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ローカルとローカルを繋ぐスカのリズム――TOP DOCA(こだまレコード)インタヴュー

インタヴュー・文/大石始
写真/大石慶子

静岡から一枚のレコードが届けられた。封を開けると、インクのほのかな匂いが鼻をついた。シルクスクリーンで印刷されたジャケットは、たった今印刷所から上がってきたばかりという艶やかな光沢を放っている。レコードに針を落とすと、温かなスカのリズムが鳴り始めた。

こだまレコードの『こだまレコード1』。このLPは2015年から2019年にかけて同レーベルからリリースされた12枚の7インチシングルからコンパイルされたもので、「ジャマイカン・オールディーズの知られざる名曲を日本語でカヴァーする」というレーベルコンセプトに沿った12曲が収められている。

2021年2月15日に発売されたシルクスクリーンジャケのファーストプレス(限定500枚)は早々にソールドアウト。その後発売されたセカンドプレスもあっという間に店頭から姿を消した。いずれのヴァージョンもこだまレコードを主宰するTOP DOCAくんのこだわりが隅々まで形になっており、音はもちろんのこと、デザインや印刷に至るまで、少々クレイジーなまでのこだわりがスパークしている。

収録アーティストは北海道、秋田、東京、神奈川、名古屋、京都、大阪、そしてこだまレコードの拠点である静岡と、拠点とする街はさまざま。東京で活動していたものの、家庭の事情などで地元に戻った人もいる。DOCAくん自身はもともと東京の出身だが、2008年に静岡県富士市に家族で移り住み、現在、DOCAくんはとある寺で副住職をやっている。その一方でこだまレコードを運営し、地元のベテラン・スカ・バンド、THE SIDEBURNSのドラマーとしても活動、さらにはセレクター(ジャマイカ音楽ではいわゆるDJのことをこう呼ぶ)としても活動している。

年齢を重ねると、誰もがさまざまな事情から音楽活動を続けにくくなる。子育て、親の介護、自身の健康問題などなど、若い頃には想定もしていなかったような障壁が立ちはだかるだろう。だけど、東京にいなくたって、こうやって音楽活動は続けられるはず――DOCAくんはそのことを(本人がめいっぱい楽しみながら)証明しているようにも見える。

ネット上でデータを交換することができて、なおかつネット上で音源を発表することができる今、必ずしも東京や大阪などの都市部だけに集まる必要はない。もちろんひとつの場所にありとあらゆる人々が集まることによって生まれるエネルギーは馬鹿にできないけれど、それぞれの日常(あるいは人生)に近いところで、それぞれのやり方で音が鳴らされたっていいはずだ。

DOCAくんとその仲間たちを見ていると、レペゼン●●という強烈な地元意識を持っているわけでもないように感じられる。自分たちの地元で、気の合う仲間たちと音を鳴らす。子育てや仕事と無理なく共存する音楽活動のかたちを探りながら、彼らは暮らしと自然に溶け合う音を奏でている。僕の目にはそんな彼らの姿が、音楽で結びついた青年団のように映るときもある。そして、そうした音楽のあり方に、ぼくは可能性を感じているのだ。

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●週3で静岡から東京に通う日々

――こだまレコードを立ち上げた経緯を教えてください。

TOP DOCA:5、6年前、Keishi Tanakaのリミックスを作る話がきたんですよ。そのときはKeishiから声だけもらって、THE SIDEBURNSでオケを別に作り直したんです。「こういうやり方で自分でも作品を作れるな」と思って、自分でオケを作ってアスキー(asuka ando)に歌を入れてもらいました。

――それが2015年に出た「ウラハラ」。

TOP DOCA:そうですね。僕が以前やっていたmule trainだと全部主導権を取って進められたんですけど、THE SIDEBURNSは自分のバンドではないので、こちらの都合では動かせないんですよ。あと、THE SIDEBURNSはメンバーみんな年上なので歩みが遅くて。でも、自分ひとりだったら好きに進められる。それが始まりですね。

――DOCAくんが東京から静岡に移ったのは2008年ですよね。それからもmule trainは続けていたんですか。

TOP DOCA:2014年まではやってて、静岡に移ってからも5、6年は毎週東京に行ってリハをやってたんですよ。週に3回ぐらい東京に行くこともあって、なかなか大変で。

――そうなると、なかなか続けられないですよね。

TOP DOCA:そうなんですよ。僕が東京を離れてしまったのもあるし、メンバーも年齢を重ねて子供ができたり、仕事が忙しかったりで、ライヴをできなくなってきて。みんなのテンションも下がってきて……という感じですね。ただ、今もいちおう解散はしていなくて、あくまでも休止状態ではあるんですけどね。

――生活環境が変わる中で、活動を続けられなくなるというのはみんな同じですよね。それこそDJでも続けにくくなってくる。

TOP DOCA:しかもスカバンドってメンバーが多いじゃないですか。何人か抜けただけでみんなのテンションが下がっちゃうので、10人なら10人全員の気持ちをキープするのはなかなか難しい。それはしょうがないと思います。

●日本語の言霊を各駅停車みたいに届けていく

――こだまレコードは2015年にスタート後、コンスタントにリリースを重ねていくことになるわけですが、レーベルのコンセプトについてはどう考えていたんですか。

TOP DOCA:僕はもともとセレクターなので、いろんな曲を聴いているわけですよ。ジャマイカン・ミュージックのなかにはほとんど知られていない名曲もあるんですよね、レア盤でも普通に安いレコードでも。mule trainのころからそういう曲をカヴァーしてたんですけど、こだまではジャマイカのオールディーズの埋もれた名曲を日本語でカヴァーしたら面白いんじゃないかと思っていました。

――静岡発という意識は最初からあった?

TOP DOCA:いや、最初はなかったですね。ただ、後付けでいろいろと考えていったというか。自分が住んでる新富士駅は新幹線もこだましか停まらないんで、これは「こだまレコード」しかないだろうと……電車が好きなんですよ(笑)。あと、こだまレコードという名前には「言霊」もかけてあるんですね。ひとつひとつの街の音と日本語の言霊を、各駅停車みたいに届けていく、そういうコンセプトもあるんです。

――リリースするアーティストの人選についてはどういうこだわりを持っているんですか。

TOP DOCA:ほとんど友達を誘ってる感じなんですよ。同世代や下の世代をフックアップしていくような感じもあるし、レーベルコンセプトに合った人を選んでる感じですね。

――スカのシーンがすごく盛り上がっていた2000年代前半ぐらいからの付き合いの人たちが多い?

TOP DOCA:そうですね、多いですね。

――当時の状況と現状を比べてみて、DOCAくんはどんなことを感じますか。

TOP DOCA:確かに2000年初頭は毎月スカのコンピが発売されたり、すごかったですよね。ただ、シーンがでかかろうが小さかろうが、好きな人はただ変わらずやってるだけなんですよね。当時流行ってるから乗っかってきたという人もいるだろうけど、そこで本気だったやつは多分今も残ってると思うんですよ。だから、やってる方はそんなには気にしてないですね。

――みんなのペースで続けてるって感じですね。

TOP DOCA:そうですね。スカバンドって息が長いじゃないすか。THE SKA FLAMESなんて35年、それこそスカタライツなんて50年以上やってる。先輩がずっとやってるんで、僕らも同じようにやってる感じはしますね。メンバーが変わってもずっとこのまま続けたいねっていう思いがどこかにある。

●60になっても変わらずクラブに行ってると思う

――素朴な質問なんですけど、スカバンドが息が長いのはなぜだと思いますか。THE SIDEBURNSにしても名古屋のTHE RUDE PRESSURESにしても秋田のThe KING LIONにしても、どれも活動歴が長いですよね。

TOP DOCA:やっぱりスカタライツがいるからですかね。今やオリジナルメンバーはレスター(・スターリング)しか残ってないけれど、バンドは続いてますしね。スカパラもメンバーが亡くなっても続けている。だから、みんな「めざしている」というより、そういうものだと思ってるんじゃないですかね。

――みんなめちゃくちゃスカが好きなんだけど、「これで大儲けしよう」とか「これで世間に認められてもらおう」みたいな欲求とは違うところで音楽を続けている感じがするんですよ。

TOP DOCA:確かにそうですね。ま、オーセンティックなスカをやってる以上、いくら売れても天井が見えてますからね(笑)。夜遊びに行ってクラブで騒いでという昔のINKSTICKの延長でやってる感じというか。THE SKA FLAMESにしても年に何回かしかライヴをやらないけど、みなさんバンドとは別の仕事をやりながらTHE SKA FLAMESを続けている。そのスタンスですよね。

――そういうやり方を先輩たちが見せてきたことによって、自分たちもこういうやり方だったら音楽活動を続けられるんじゃないか、そういう勇気を与えられてる部分もありそうです。

TOP DOCA:そうですね。二足のわらじというか、生活しながら趣味の音楽をやるというスタンスというか。スカは儲かる音楽でもないし、ロックスターになれるわけでもないんだということは分かってるし、その意識はみんな一緒だと思いますね。

――日本って趣味としての音楽活動はある時期に卒業しなきゃいけないという風潮があるじゃないですか。

TOP DOCA:まだバンドなんかやってるの?という。

――そうそう。でも、それって文化的にものすごく貧しいと思うんですよ。ヨーロッパだったら70代80代の高齢者がサウンドシステムに遊びに行って、午後のひとときを楽しんで家に帰るという人生の楽しみ方があるわけじゃないですか。

TOP DOCA:はい。

――日本だと歳をとるとゲートボール場みたいな何か違うところに行かなきゃいけない。でも、僕らがずっとやってきたクラブ遊びみたいなことをおじいちゃんおばあちゃんになって続けたっていいわけじゃないですか。DOCAくんの活動はそういう未来像に向かっているようにも見えるんですよ。

TOP DOCA:なるほど。何も考えず、ただ好きなことだけをやってるだけではあるんですけどね。音楽業界の人も同じような年齢の重ね方をしてるんで、60歳になってもそんなに変わらない人も多いですよね。大貫(憲章)さんもこの間で70歳になられたし。僕も60になっても変わらずクラブに行ってると思いますし、芯を持ってる人は同じところでずっと遊んでいる気はします。

●レコード愛を見せたかったんですよね

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――リリースしているアーティストは日本全国いろんな場所に分散してますよね。音源は通常どういうやりとりで制作しているんですか。

TOP DOCA:僕の方でオケを作って「これに対してちょっと歌ってみて」とデータを送る感じですね。日本語の歌詞がないものもあるので、もともと歌詞を自分で書いている人であればその人の世界観で書いてもらったり。そこに対して「ここはこうしませんか」と注文したり。

――そういうやりとりも電話なりメールなりでやると。

TOP DOCA:そうですね。自分が静岡にいることもあってなかなか会えないので、データ上でやりとりをしていって、最終的にレコーディングの段階で詰めていく感じですね。

――距離感はそんなに感じない?

TOP DOCA:そうですね。ウチから東京まで車で1時間半とかなんで、東京勢はすぐに会えるんですよね。e-muraさん(Bim One Production)のスタジオで歌を録音して、終わったら大井町に呑みにいくというのが定番の流れです(笑)。

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――レコードを手にして感銘を受けたのは、手作りならではの質感だったんですよ。アートワークのこだわりは尋常じゃないですよね。

TOP DOCA:めっちゃ大変でしたよ(笑)。最近、大手(レコード会社)が昔の音源の復刻を乱発してるじゃないですか。別にアナログで出さなくてもいいのにって思うものも出してて、しかも高いし、ジャケもペラペラだったり……あんまり言うとアレですけど(笑)。レコードブームに乗っかってきてるなという感覚もあって、そこに対してレコード愛を見せたかったんですよね。「俺だったらこだわって作るぞ」っていう。だから、もう本当にひとりよがりですよね(笑)。

――ビニールからインナーを出しただけで、インクの匂いがするわけじゃないですか。モノを触ってるっていう実感が、指の感触からも嗅覚からも伝わってくる。

TOP DOCA:データで聴くのとは違うワクワク感ですよね。手に取ってもらって、盤を見ながら聴く。そこをやっぱ体感してもらいたいですね。今回は帯も全部別のところで作って、手作業で組み合わせたんですよ。東洋化成には全部を任せてないんです。もともと印刷屋にいたので、ステッカーもインナーも別々のところに発注し、自分で貼ったり入れたりして。紙スリーブへのスタンプとナンバリングも自分でやりました。

――そっか、DOCAくんはもともと印刷屋だったのか。印刷のプロですもんね。

TOP DOCA:そうですね。だから、デザインも全部自分でやってるんです。

――そういう部分も含め、レーベル運営自体をDOCAくんがすごく楽しんでることが伝わってくるんですよね。

TOP DOCA:やっぱり仕事じゃないってのがいいっすよね。誰かに言われてやってるわけではないので、何でも自分が好きなようにできる。ジャケも収録曲も、それこそ納期もないのでいつ発売でもいい。

――人生の楽しみ方としては、すごく贅沢ですよね。70代とか80代になったって続けられるわけじゃないですか。長く続けていきたいという気持ちはありますか。

TOP DOCA:そうですね。ただ、ひとつひとつじっくりやっていきたいと思ってます。長く続けることが目標というより、今が楽しいからやってる。趣味をこうやって形にできるだけで幸せだと思ってます。

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左が限定のファーストプレス(赤のカラー盤)、右がセカンドプレス(一色版盤、黒盤)。ちなみに現在はサードプレス盤の色違いジャケもあります

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DOCAくんはこだまレコードと別に12インチのディスコミックスシリーズも始めている。一枚目はMaCWORRY HILLBILLIES「忘れられないさ」とTHE SIDEBURNS「FUJIYAMA FEVER」の2曲を静岡のDJ Carneyがリミックス。限定200枚ということもあってこちらもすぐさまソールドアウトしてしまったようだ。DOCAくんによると「もともと僕はテクノをやってたんで、そっちの仲間にもリミックスをお願いしたり、全国的な感じで考えてます」とのこと。もちろんこだまレコードの制作もあれこれと進んでいるようだ。

こだまレコード
http://www.kodama-records.com/

こだまレコードBASEページ
https://kodamarecord.base.shop/

TOP DOCA
50~60年代のジャマイカン・ビンテージミュージック専門家。スカバンド、ミュールトレイン(東京) / ザ・サイドバーンズ(静岡)のドラムを兼任する。 地元富士で開催している”スカシャッフル” with SOUND SYSTEMのオーナーであり、セレクターとしても全国に渡りプレイをしている。

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世界各地の音楽・地域文化を追いかけるライター。旅と祭りの編集プロダクション「B.O.N」。著書・編著書に『奥東京人に会いに行く』『ニッポンのマツリズム』『ニッポン大音頭時代』『大韓ロック探訪記』など。最新刊は2020年末の『盆踊りの戦後史「ふるさと」の喪失と創造』(筑摩選書)