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〇タルトタタンの夢/近藤史恵

中身は、豚足とレンズ豆の煮込みだろう。
〈パ・マル〉は、こういうフランスの家庭料理っぽい
メニューが人気である。
シュークルートだとか、仔羊のグリエとクスクスを合わせたものだとか、
ブイヤベースなどが、メニューにならんでいる。

タルトタタンの夢

三舟シェフの作るタルト・タタンは確かに美味しかった。
りんごがバターでキャラメル状になっていて、
さくさくのタルトの上に乗っている。
りんごの酸味とキャラメルのほろ苦い味が
渾然一体となって、うっとりするほどだ。

タルトタタンの夢

「大麦と帆立のスープ、生姜風味。
これなら体調の悪い人間でも大丈夫だろう。」
見れば帆立はほぐしてあるし、
大麦は圧力鍋の効果で柔らかく煮えているようだ。
鶏でとったらしい澄んだスープの中、
生姜とわずかに散らした黒胡椒の香りが、食欲をそそる。

タルトタタンの夢

蒸した平目に、トマトとパプリカのソースをあしらったものだった。
白い平目に、二種類の赤いソースがかかってある。
添えられたハーブの緑がアクセントになっていて・・・
デザートは白桃のコンポート、
しかも冷やさずにあたたかいソースをかけて。
ソースはバターを使っているわけでもなさそうなので、
シェフに尋ねてみる。

タルトタタンの夢

厨房から出た前菜二品を、テーブルへ運ぶ。
仔羊のレバーと大地の恵みは、
しゃきしゃき感の残る程度の炒められた玉葱とじゃが芋を、
オーブンで香ばしく焼いた仔羊のレバーと合わせたものだ。
添えられたポーチドエッグとゆるいコンソメジュレを
絡めて食べる。
ブランダードは、干しだらとじゃがいもをすりつぶして
オーブンで焼いたもの。
フランスの家庭料理だが、
なめらかなクリームに近い状態にして、
アンティーヴやアーティチョークなどの、
苦味のある生野菜と一緒に食べるのが
三舟シェフのオリジナルである。

タルトタタンの夢

三舟シェフの作ったガレット・デ・ロワが
切り分けられ、みんなの前に置かれた。
さくさくとバターの香りのフィユタージュに、
こってりした濃厚なアーモンドクリーム。
それだけでは、単調になるところを、
干しあんずの酸味と食感がアクセントになっている。

タルトタタンの夢

一皿目の前菜は、茄子の冷製である。
茄子をメインに、夏野菜をたっぷり入れたスープを作り、
それにゼラチンを溶かして冷やし固めたメニューである。
とろん、とした舌触りの野菜たちが、
喉に吸い込まれるように消える。
夏のみの前菜だ。

タルトタタンの夢

カスレは〈パ・マル〉のスペシャリテといっても
いいほどの人気料理である。
鴨と一緒に煮込むのもあるらしいが、
シェフが作るのは、塩漬けの豚肉を使ったものだ。
ハーブで育てられた良質の豚肉に、
塩をたっぷり擦り込んで、冷蔵庫に数日間置く。
そうすると味が熟成して、旨味が強くなるらしい。
その塩漬けを茹でこぼして、
塩と脂気を少し抜いた後、
たっぷりのインゲン豆と豆と同じ大きさに切った野菜を
とろとろになるまで煮込み、
そのあとパン粉をたっぷりかけてオーブンで焼く。
豚肉の旨味をたっぷり吸って、
とろけたインゲン豆と、
香ばしくきつね色になった表面のパン粉のバランス。

タルトタタンの夢

コンフィとは、低温の脂でじくじくと煮るように
火を通した保存用のことだ。
耐熱皿に鷲鳥の肉と、たっぷりのオリーブオイル、
ハーブやにんにくを入れて、
オーブンで一時間以上かけて、じっくりと火を通す。

タルトタタンの夢


フランス料理に詳しくなれそう!
コース料理などのお高い感じではなく、
フランスの家庭料理と言っているので
意外と馴染めるものもあるのかもしれない。
こんなフランス料理屋さんが
近くにあればなあと思って読んでいた。




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