優しい嘘
相手の気持ちを慮り、例えばそれが幸せだったりワクワクさせるための嘘ならば。それを優しい嘘と呼んでいいと思う。
優しい嘘が一年で一番多いのはこのクリスマスシーズンだと思う。
そう、サンタクロースだ。
俺は小2までは絶対的にいると信じていた。3年になると友人が「サンタって親だよ」とファンタジーの欠片もないことを言うから夢が醒め始め、4年になる頃には「サンタ=親」の図式が定着した。
実はうちには小4まではサンタがきていたのだ。ただ、小4の時にきたサンタがちょっとやらかしてしまい、上の図式が確固たるものに仕上がってしまった。
小1か小2のクリスマス。その夜は完璧なホワイトクリスマスだった。降り積もった雪のせいで夜なのに少し明るく感じるほど。外にでて深々と降り積もる雪を眺めながら不安になっていた俺。
「こんなに雪が降ってるから、サンタさんこれるかな」
父に尋ねると洗濯カゴを渡されてこう言われた。
「これを外に置いておけばサンタさん絶対くるから待っててみろ。ほら、鈴の音が聞こえるべ。近くまできてるから中で飯食ってろ。」
鈴の音は全く聞こえなかったけど妙に納得した俺は洗濯カゴを玄関前に設置してからみんなで食事をした。
食べ終わってケーキをつついていると一段とテンションの高い父が言う。
「外行ってみろ。鈴の音がしたから多分サンタさん来たんでねぇか。」
鈴の音なんて聞こえなかった。大人は耳がいいんだなぁ。と思いつつダッシュで玄関に向かい緊張しながら扉を開ける。すると入ってるではないですかプレゼント。入ってたんですプレゼント。しかもおもちゃの広告をみながら「これ欲しい」と言ってた戦隊モノのおもちゃが!ミラクル!!
「おおおおおおおお父さんあった!!!!!!」
喜ぶ俺をみて喜ぶ父と母。「サンタはいる!」と信じていた理由はこうやって毎年サンタが来てくれていたからだ。
そこで少しばかり大人になった小4の俺はサンタに手紙をあげることにした。
毎年遠路はるばる来てくれているから、せめて感謝だけでも伝えたいと考えたのだ。便せんには、ありがとうの気持ち・学校のこと・今ハマっていることなんかを書いたと記憶している。
精一杯書いた手紙にキャンディをプラスして外の洗濯カゴに入れた。例年通り食事を済ませてから外に出ると手紙と入れ替わりでプレゼントが入っていた。サンタさんが手紙を受け取ってくれたことが嬉しかった。
とここまではよかった。まだファンタジーの中にいられた。
後日父の車に乗った時にダッシュボードを開けて時が止まった。なんか見覚えのあるキャンディがあるじゃないですか。しかも手紙まで。
「これサンタさんにあげたはずなんだけどなんでお父さんが持ってるの?」
「サンタさん忘れて行ったからあとで届けてあげようと思って預かってた」
無理があるぞ。レベル1で魔王と戦うくらい無理があるぞ、その理屈は。ここで俺は友達に言われていた「サンタの正体は親」という信じたくない事実を受け入れたのだ。
ただ。嘘をついてまで夢をみさせてくれたのは凄く感謝してる。本当にワクワクしたし楽しい思い出しかないからクリスマスが好きになったもの。
俺もいつか子どもができたらこれは引き継ぐつもりだ。する側も相当面白いと思うし罪悪感0の嘘ってなかなかないからね。
当時の優しい嘘は「時が経ってから開けられるプレゼント」だったと気付いたもので。
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