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新企画!  月イチ純文学風掌編小説 第一回「銀」

はじめに 月に一度純文学を練習してみます


こんにちは、吉村うにうにです。普段はエンタメ系の長編小説を書くことが多いです。ちょっとした気まぐれで、月に一度、純文学風に掌編を書いてみようと思い立ちました。その気まぐれのきっかけはこちら。

で、純文学って何?とりあえず書いてみます。

これも上記の記事で記載しておりますが、よくわかっておりません。とりあえず、三つ意識します。
①文章の美しさを意識する(ちょっとでもきれい目に書こうとする。これはエンタメにも生きるはず)
②オチ、ストーリー展開を気にしない(してもいい)。意味分からないことも多いでしょうがゴメンナサイ、解説何処かで入れるかもです。入れたら無粋かな?
③心理描写を書かずに、伝えようとする(これは作家さんによります)

あんまり真に受けないで、実験ですから。

いつもと違うことをやってみよう、自分をつついて、揺さぶってみよう、そう思っただけです。いつも読んで下さる読者の方にはいつもの「うにうにの文章」とは違うところを楽しんで頂ければと思います。初めての方は「へえ」と思ってくだされば幸いです。あくまで、「純文学風」ですので、純文学ファンの方にはがっかりさせるでしょうから先に謝っておきます。でも、きっと進歩させます。

では、「銀」です。よろしくお願いします。

     銀
               吉村うにうに
 
 1/Fの揺らぎは人々をリラックスと眠りに誘う。電車の中も例外ではなく、車輪とレールのぶつかり合いから生じる揺らぎを享受しているうちに、目的の駅に着くことを人は当然視するだろう。
予定調和を破る事態は突然やってきた、嗄れ声の怒声だった。
「この野郎、やんのか。」
 声の主は女性を連れた年配の男性。呼吸器感染症下の街でただ一人マスクをせずに電車の優先席に乗り込んでいる。
「タイマン張るなら張ってやるよ。」
 マスクでくぐもった声を発したのは、車内の通路を隔てて真向かいの、やはり優先席に一人腰かける白髪の男性だった。
「タイマン」という近年耳慣れない言葉を合図に、当初は無関心を装っていた周囲の乗客たちは、リハーサル通りと言わんばかりに一斉に顔を二人に向けた。
 周囲の視線を察知した社会正義の行使者は、手に握った杖を敵に向けて突き出す。その先端は微かに震えている。
「あんた、やめなよ。」
 杖を向けられた男の妻は、どこか艶っぽさの残る声で男を宥める。男は、最初こそたじろいだ目をしていたが、女性の声を聞いた時、表情に活力を取り戻し、自信たっぷりの調子で
「女房に話がしたかったんだ。文句あんのか。」
 と、女性の肩に手をかけた。向かいの男は杖を支えに立ち上がろうとするが、電車の気まぐれな揺れに翻弄され元のグレーの座席に突き戻される。周囲の乗客は、互いに顔を見合わせ、中には腰を浮かしかけていたものもいたが、結局、全員が拱手傍観を決め込むことにした。
「マスクくらいしろって言うんだ。」
 電車は止まり平和への脱出口を作る。打ちのめされ、杖だけを頼りに歩く男は、背中越しに吐き捨てるように言った。
 
                        (了)
 


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