マガジンのカバー画像

南アルプスを目指して

6
南アルプスの仙丈ヶ岳を目指して、砂丘で出会った友人と一緒に山を登る
運営しているクリエイター

#南アルプス

静かな夜明け、それは音さえ眠ったままの世界【2012.08 仙丈ヶ岳】

それはそれは静かな夜明けだった。地上の音は宇宙から贈られた真空のベールをかぶり、安らかな眠りについているかのよう。手の届く距離に宇宙があるような、そんな場所に人は立ち、音が宙に吸われていく様を見届ける。どう足掻いても真空空間には決して届かない音たちを尻目に、太陽の光はすべてを突き抜けていく。大地を色鮮やかに染め上げ、朝を告げて回るのだ。いつしか真空のベールは舞い上がり、静寂の住人である星たちは、誰にも悟られることなくひっそりと姿を消していく。風は轟々と騒ぎ立て、雲は踊り囃し立

南アルプスの女王への旅路をポンポン山から始める【2012.02 ポンポン山】

またいつかいつか、そう想っているだけでは何も起きないことに気づいた大学の冬。教室に行けば先生がいて何かを教えてくれ、グラウンドに出れば練習ができる、その場に行けば誰かが施しをしてくれる環境にはもう戻れない。そうやって南アルプスの女王、仙丈ヶ岳を目指すことにした。 森林限界を超えて、稜線を縦走する。甲斐駒ヶ岳や鳳凰三山を横目に見ながら、太古の氷河の痕跡、藪沢カールを目指す。アルプスを表現する言葉には日常離れした言葉が連なる。言葉との距離はそのまま日常との距離であり、その言葉を