見出し画像

〇山の上のランチタイム/高森美由紀

サイコロ状に切ったモッツァレラチーズを
チキンライスで包んだピンポン玉大のそれは、
キツネ色にカリッカリに揚がり、
湯気と共に香ばしい匂いを立ち上らせている。

山の上のランチタイム

ムニエルにしている鮎、岩魚、山女魚は
裏の渓流で登磨と美玖が釣った天然もの。
ここの魚は生臭さや癖がなく、
銀色の鱗はプラチナのように輝き、
ギュッとしまった身は真珠色。
火を通すとふっくらとし、箸ではほろりと解れる。

山の上のランチタイム

目の前にベイクドキャベツを添え、
マスタードソースが帯状にかけられた
二枚の地鶏肉のソテーが登場した。
表面の所々に焦げ目がつき、
ジュージューと音を立てて肉汁が浸み出してきている。
立ち上る湯気には、肉の香りが溶け込んでいて、
湯気にさえ奥行きが感じられる。

山の上のランチタイム

ミルクの甘さを強く引き出した
プルプルのパンナコッタに
極甘で香りが高いスチューベンのクラッシュゼリーが重なり、
その上には、瑞々しい翡翠色の果肉がめいっぱい盛られている。
スチューベンを、皮ごと搾った果汁を混ぜ込んだ
ひと絞りの藤色のホイップクリームと
鮮やかなミントが飾られていた。

山の上のランチタイム

ちなみに阿房宮菊は県南地方で栽培が盛んな食用菊。
鮮やかな黄色で、香りがいい。
甘味と、ほんのり爽やかな苦みがある。
それらは茹でても変わらない。
それが、これまたフルーティーな
ラ・フランスと合わせると、
口の中は清涼感のある奥ゆかしいあまさでいっぱいになる。
桃色の柔らかな肉に、
水脈のような白い脂が走っている。
塩気はほどよく、肉はジューシーで旨味が強い。

山の上のランチタイム


湯気にさえ奥行きが感じられるという文章で
一気においしそうが増した。
山の上にあるこのレストラン。
誰もがいってみたくなる。
肉一枚の表現もリアルでとってもおいしそう。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?