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水深800メートルのシューベルト|第46話

 僕たちは、扉から出たところで立ち止まっていた。足下のブロックからむっとするような熱気と夏の臭いが立ちこめてくる。パパは、赤い車の傍にいて、運転席のドアを開けてあげていた。
「ハニー、悪さしないで待っていてくれた?」
 出てきたのは大柄な女の人だった。僕たちの方を嫌な目でちらっと見て、すぐにパパの首に抱きついて唇に咬みつくようなキスを始めた。僕は、このおばさんが誰なのかという質問をし忘れるほど、長い間吸い合う口に目を囚われていた。小声でメリンダがたしなめてきた。
「子どもは見ちゃ駄目」
 その言葉で恥ずかしくなって、下を向いた。

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     ~~編集後記~~
2021年も今日で終わりです。この一年も遅筆ながらコツコツを執筆を続けられました。noteを始めたのが大きな出来事です。そこで、他の方の素晴らしい作品に刺激されたり、自分の作品を読んで頂いたり、コメントのやり取りをするなどの経験は、大きな喜びであり心の中の宝物です。ありがとうございした。執筆のモチベーションになります。来年もよろしくお願いします。

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