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毎日ちょっとだけ連載小説|水深800メートルのシューベルト

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連載で小説を始めてみました。一話をかなり短く(200文字くらい)毎日ほんの少しずつ進める予定です。 読んで頂けると嬉しいです。
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2024年6月の記事一覧

水深800メートルのシューベルト|第958話

 強い風が吹いた。アーモンドの枝先が揺れて花びらがふらりと宙に浮いた。その花びらと重なっ…

吉村うにうに
5か月前
7

水深800メートルのシューベルト|第957話

 ゲイルさんは遠くを見つめていた。きっとママが死んだことを受け入れようと、ママを死なせて…

吉村うにうに
5か月前
13

水深800メートルのシューベルト|第956話

救急車で運ばれ、病院で悪態をつき、僅かに体力を取り戻したら、無理やり変えることを望み、そ…

吉村うにうに
5か月前
8

水深800メートルのシューベルト|第955話

「誰と暮らすことを選ぼうと、私は君の意思を尊重したいと思う。助けてもやる。しかし、助けて…

吉村うにうに
5か月前
8

水深800メートルのシューベルト|第954話

「そんな事はわかっているさ、メリンダも。だから、あっちから一緒に暮らせないと前言を翻して…

吉村うにうに
5か月前
11

水深800メートルのシューベルト|第953話

 風が吹き、木の葉がさざめいた。白いアーモンドの花びらが待っていた。そこには、人の気持ち…

吉村うにうに
5か月前
9

水深800メートルのシューベルト|第952話

 僕についてはその通りだと認めるしかなかったが、メリンダも? どうしてと尋ねるとゲイルさんは僕がわかっていないことを不思議がっているようだった。 「アシェルと結婚したい、みたいな事を言っていたじゃないか」 「あれは僕をからかっていただけですよ。聞いていたでしょう?」 「本当にそう思うのか? 数年ぶりにあった相手、しかも、お互いの人生に影響を与え合った相手にそんな余裕はあるのか? 話している時、本当に彼女の声を聞いていたのか? 表情を見ていたのか?」  つまり、僕は彼女の表

水深800メートルのシューベルト|第951話

ゲイルさんはちょっと怒ったようだった。 「おい、アシェル。私は、君を本当の息子だと思って…

吉村うにうに
5か月前
13

水深800メートルのシューベルト|第950話

「本当らしいですか?」  ゲイルさんは、首を振った。彼だって情報源に直接触れているわけで…

吉村うにうに
5か月前
8

水深800メートルのシューベルト|第949話

「噂では長くなるらしい。三か月かもな」  艦船乗りの宿命として、いつも行先は告げられない…

吉村うにうに
5か月前
6

水深800メートルのシューベルト|第948話

「おいおい、メリンダはそういうのが得意ではないんだよ。お前は、いつもひねくれているな」 …

吉村うにうに
5か月前
10

水深800メートルのシューベルト|第947話

 フェンスにもたれていたジョーは、ゲイルさんに言った。 「親父、もうつき合ってやったんだ…

吉村うにうに
5か月前
7

水深800メートルのシューベルト|第946話

 メリンダは、名残惜しそうに後ずさりすると、背をくるりと向けて、ジョーやゲイルさんのすぐ…

吉村うにうに
5か月前
7

水深800メートルのシューベルト|第945話

「さよなら」  彼女はもう一度言った。僕も同じ言葉を返した。きっと、彼女ともう会わない方がいいのだろう。少なくとも、彼女が僕を見ても怒りや悲しみ、痛みの感情を想起しなくなるまでは。その日は永遠に来ないかもしれない。でも、もしそうならそれが運命だったんだ。僕が父親を選べなかったように、メリンダがそんな僕のパパと遭遇したように、きっと逃れられなかったのだろう。そう思うしかなかった。 「助けが要る時人間は、できる限りのことをするよ」  と心で呟いてみたが、口にすると嘘になってしま