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駆け出しマーケターのはじめの一歩

この記事では、マーケティング初学者の私の視点から、「マーケティングとは何か?」について、いくつかの書籍を参考にしながらまとめています。学んだこと・学び直したことを整理する目的で書きました。マーケティング実務の参考となれば幸いです。


1.「マーケティング」言葉の定義

まずは、「マーケティング」という言葉の定義です。とりあえず迷ったら、言葉の語源・定義を探るべしと、学生時代に教わりました。以下、マーケティングの本家であるアメリカ・マーケティング協会の定義から引用します。

Marketing is the activity, set of institutions, and processes for creating, communicating, delivering, and exchanging offerings that have value for customers, clients, partners, and society at large.
マーケティングとは、顧客・クライアント・パートナー・社会全体にとって、価値のある提供物を創造し・伝達し・運搬し・交換するための、活動・組織・プロセスである。

引用書籍:井上大輔(著)/マーケターのように生きろ

かなり抽象化されていますが、ひとつずつ吟味してみましょう。

「顧客・クライアント・パートナー・社会全体にとって」
   
➡ 必ずしも「顧客」を相手とした「ビジネス」に限定されない。例えば「大学が学生を募るためにオープンキャンパスを開催する」「政治家が投票を呼びかける」などもひとつのマーケティング

「価値のある提供物を創造し・伝達し・運搬し・交換する」
   
➡ 一言で言うと「価値をつくって、伝えて、届けて、交換する」こと

「活動・組織・プロセスである」
   
➡ マーケティング部などの専門組織がやる仕事のことではなく、価値を届けるための活動やプロセスはすべてマーケティング

マーケティングと聞くと、すぐに広告や宣伝を担当するマーケティング部門の仕事を思い浮かべるかもしれませんが、その本質は、「相手に価値を届けて、対価を得る」ことです。マーケティングの原理は、自分自身のキャリアや生き方にも影響するものだと思いますので、マーケティング部門以外の方でも、その基礎を知っておくと、いつか役立つ場面があるかもしれません。

2. 忘れてはいけないこと=顧客起点

事件は会議室で起きているんじゃない現場で起きているんだ!」この有名な台詞を聞いたことがありますか? マーケティングでも同じことが言えます。重要なのはいつも現場、つまり「お客さまの心」です。

私は、普段の仕事では、広告領域(のデータ分析)をメインでやっていますが、ともすると、どのメディアが効率的か/KPI地点をどこに設定しようか/ABテストも同時に実施しておきたいな等々、お客さまにとってはもはやどうでもいいような、目の前の手段や作業に囚われがちになります(いわゆる、手段の目的化という状態。私が学生時代に学んだ、藤井聡さんの書籍『土木計画学』には、目的と手段の階層性などが詳細に論じられております)。

—— 例えば、好きな人に手紙を書くシーンを想像してみてください。
はじめから、線の太さや文字数、紙の大きさなどの体裁を気にして書き始めるでしょうか? そういう細部はもちろん大事ですが、まずは好きな人のことを思って、素直に書きますよね。体裁や細工はそのあとの話。ましてや、あまり好きでもない人に何パターンか手紙を書いてみて、ABテストしてから本当に好きな人に実戦する、なんてあり得ませんよねw

体裁や検証も大事ですが、一にも二にも、相手の心を起点としなければなりません。そして、そこから遠ざかってはいけません。
日常業務では、どうしても目の前の作業や締切に気を取られ、その先のお客さまの存在がすっぽり抜けてしまいがちです(いや、本当に!)。
「顧客起点」の姿勢を忘れてしまうと、それはもうマーケティングではなく、The作業になってしまいます(自戒を込めて…)。

3. 相手の求めるものを理解し、つくり、伝える

本題に入りますが、マーケティングの本質は「価値を届けて、対価を頂くこと」にあります。モノ(製品自体)でもコト(サービス自体)でもなく、その背後にある「価値」を届けるのです。
ここからは、先ほど記した「価値をつくって、伝えて、届けて、交換する」プロセスについて、深掘ってみたいと思います。


① 市場を定義する

まずは、市場の定義です。つまり、「誰が、あなたの製品・サービスを買ってくれるか?」という問いに答えること。分けてから狙う、狙うためには分ける、ということです。頭文字をとって、S/T/Pの3つをおさえておきましょう。

  • Segmentation(セグメンテーション)
    ┗ 市場を切る軸を決める

  • Targeting(ターゲティング)
    ┗ 狙うセグメントを1つ決める

  • Positioning(ポジショニング)
    ┗ そのセグメントでの立ち位置を明確にする(FoRを決める)

ここで重要なことは、S→T→Pの順番ではなく、これらの要素を組み合わせて、なるべく競合しない、独自のポジションを確立していくことです。


② 価値を定義する

次に、価値の定義です。「価値」または「価値がある」とはいったいどういうことでしょうか? 明治時代に「Value」の訳語として当てられ、一説には夏目漱石が初めて使用したと言われるこの「価値」という言葉。一般的には、「役に立つ度合い」や「(その人にとっての)有用性・重要性」などと解釈されています。私は、以下のように定式化しています。

  「価値がある = その人の欲求をかなえることができる」
   
ただし、
  「欲求の満足度 > 支払う対価」
という制約条件付き

この関係式から、価値がある状態をつくり出すには、「欲求の満足度を高める」か、あるいは「(相手が)支払う対価を小さくする」ことが必要であることが分かります。
前者は、相手が求めることを理解しそれに応えること。後者は、相手が支払う費用・時間・手間・エネルギーを減らすことです。

すこし脱線しますが、私は、シュークリームが大好物です。コンビニなどで次々と繰り出される新進気鋭?!のシュークリームは、いつも私の甘いモノへの欲求をかなえてくれますし、それがたまたまクーポンで安く買える日には、コスパが一気に上昇し、価値が爆上がりする気分になったりしますw 

このように「価値」は、「欲求の満足度」と「支払う対価」という、2つの変数(要因)の大小関係で決まってきます。また、仮に欲求がどれだけ満たされたとしても、それに比べて支払う対価が過大であれば、その製品やサービスはその人にとっての「価値」を持つことはありません。
さらに、「価値」はいつも非定常で不安定なものです。製品やサービス自体は変わらなくても、人の欲求はその日の気分やオケージョン(場所・時間など)によっても左右されます。同じように、支払う対価に対する認識も状況によって変わるでしょう。

マーケティングとは、こうした様々な状況を想像に入れながら、「欲求の満足度 > 支払う対価」の不等号(>)を維持・拡大するすべての活動だとも言えます。

さてここで、「価値」と「欲求」について、もう少し整理してみましょう。

<価値の種類>
 ■ 機能的価値
  ┗ その人にとって、機能面や品質面でどのくらい役立つか
 ■ 情緒的価値
  ┗ その人にとって、どのくらい意味があるか

<欲求の種類>マズローの欲求5段階説を参照(下から上へ)
 ■ 自己実現欲求
    ┗ 他人とは無関係に自己の中で完結する欲求
    (例)もっと成長したい、思うようにやりたい、望む自分になりたい
 ■ 社会的・承認欲求
  ↑  ┗ コミュニティへの帰属や他人から認められたいという欲求
    (例)仲間がほしい、ちやほやされたい、魅力的と思われたい
 ■ 生理的・安全欲求
   ┗ 生き続けることや安心を求める欲求
   (例)生き残りたい、安全な環境で暮らしたい、不安払しょくしたい

参考書籍:佐藤義典(著)/ドリルを売るには穴を売れ

下図に示すように、「価値」の根底・源流には、必ずその人の欲求が存在しています。この欲求と結びつく様々な価値の元素(例:高品質、カッコいい、便利など)が組み合わさる(化合する)ことで、その人にとっての価値・価値観が形成されると私は捉えています。「価値」とは、会議室での喧々諤々の議論で決めるものでは決してなく、「相手の欲求の中から見つけ出すもの」ということですね。

また、私は、「人間の基本的な欲求や本性は、時代や国・地域に関わらず、大きくは変わらない」と考えています。何に喜び、怒り、哀しみ、楽しむのか、何を欲し、何を避け、何を必要とし、何を必要としないか、という基本的な感情や欲求は、現代人であろうと江戸時代の人であろうと、そんなに大きくは変わらないのではないでしょうか。製品やサービスの開発過程において、価値の定義に煮詰まってしまった際は、「江戸時代の人は、何に喜ぶだろうか…」と想像してみると、それが思考をシンプルにし、普遍的な価値へと戻す助けになるかもしれません(私はよくそういう妄想をします)。

最後に、よく言われることですが、機能的価値(役に立つ/立たない)で製品やサービスを選ぶ時代は、だんだんと終わりを告げています。既に、機能面では、各社製品・サービスは横並びの水準で画一化しており、情緒的価値(意味がある/ない)がより重視される傾向にあるのは、必然の流れです。多くの人は、生理的・安全欲求(前述)は平均的に満たされつつあり、それゆえ、より上位の承認欲求や自己実現欲求へと駆り立てられている、という状況です。これからは、製品・サービスの品質や性能だけでなく、それが人の心にどう響き、どのような感情や体験を喚起するかが、価値形成の主要素となっていくのではないでしょうか。

さて、皆さんは、下図(例:暖房器具)のどれに価値を感じますか?
(個人的には、いつか囲炉裏がある古民家に住みたい!)

「役に立つ」は収斂し、「意味がある」は発散する

③ 価値を創造する

続いて、価値の創造です。キーワードは「差別化」です。

ちょっと、想像してみてください ――。あなたはレストランを開業することになりました。でも、すでに近所には似たようなレストランが存在しています。メニューも、サービスも、雰囲気も同じ…。こんな状況では、新たなお客さんを惹きつけるのは難しくなりますよね。では、どう対策すればよいでしょうか。まずは、そのレストランとの「違い」をつくることです。

この例からも想像できるように、既にある製品やサービスをそのままコピーするだけでは、そこに新たな価値は生まれません(ただ、前述の式の通り、競合よりも価格を下げれば、特定の人にとって一定の価値は生まれるでしょう)。真の価値を生むには、他との「違い」や「差」を生み出すことが必要条件です。この「違い」を生み出すプロセスを「差別化」と呼びます。差別化には様々な軸があると思いますが、以下では3つ紹介します。

■ 手軽軸(例:安い、早い、便利)
 ┗ ある程度の品質の製品・サービスを安く、手軽に、便利に提供する
■ 品質軸(例:最高品質、最新技術)
 ┗ 品質の高い、独自性のある製品・サービスを提供する
■ 密着軸(例:顧客をよく知っている、好み通りにしてくれる)
 ┗ 顧客に密着して、徹底的にニーズに応える

参考書籍:佐藤義典(著)/ドリルを売るには穴を売れ

ここで重要なのが、軸はひとつに絞るべきということ。最悪なのは「すべての軸で中途半端」という状態です。「安くて早くて便利」で「品質が高く技術的に進んで」いて「顧客のニーズに完全に対応できる」―― これは理想的ですが、実現不能。現実には、それぞれの軸にそれぞれ質的に異なるリソースや技術、エネルギーを必要とします。全てを同時に追求しようとすると、結局どれも中途半端になるのは明らかです。

例えば、これを野球で考えてみましょう。一人の選手がピッチャーとして役割を完璧に果たし、キャッチャーとしてチームをリードし、内野手としても俊敏に動き回り、外野ではレーザービームを放つ ――、といった1000点満点の選手は存在しませんよね。現実的には、全てのポジション(軸)を同時に完璧にこなそうとすると、結局はどのポジションも中途半端なスキルに終わり、全体として平均以下の選手になってしまうかもしれません。それならば、ひとつのポジションに絞り込んで、そこでのスキルを徹底的に磨き上げる(そして、ライバルとの違い・差をつくる)ことで、レギュラーメンバーとして、勝ち(イントネーションは違うが、価値!)に貢献する、というのが最も有効な戦略と言えるでしょう。

参考書籍:佐藤義典(著)/ドリルを売るには穴を売れ

また、上図に示したように、どの差別化軸を選ぶかと、どのターゲット(S/T/P)に絞るかは、同じ意味を持ちます。差別化の方針を具体的に決めておかないと、前述したように、市場を定義することは難しくなります。

―― ここで、「差別化、もとい・・・」というお話ですが、書籍『ブランディングの科学』の著者であるバイロン・シャープさんは、「顧客は製品やサービスの機能の違いを明確には理解しておらず、「差別化」よりもむしろ、顧客に発見される「独自性」や「ユニーク識別特性(Unique Identifying Characteristics」を持つことが重要」と語っています。コカ・コーラと言えば”赤”、ナイキと言えば “JUST DO IT.”、ミッキーマウスの”耳”などは、確かに他ブランドとの「違い」ではなく、「独自性」と言った表現のほうがしっくりきますよね。こうした「独自性」の存在は、消費者のブランド想起を容易にし、選択肢に溢れ過ぎている現代社会において、自社ブランドが選ばれる確率を高めてくれるものと考えられます。

整理すると、「差別化」もとい「独自性」が、価値の創造の鍵ということです(「独自性」は、前述の「意味がある/ない軸での差別化」とも解釈できます)。


④ 価値を伝達する

最後は、価値の伝達です。「相手に価値を届けて、対価を得る」を具現化するプロセスとなります。いろいろなフレームワークがあると思いますが、ここでは、4Pについて書きます(私が経験したことのあるPromotionとPriceについては、思った以上に説明が長くなってしまいました…)。

  • Product(製品・サービス)
    ┗ これを通じて顧客に価値がもたらされる

  • Promotion(広告・販売促進)
    ┗ 製品・サービスの持つ価値を顧客に伝える

  • Place(流通・販売チャネル)
    ┗ 実際に顧客に価値を届ける経路・場所

  • Price(価格)
    ┗ 集金することで会社に対価がもたらされる

● Product(製品・サービス)
これは「何を売るか」、つまり、製品やサービスそのもののことです。顧客が感じる違い=価値を具現化するステップとなります。前述の「機能的価値」「情緒的価値」に対応させて、以下のように、3つのPに分けて整理しています。

ProductとPackは機能的価値を、PackとPropositionは情緒的価値を生む

● Promotion(広告・販売促進)
正しい広告・宣伝は、社会になくてはならないものだ。良い製品であればより早く、より広く、世間に知らせることが企業の義務である」――これはパナソニックの創業者、松下幸之助さんの言葉です。「広告したほうがいい/すべきだ」ではなく、「企業の義務」とまでと仰っています。たとえ、良い製品やサービスがあったとしても、それが人々に知られず、使われることがなければ、せっかくの価値が実現されないからです。つまり、良いものを創り出すだけでなく、それを広く知らしめ、利用されるようにするのが企業の役割というわけです。

さて、このPromotionのプロセスでは、下図の❶~❹のステップに分けて考察してみましょう。また、このように、選んでもらうまでの道筋を各ステップに分けて考えるフレームは、「カスタマージャーニー」と呼ばれます。
※例えば、ペットボトル飲料など、最初の認知から購入までのステップが短く、購入の前に検索行動が起きないような商品カテゴリーには、このフレームは向かないとされている。

参考書籍:井上大輔(著)/マーケターのように生きろ

まず、「❶知ってもらう」と「❷覚えてもらう」は、似ているようで全然違います。例えば、”挨拶”、”親戚”、”醤油”という漢字は読むことはできるけれど書くことができないのは、「知っている」だけで「覚えている」状態ではないからです。「知っている」は、情報が脳の片隅に存在するだけなのに対し、「覚えている」は、それが脳の前面に来て、すぐに取り出せる状態にあるということ。つまり、「覚えてもらう」には単に記憶してもらうだけでなく、その情報を積極的に取り出してもらえるようにする必要があります。

では、話を上図に戻して、「❷覚えてもらう」ための方法を具体的に見ていきましょう。また、これは同時に「❸好きになってもらう」にも通じます。これらのテクニックを活用することで、「覚えてもらう」→「好きになってもらう」のステップへと前進させることができると思います。

1つ目は、「繰り返し伝える」です。私の好きな広告に、JR東海さんの「そうだ  京都、行こう」があります。テレビCMで繰り返し見ているうちに、自然と頭に刻まれ、思わず口ずさんでしまう人も多いのではないでしょうか。

2つ目は、「自分ごと化してもらう」です。休日や旅行の計画を考えている時に、「そうだ 京都、行こう」というフレーズがふっと頭に浮かび、自分の状況とリンクします。この「"そうだ"」というフレーズがいいなと思うのは、企業側の視点ではなく、その人の視点に立って、「まさに、今、自分ごと化しちゃいました!」という感じがするからです。

3つ目は、「心を動かす」です。あの心地よい声のナレーションや美しい風景の映像によって、「いいな~」「私も行きたい!」といった生の感情を引き出します。こうした、論理や効率論を超えた、感情の琴線に触れる力が、
クリエイティブの見せどころです。
※「琴線に触れる」とは、心の奥に秘められた感じやすい心情を刺激して、感動や共鳴を与えること(文化庁「言葉のQ&A」)

Note(1):
繰り返し伝える」の背後には、「単純接触効果」という心理学の原理が存在します。これは、繰り返し接する情報と好意度には正(プラス)の相関があるという現象で、最初は興味がなかったものでも、何度も見たり聞いたりすると次第に良い感情が起こるようになってくるという効果です。例えば、初めて聴いたときは何の印象も残らなかった音楽も、繰り返し聴くうちに気に入ったきたという経験はありませんか?それが「単純接触効果」です。

Note(2):
長い間接触しているブランドや情報には、必然と、愛着や親しみが湧いてくるものです。書籍『マーケターのように生きろ』の著者である井上大輔さんは、これを「みんな自分のママが好き理論」と称しています。大本は、「ブランドAの購入者がブランドAを思う気持ちは、ブランドBの購入者がブランドBを思う気持ちと同じ(私は私のママが好き、あなたはあなたのママが好き現象)」という実証分析からきていますが、ブランドの使用体験が、そのブランドの認知・理解・愛着などの強力な推進力になるという理論です。

Note(3):
正直、広告って見ない/興味もない/記憶にもないのが普通ですよね。数秒、数十秒という限られた時間の中で、どうやったら相手の感動や共鳴を生み、記憶に留まってくれるか? それが、クリエイティブの役割です。

最後に、カスタマージャーニーの最終ステップとして、「❹選んでもらう」ための方法を考えてみましょう。ここは、「最後の一押し」です。

 ●  近くまで届ける(配荷)
 ●  価値を知ってもらう(How to Say? が大事)
 ●  付加価値(おまけ)をつける

1つ目の「近くまで届ける」は、別の言葉で「配荷」と言います。後述するPlace(流通・販売チャネル)の話にもつながりますが、配荷とは、「商品に、物理的にかつ容易にアクセスできる状態にすること」を意味します。自分たちの商品をどれだけ好きになってもらっても、お店の棚に並んでなかったり、誰の目にも留まらない場所に配置されていたのでは、すべてが台無しです。選んでもらうためには、そもそも、それが「近くまで届け」られていることが大前提となります。

2つ目は、「価値を知ってもらう」です。もちろん、試供品などを提供して、直接体感してもらうといった方法もありますが、ここでは、顧客とのコミュニケーションという観点から考えてみたいと思います。
例えば、「野菜不足のため、健康飲料を買いたいな」と思っていた時に、次のテレビCMを何気なく見たとします。

  広告A:『新鮮な緑葉植物でつくった、健康のためのおいしい飲料です
  広告B:『あー、まずい、もう一杯

同じ商品を宣伝しているのに、結構、印象違いませんか? ちなみに、広告Bは、かつて実際にあったテレビCMで、ご存じの方も多いと思います。
この例から学べることは、「何を伝えるか(What to Say?)」ではなく、「どう伝えるか(How to Say?)」次第で、受け取り方が大きく変わるということです。
広告Aは、商品の価値をストレートに伝えていますが、言ってしまえば、これは企業寄りの目線で伝えたいこと。一方で、広告Bは、視聴者側の視点に立っていて、しかも、ふつうは「おいしい」と言うはずのところを、あえてその期待を裏切るかたちで注目を引いています(20年程前、私のばぁちゃんは、いつもおいしそうに飲んでいましたがw)。
これは「相手の視点に立って、かつ、そこに意外性を織り込む」という高等テクニックですが、こうしたメッセージが真に心に弾き、共鳴や共感を与え、「選んでもらう」ための最後の一押しとなるのではないでしょうか。

ちなみに、私は、広告部門に所属しておきながら、CMやバナーなどの制作に携わったことが1秒もありません(汗)。ですが、私なりに、印象に残る広告、心が揺さぶられる広告の共通項を括り出すと、

 ●  見る人の視点に立っている(見る人の言葉で語られているなど)
 ●  意外性がある(驚き、予想外、思いがけない共通点など)

の2点だ、と思っています(コーポレート・スローガンなどの場合はまた少し違いますが)。

日本コカ・コーラさんの「急須でいれたような香りと旨み」という綾鷹の広告がありますが、"急須"っていう言葉はほとんどの人が知っているのに、案外、日常生活では出てこない言葉ですよね(私は急須を実家でしか使ったことがなく…)。なので、”急須”という言葉にちょっとした非日常性や意外性を感じるのです。「おいしい&ちょっとした非日常」が「急須」という二文字に変換・翻訳されて、見る人に印象を与える、というのが私の所感です。

なお、相手の視点に立つ以外に、共鳴・共振(・共感)を生む方法がないというのは、すでに物理学で証明されています。
※やや無理矢理な例えですが、大事なポイントです。私は土木工学を9年間専攻していましたがw、構造力学において、最重要な現象のひとつです。

物理学思考:左端の重りを揺らし始めると、同じ長さの重りが揺れ始める(共鳴・共振現象)
マーケティング思考:相手(Bさん)の視点に立った広告(Ads.)は共鳴を生み、心を揺さぶる。しかし、相手の視点から少しでもズレると、誰の心もピクリとも揺れない。

すみません…だんたん話が逸れていってしまいましたが、、
最後の3つ目は、「付加価値(おまけ)をつける」です。これは一般的に、セールスプロモーションとも呼ばれます。
迷っている人への刺激として、割引きやおまけ(特典)を提供し、販売促進を行います。特に、割引きは、一時的な売上の押し下げ(ダイリュージョン)や割引への過度な依存による顧客の偏りを生む可能性があるため、慎重に取り組む必要がありますが、新規顧客の獲得やリピート購入へと寄与することも考えられます。特に、競争が激しい市場では、こうした「付加価値をつける」戦術が「選んでもらう」ための最後の一押しとなります。

● Place(流通・販売チャネル)
Placeは、製品やサービスの価値が、どのような経路を通じて最終的な顧客に届くか、というプロセスを指します。例えば、同じメーカーの同じジュースであっても、販売されている「場所(販売チャネル)」は、コンビニ、スーパー、自動販売機など様々です。これらの販売チャネルは、商品と顧客の間の重要な接点を形成します。

さらに、「場所(販売チャネル)」だけではなく、「流通」という時間軸の切り口から見ると、商品は工場から出荷され、卸売業者を経由し、倉庫を通過し、物理的な店舗やオンラインストアで販売されたりと、さまざまな経路をたどって顧客に届けられます。最適な流通経路と販売チャネルによって販売量を最大化させるのが、Placeの役割です。

また、これらのPlace全体像を評価するための指標のひとつに、前述した「配荷率」があります。これは、「市場にいる何%の人が、その商品を購入したいと思った時に購入することが可能な状態にあるか」という割合を表しており、また後述しますが、企業売上に直結する重要な変数(要因)のひとつとなります。この配荷率が高いほど、その商品がより広範囲の顧客に到達していることを意味します(ただし、高ければよいと言うものでもない)。

● Price(価格)
Priceは、マーケティングのエッセンスである「相手に価値を届けて、対価を得る」プロセスの中で、「対価を頂く」部分の中核を担うものです。かつて、私が航空会社にいた時は、この領域を担当していました。企業のトップライン(売上高)を決定づける要素ですから、単に4Pの一部分という位置づけを超えて重要です。

しかしながら、実態として、多くの企業は「価格戦略のための専門組織」を持っていないのではないでしょうか。そこには、「価格は、企業が決めるものではなく、市場が決めるもの」「いわゆる、”見えざる手”によって変動するだけで、主体的にはどうにもできない」という思い込みがあるのだと思います(ちなみに”見えざる手”は、アダム・スミスのマクロ経済に関する有名な言葉で、ミクロ経済への言及ではありません)。

これに関して、書籍『スマート・プライシング』を著した、ジャグモハン・ラジューさんは、米国(2000年代後半)において、「価格戦略とそれを支える調査結果の両方」を持つ企業は全体の8%ほどしかいない、と推定しています。少し古い統計ですが、10社中の9社以上は、価格設定を市場にゆだねている、ということです。
実際、私が航空会社でプライシングを担当していた時も、競合他社の価格に合わせる(マッチング)状況がほとんどで、企業が主体的・能動的に価格を決める機会は限られていました。

ここでは詳細は割愛しますが、この書籍では、「コストプラス法(価格=コスト+利益)」という伝統的な価格設定方法に加えて「ダイナミック・プライシング」「ペイ・アズ・ユー・ウィッシュ」「フリー」「シェア」「自動値下げ」「購入価格指定」「サブスクリプション」「成果報酬」などなど、様々な手法が論じられており、Price領域に携わる方とっては、結構興味深い内容になっています。

以下では、代表的な価格設定の方法をまとめています。

<代表的な価格設定の方法>
■ コストプラス法に基づく価格設定

 ┗ 予想されるコストに利益を上乗せして価格を設定する。例えば、当期目標売上数量から逆算される平均コストに利益を加算して価格を決定する。企業目線の内向きの手法であるため、顧客起点の考え方やきめ細かい市場調査の重要性を忘れさせる傾向がある。

■ 競争に基づく価格設定
 ┗ 競合他社の価格に近い価格を設定し、他社が価格を変えれば、それに合わせて調整(マッチング)する。市場シェアを奪われる心配は少ないが、チキンレース(利益度外視の値下げスパイラル)が生じ、マッチング依存から抜け出せなくなる恐れがある。

■ 需要に基づく価格設定
 ┗ ターゲット顧客が、自社の製品・サービスに対して支払ってもよいと思う金額(支払い意思額:Willingness To Pay)を分析し、その上で、顧客が受容する価格を設定する。理論的には最も高い利幅が取れるとされているが、製品・サービスの差別化が難しくなっている現代では、この方法は採用しづらく、上記「競争に基づく価格設定」に収束していく可能性が高い。

参考書籍:ジャグモハン・ラジュー(著)/スマート・プライシング

4. 売上につながるマーケティング・ドライバー

さて、ここでは、これまでに見てきたマーケティング活動の各プロセスが、最終的なゴールである「売上」にどのように結びつくか、について考えてみましょう。この説明にあたっては、森岡毅さんの書籍『確率思考の戦略論』にある「売上予測モデルの理解」セクション(p.79)を参考にし、私なりの視点で整理しました。汎用性が高く、威力抜群の売上予測モデルなので、ぜひ実務で活用してみて下さい。

上図に示されるように、「売上」を規定する要素は、(A)~(I)までのビジネス・ドライバーに分解することができます。ビジネス・ドライバーとは、企業の最終的なゴールである「売上(純利益)」に影響を及ぼす「経営戦略上の重要な要素」「注力すべき項目」のことです。図の数式から分かるように、各ドライバーの数値を増加させると売上も増え、逆にどれかがゼロとなれば売上もゼロとなります。

この「売上予測モデル」を理解・実践するにあたって、以下の3点を覚えておきましょう。

 ● 自分たちでコントロールできるドライバーは何か
 ● 伸びしろ(伸ばす余地)のあるドライバーは何か
 ● 各ドライバー間の関係性(相関関係)はどうか

まずは、「自分たちでコントロールできるドライバーは何か」を見極めることが肝要です。例えば、全人口や全世帯数などの市場規模全体をコントロールすることは不可能ですが、前述したS/T/Pの戦略を用いれば、ターゲットとしている市場のポテンシャルを大きくすることは可能です。一方で、年間購入率や購入回数の向上は、企業側の努力だけでは難しいでしょう(例えば、シャンプーの購入回数を考えた場合、年間1人当たりのシャンプー使用回数(消費量)はおよそ決まっていますから、その量をコントロールすることは不可能ということです。毎日3回シャンプーしましょう、なんて提案は現実的にあり得ませんからね)。

また、認知率や配荷率がすでに9割を超えている状態であるにも関わらず、それに注力することはあまり合理的ではありません。重要なことは、各々のドライバーの「伸びしろ(伸ばす余地)」を定量的に分析した上で、限られた経営資源を最も効果的なところに配置するということです。それぞれのドライバーの数値は日々変化するものですので、定期的に振り返りを実施し、全体をチューニングすることも必要です。

各ドライバー間の関係性(相関関係)」という表現は少し難しいかもしれませんが、これは、各ドライバーがどのように相互に影響を与えるか、つまり、シナジー(相乗効果)を把握することが大切だという意味です。例えば、配荷率が上がると、認知率も向上しやすいとは容易に想像できますし、過去購入率にも物理的に影響を与えることでしょう。このように、他のドライバーへ波及する影響も考慮に入れた上で、どこに注力すべきかを判断する必要があります。

下図に、これまでに整理したマーケティング活動の各プロセスと各ドライバーの関連性を整理します。

5. まとめ

本記事を最後までお読み頂き、ありがとうございました。
今回は、私なりの視点から「マーケティングの基礎知識」を整理し、はじめの一歩を踏み出すための道標とすることを試みました。この記事を締め括るにあたり、全体まとめのマインドマップを作成しております(ダウンロード可 or 画像タップで拡大)。

※内容は、個人の意見・見解です。書籍や論文などを参考にしながらまとめていますが、多くの部分では、自分自身の言葉に変換し、デフォルメし、比喩を用いたりしています。後学のため、もし誤りなどを見つけられた際は、コメントなどで教えて頂けると有難いです!

6. 参考書籍


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