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【怖い話】タクシー

私が20歳の時の話です。
当時私は大学生で、通っている大学の目の前のアパートに住んでいました。

朝昼は大学に通って夜はコンビニでアルバイト。そしてバイトが休みの日は一人で飲みに行くのが習慣でした。

その日も、バイトが休みだったので、お決まりの居酒屋に行って一人で飲んでいました。

夜12時を過ぎた頃、眠くなってきたのでそろそろ帰ろうかと思い、店を出ました。歩いて帰れなくもない距離だったのですが、眠気もあり面倒だったので、走っていたタクシーを止めて後部座席に乗り込みました。

「○○大学の前までお願いします」

私が行き先を伝えると、運転手は黙って進み出しました。ちょっと無愛想な運転手さんだな、などと思っているうちに、私は眠ってしまったようです。


目を覚ますと、窓の外は真っ暗で、まったく見覚えの無い道でした。

私が住んでいたのは割と都会の方だったので朝方まで営業しているお店も多く、深夜でも明るいくらいです。

なのに今このタクシーが走っている道は、建物も外灯も無い暗闇で、道路の両脇は風で揺れる木が流れていくのが見えるだけでした。私は不安になり、運転手に言いました。

「すいません、今どの辺り走ってますか?」

「もしかして、道に迷ったりしてます?」

何を聞いても、運転手は黙ったままです。私は徐々に怖くなってきてふと料金メーターに目をやると、普通なら1000円くらいで家に着く距離なのに、もう5000円を超えていました。

このタクシーはおかしい。そう思っていると、十字路手前の道路の左側にコンビニが見えて来ました。

「すいません、もうそこのコンビニで大丈夫です」

少し声を大きくして私は言いましたが、運転手はそれも無視してコンビニを通過し、十字路を右折するためのウィンカーを点滅させました。

「もう本当にここでいいので、降ろしてください」

私が語気を強めてそう言うと、運転手はようやく車を止めて後部座席のドアを開けました。私は一万円札を置き、お釣りはいらないですと告げて車を降りました。

降りる間際に運転手が小さな声で何かを呟きましたが、私は聞こえないふりをして今来た道を走って戻り、コンビニに駆け込みました。

明るい室内に安心した私は、コンビニの店員にここがどこか聞き、自宅とは真逆の方に来ていることを知りました。

運転手がどこにいこうとしてたのか気になった私は、十字路を右折しようとしていたことを思い出し、「この十字路、右の方に行ったら何がありますか?」と店員に聞いてみました。

店員は半笑いでこう答えました。

「こんな時間に行かないほうがいいですよ。右の方は行き止まりで墓地しかないんだから」

私はもうタクシーを呼ぶ気にはなれず、申し訳ないと思いながらも友人に迎えにきてもらって帰宅しました。


あれから10年以上経った今でも私は、あのタクシーを降りる時に運転手が呟いた言葉を思い出すと恐ろしくなります。

「なんで起きるんだよ。起きるなよ。」

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