2022/12/18

出会いは突然だった。学校の屋上で一人、ぼーっと空を眺めていた。
「何見てんの」
背後から男に声をかけられた。声の主は分からなかった。聞き覚えもなかった。教室では常にヘッドホンをして周りの音を遮断している。不要に話しかけられるのが嫌いだからだ。そういうスタンスで生きているから、私に声をかけてくる人間なんて、担任くらいしかいない。
屋上にはほとんど人が来ない。私たち三年の教室があるのが南棟の一階。わざわざ今使用されていない北棟の四階まで足を運ぶのは、一般生徒には面倒なことだ。人気のない屋上でヘッドホンを外し、外界との接触を図る。鬱屈した学園生活のなかで唯一開放される場所。そこを誰かが邪魔しに来たことに私は多少の怒りを覚えた。
「別に」
声の主の方には振り向かず、すぐさまヘッドホンをして、また自分の世界に没入しようとした。
しかし、ヘッドホンを掴もうとした私の手首を、男は無理やり握った。
「なぁ、お話しよう、弥子ちゃん?」
そいつは若干の猫なで声で私の名前をよんだ。そこで初めて私は彼の顔を見る。
髪は校則に明らかに引っかかっているような明るい金髪。軟骨にピアス。眉毛は一時代前のギャルよりも細く剃っていた。制服は着崩し、ネックレスを5本くらいつけている。
こいつが誰だったか思い出そうとして、そいつをよく観察していたら、そいつは私の目を覗き込みにやにやしながら言った。
「なぁに、そんなにじろじろ見て。もしかして、俺に、ひとめぼれ?」
「は?そんなわけないでしょ。そもそもあなた誰ですか」
「え、もう三年間も同じクラスなのに、俺の名前すら知らないの?いやぁ!まいったね!弥子ちゃんが人に興味ないことは分かってたけど、クラスメイトもわかってないのかー」
「うちのクラスに、こんな見た目が終わっている人間はいないです」


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