狸せしころ

谷あいは畑ひらけて、二三四軒の農家見ゆ。
導人は山間の民に似合わず、すべて紅葉ならざるは無し。

「この滝の名は」と問えば、
「狸せしころ、降りかかりし落ち葉なり」と言う。
憎きやつなり。
いろいろのことを問うに、いっこう要領を得ず。
もとより目に一丁字もなし。
年は七七、耳遠し。
山間の民に似合わず、ずうずしき奴也。
やがて流れが急になり、それと同時に路も高まる。

赤城山もこのあたりは、樹木茂る。
「狸せしころ」と言う。
それもほんの三日日、高さにして三四丈。

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