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〇小公女たちのしあわせレシピ/谷瑞恵

タイマーが鳴ると、パン生地は二倍くらいに膨らんでいた。
めん棒で生地を大きく伸ばし、
砂糖とレーズンをちりばめる。
端からくるくると巻いて、
棒状になったものを切っていくと、
切り口が渦巻き状になっている。
レーズンと砂糖が詰まった渦巻きだ。

小公女たちのしあわせレシピ

焼きあがったチェルシーバンズは、
ほかほかふんわりした幸せの香りでキッチンを満たした。
トレーの隙間を埋めて、はみ出すほどに膨らんで、
ツヤツヤした小麦色の渦巻きはまるで
同じくらい甘かった。
もっとパンがしっとりしていたとか、
レーズンの風味も小麦粉の香りも
当然違うのだけれど、繊細な違いなんて
甘さのインパクトにはかき消されてしまう。
蜂蜜をたっぷり塗った菓子パンに、
あのときと同じように、
甘すぎと文句言いながら、
笑いながら、紅茶とともに楽しむ。

小公女たちのしあわせレシピ

シロップはパン粉と混ぜ合わせ、
レモン汁とスパイスを加える。
冷やしたペストリーは、めん棒で伸ばし、
テニエルのイラストに似た
小さめの焼き型に敷いていく。
そのまま一度焼いたところに、中身を入れればいい。
さらにオーブンで焼くと、
香ばしくも甘い香りが漂う。
見た目はとても素朴なタルトになった。

小公女たちのしあわせレシピ

蒸し上がったスエット・プディングは、
大きなソーセージみたいだ。
それを輪切りにし、お皿に載せると、
つぐみは持参してきたカスタードソースを注ぎ入れ、
プディングが溺れそうなくらいにたっぷりと浸す。
それがこのスエット・プディングの
一般的な食べ方なのだそうだ。
口に入れると、素朴なレーズン入りの蒸しパンみたいだった。
どっしりとした食感で、
蒸しパンほどふわふわではない。
カスタードがなければ、少し味気ないのかもしれないけど、
なんだかなつかしい味だと思った。

小公女たちのしあわせレシピ

星模様の袋に入ったお菓子は、
ほんのりと生姜の香りがするが、
ナツメグやシナモンも入っているので、
和佳子は苦手に感じなかった。
それよりも、甘いケーキになった生姜は、
料理の生姜とは違った味わいだ。
辛さを感じる前に、甘さとさわやかな香りが
混ざり合って、少し弾けたかと思うと、
すっと風が抜けていくようかのようだった。

小公女たちのしあわせレシピ



昔のお菓子もきちんと読むと
おいしそうだなあと思った。
作ってみたくなる、
食べてみたくなる本だった。



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