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〇さんかく/千早茜

胃が疲れてきたので茶碗蒸しを頼んだ。
出汁のきいた優しい黄色に身体がゆるむ。
食べ足りない伊東くんが角煮と煮玉子を追加した頃に、
新生姜と桜海老の釜飯が炊きあがった。
どちらからともなく浅漬けを注文する。
三つ葉と混ぜてほっくりと盛られた釜飯をひとくち食べて、
飲み過ぎていることに気づく。
湯気が妙にきらきらしている。
新生姜の爽やかな香りがうまく伝わってこない。

前も食べた鯖のきずし、あと真アジの造り。
きずしに添えられていたおかひじきは
しゃきしゃきとして真アジの下に敷かれていた。
大葉もみずみずしかった。
わさびにはすだちの皮が混ざっていて爽やかだ。

目が合いそうになったのでメニューに視線をやった。
万願寺とうがらしの炙り、根菜のおから煮、
ごま豆腐の揚げだし、だし巻き、アジの南蛮漬け。
鰆の幽庵焼き、カツオの竜田揚げ・・・・

目の前には金縁の白い皿とレースが敷かれ、
ようやくパフェがやってくる。
つやつやと赤く輝く王冠のようだった。
てっぺんに苺がひとつ。
粉雪のような砂糖が薄くかかって、
ピンク色のアイスに絞られた生クリームの上に、
そっと鎮座している。
そのまわりを半分に切った苺たちがぐるっと囲っていた。
一番上の苺を頬張る。酸っぱくて甘い。
生クリームをひとすくい、苺アイスは自然な香りだった。
なめらかなバニラのアイスは懐かしい味がして
卵の味がして、
フレッシュな苺のソースでまた雰囲気が変わる。
果肉がぷちぷちと口の中で潰れる。

意を決して、強めに塩をふり、卵と醤油と胡麻油を入れる。
カレー粉も少し入れるのがポイントだ。
醤油はニンニク醤油にした。
ぐちゃぐちゃと音をさせて、よく揉み込む。
下味が馴染むまでの間に副菜を作る。
粗みじん切りにしたゆで卵いれたポテトサラダには
スライスした玉ねぎを添える。
これはから揚げの付け合わせ。
あとはオクラ納豆と焼き茄子。
網で黒く焼いた茄子の皮を包丁で剥くのが好きだ。
かすかに夏が名残惜しくなる。
生姜を吸って焼き茄子にのせ・・・

高村さんは具を次々に皿に盛り、居間に運ぶ。
合間に酢飯を混ぜ、町内会でもらったうちわであおぐ。
結局、俺がやったのは刺身をパックから皿に移すことと
シーチキンの缶を開けただけだった。
シーチキンは「油きって」とやりなおしをくらった。
最後に海苔を切り、食卓に着いた。
ローテーブルは手巻きの具と調味料でいっぱいで、
酢飯の器は床に置かれていた。
ビールで乾杯する。

かいわれ大根に大葉、みょうが、白髪ねぎ、
生姜は千切りと紅生姜と甘酢生姜と三種類もある。
たたき梅や煎り胡麻も小皿に入って並んでいる。
そっちのいいねと言っては新しい具を巻き食べた。
ビールがなくなり、日本酒に替えて
途中で吸い物休憩をし、
そのうち何を巻いたのか申告せずに
黙々と口に運ぶようになった。


千早茜さんの、おいしいがたくさんつまった『さんかく』
話の内容もだけど、
こんなにおいしいが隠れていては
飯テロもいいところ・・・



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