた。すると、彼の望み通り、フェリーは神戸駅舎の灰色の時計に向きを変え、ゆったりと揺れ出した。
「これで胸を触らしてくれ、えへへ。」
 デッキでは、五十くらいのチケット係の男が、女性客に漱石をちらつかせていた。客は怒って、若い船員に訴える。若い男は、小太りで糸のような細い目をした男だが、絶望の表情を浮かべ、案内板を指差した。そこには消えかけた文字で
『僕は仕事ができません。セクハラ、パワハラには何も対処いたしません』と書かれていた。
 宇似は、顔を真っ赤にして、チケット係から千円を取り上げ
「俺の胸でも触っていろ。」
 と詰め寄った。しかし、男は、
「追い込まれちまった。これから休職するよ。」
 と言ったきり、黙り込んでしまった。
 少し経つと、フェリーが神戸駅に着いた。船のへさきは時計を貫く直前で止まった。デッキには続々と人が集まり、行列を作って休職したはずのチケット係にチケットを渡していた。
 その時、宇似は、チケットを買い忘れたことを思い出した。そこで、細い目の男を見ると、
「料金は315円です。」
 と書いた看板を示したきり、船から下りていなくなった。
 宇似は、セクハラ男に千円を渡すが、千円を取り戻した男は、釣りを渡さない。ひたすら、他の客からチケットを受け取り、女性客には漱石を見せびらかしている。
 宇似は列に割り込み、
「お釣りを渡したら、負けだとでも思っているのか。」
 と皮肉を言うが、男は休職中を理由に685円を渡さない。
 宇似は結局、一番最後に釣りを受け取って、下船した。
 
                       (了)

書いてみて

 うーん、無意識に描くって難しいですね。下手をすると、雑に描いただけのような。でも、この情景と、この人はマッチするくらいは意識しました。

最後に

次回の方向性は決まっておりませんが、なるべく今の自分を変えるような新機軸を打ち立てたいと思います。
ここまでおつき合い下さり、ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?