丹下左膳・抄
一
何かと邪魔になる丹下左膳まで
通りすがりの屑屋へおはらいものになって
三日も四日も家へ寄りつきゃアしない
お兼は
どぶ板をならして家を出た
むりはないので
計略が図に当たって
茶壺だね
その穴へ左膳がおちこんだのをこれ幸いと
父上あがってこられない、父上
その左膳のおちた地中に
峰丹波の下知で
とやかくするうちにはや
何やらけつまづいたようす
こんな述懐にふけっている最中
これで夜中を待つといたそう
ニ
いつしか夜も更け
犬が十二匹という盛大ぶり
乞われるままに
先生が来てから
こんなことだろうと思ったよ
むりがむりでなくなれば
毎夜こうして
先生に白黒をつけておもらいしてえと思いやしてね
とんがり長屋の人達は
グイと握った二つ折りの手拭で
まずこの江戸の人心から改めねばならぬ
三
お美夜ちゃんは
ここが大事なところと
そっとその耳にささやけば
つもる話はあとでゆっくり
ひと役働いてもらわねばならぬ
淋しいのも忘れたお美夜ちゃんが行って助けてやろう
作爺さんは足がきかないので
あたいには
いっぱしのことを言って
世にあらゆる災厄を流して頼むチョビ安さんだわ
いっぱしのことを言いながら
どうしてここにあるんだい
世にあらゆる災厄を流して頼むチョビ安とやら
四
あとには、穴埋め役の一同
捨て石の一つもおっ立てておいてやるんだな
あんまりいい気持はしないので
この地の底が抜けて
オイ
すでに水浸しでござろう
婆あだって引っこんでいられますか
左膳も源三郎も
水に押しあげられ
手ごろの石をさがしに行った結城左京ら
そこまで埋めると
轟と水音のこもって聞こえるのは
一刀を前半にたばさみ
下帯一つにむこう鉢巻のもの
よもや先生を見殺しにゃアしめえナ
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