映画がもたらした人生を少し変えた出会い


まさに「骨抜き」にされた映画を見た。

役所広司さんが主演の「孤狼の血」だ。

何か映画を見ようと思い映画情報を調べていた時にふと目に入った武骨で男臭いビジュアルのポスターが目に焼き付いた。

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画面越しでも漂ってきそうな「汗」と「煙草」の匂い、平成生まれの自分が知るはずもない「昭和」を感じずにはいられなかった。

映画は開始から5分位で「なんやこれ」と思わず目を背けたくなるようなシーンがあったが、きっとあれは「孤狼の血」という作品からの「洗礼」だったのだろう。

怖いもの見たさにも似たような感情で目をそらせなかった冒頭のシーン、そこで確実にこの作品に胸倉をつかまれたのだと思う。

気が付けばエンドロールだったし、なんなら作品を見ている間の126分間、私は作中と同じ昭和63年の広島にいて実際に彼らを肌で感じていたんではないかと錯覚すら覚えた。エンドロールを見終わった後も余韻が体と心にまとわりついて離れなかった。

その中でもゆらゆらとじっとりとまるで青い炎で燻されているような気持ちにさせられた役者さんがいた。強烈な存在感を放つ永川恭二役の中村倫也さんだ。

決して出演している時間が長いわけではないのに作品に無くてはならない存在に成っていた中村倫也演じる永川という男。目は血走り薬に溺れる凶暴なヤクザなのだが、何故かシーンには描かれていない、知るはずもない永川が頭に流れ込んできた。

そこから中村さんの出演されている作品や執筆されていた文章などを読み漁った。多くの事を提示しているはずなのにまるで核心は掴ませない。「知りたい」という欲求をまるで満たし切ることの出来ないその存在感は役者としての中村倫也さんと彼が演じる役の共通点のように思えた。

知り得ないからこそ自分で「こうなのでは」と考える余白が発生する。中村倫也という役者を知ってから映画やドラマそのものの見方が自分の中で大きく変わった。

表面にあるもののその奥、またその奥、を探すようになったからかもしれない。更に作品を見る楽しみや、見終わった後に心に残るものが増え、胸が高鳴った。

今こうして拙い文章を書く様になったのも、あの時孤狼の血という映画を観て、その作品の役に、その役者さんに、深く感銘を受ける事が出来たからだ。

これからも沢山の映画や音楽、そしてそこに携わる人から感銘を受けて自分の感性も研ぎ澄ませていきたい。

いつかこの拙い文章すらだれかの心の琴線に触れる日を願って。


#テレビブロスマイベスト2021


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