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〇ミ・ト・ン/小川糸

黒パンというのは、その名の通り、
見た目が黒いパンのことです。
正直、真っ黒です。
けれど、こげてしまったからではありません。
それは、ライ麦という粉をふんだんに使っているから。
一見かたそうですが、中はふわふわと柔らかく、
口に含むとほんのり甘い味が広がります。
魅惑的な香りの正体は、姫ウイキョウの種です。
ルップマイゼ共和国の黒パンは、
姫ウイキョウの種が欠かせません。
これが、おいしさの秘訣なのです。

うまれた日の黒パン

黒パンの作り方はこうです。
ライ麦粉と姫ウイキョウの種をまぜたら、
そこへお湯を注ぎます。
軽く混ぜ、パン生地が風邪をひかないよう
あたたかい毛布などをかけて、
ひと晩、生地を休ませます。
こうすることで、パンがじっくりと育つのです。
マリカをあやしながら、おかあさんはパン生地の中に、
パンこね桶に残っているかすを加えます。
かすを加えたら、ふたたびパン生地をあたたかい場所に置いて、
気持ちよく発酵させてあげます。

うまれた日の黒パン

おかあさん、シマコーフカを一杯だけ飲んでから、
台所に立ってとっておきのソーセージを出してきました。
ヘラジカの肉をハンノキで燻製した、最高のソーセージです。
おかあさんは、そのソーセージに木の枝をさして、
暖炉の火であぶります。
長い眠りからゆっくりと覚ましてあげるように、
ときどき向きを変えながら、時間をかけて火を通すのです。

お祝いのシマコーフカ

その日のデザートは、栗の甘露煮でした。
その上に、おかあさんはたっぷりと生クリームをかけて出してくれます。
それはまるで、初雪がふった日の朝のような光景でした。
真っ白い生クリームが、飴色の栗を綿帽子のようにおおっています。

お祝いのシマコーフカ

まずは庭で取れた薬草を煮だして、ミルクティーを作ります。
その間に、じゃが芋をたっぷりすりおろして粉をまぜ、
じゃが芋のパンケーキのたねをこしらえます。
だいたい朝ごはんはいつもこんな感じでした。
マリカはパンケーキに、バターとはちみつをたっぷりかけて食べますが、
ヤーニスにはベーコンを一枚、焼いてあげます。

どんぐりコーヒーを飲みながら

キュウリのピッピの主な材料は、
とれたてのみずみずしいキュウリだけです。
キュウリは、最初に両端を手でちぎるようにして落とします。
このとき、ナイフで切るのではなく、
必ず、手でちぎることが大切です。
そこに、井戸水、もしくは泉のわき水をたっぷりと注ぎます。
調味料は、フサスグリの葉っぱと、にんにく、
茎がついたままの姫ウイキョウ、洋がらし、以上です。
これを二日ほどつければ、キュウリのピッピの完成です。

キュウリのピッピの作り方


すこしファンタジーが入ったような
でも、どこかの国でも作られていそうな
そんな料理が出てくるお話でした。



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